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リベンジマッチ① 彩羽ヨイショ祭り と 異常性癖人間が生まれた日



 モリドール家のデッキに座り、目の前の教材を見つめながら。

 俺は頭がおかしくなりそうだった。

 目の焦点は教科書に合ってはいない。

 そんなものは既に見ていないから。

 

 考えれば考えるほど欲望が深くなっていった。

 これは何なのだ?

「ああああああああ!」

 頭を掻きむしった。


「どうしたの?」

 モリドールさんが心配そうに声を掛けてきた。


「いえ。なんでも。少し問題が難しくて」


「そ、そう。教えてあげようか……」

 モリドールさんは教科書を覗き込むと、

「あ。教えるほど知識なかったわ」

 そう告げると、挙動不審になる。


「いえ。いいんです。少し頭を冷やしてきます」

 俺は立ち上がると。


「そ、そう……」

 モリドールさんは元気なく、そう返答した。


 最近モリドールさんは元気がない。

 それは気掛かりだった。

 彼女の事だ。

 きっと職場で風当たりが強いのかもしれない。

 がんばれ。

 社会人。

 今度モリドールさんを元気づけよう。



「はぁ……」

 夜風に当たり、頭の余熱が冷めると、

「こんなにも彩羽を求めるなんて」

 彩羽を仲間に加えたくて、加えたくて仕方がない人になってしまっていた。

 これはもはや恋に近い感情。

 恋なんてしたことねーけど。

 そう、例えるなら。

 超絶レアキャラのガチャを引きまくっても全然出ない。

 その焦燥感に非常に似ているのだ。

 全然出ないと余計に欲しくなる。

 そんな感情。

 断られて断られて。

 もはや、やけに近いレベルで俺は彩羽を仲間に加えたいのだ。

 そして俺の片翼になって欲しい。

「はぁ~」

 俺は彩羽が欲しい。

 欲しすぎた。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 俺と彩羽は、残飯みたいな、それでいて、ご飯を粗末にするような、特定の層に人気なラーメン屋に来ていた。

 人はそれを三郎ラーメンと呼ぶ。

 三郎ラーメンを二人ですすっていたのだ。

 


 

 俺は箸を置き、食事をひと段落済ませた。

 彩羽は未だに山盛りの三郎ラーメンと格闘していた。

「彩羽さんって。美少女だよね」

 俺は一言彼女をヨイショした。

 

 とりあえず、美人、美少女と言っておく。

 これが枕詞。

 外見を誉める。

 そこから内面も誉めるのだ。


「それに聡明であらせられる。真の美とは頭脳にも宿るのか。

 それにとてもお優しい。

 こんな木っ端な雑魚とも仲良くしてくれる。

 可憐で優雅。

 頭脳明晰。質実剛健。良妻賢母。

 神は罪作りな存在。

 完璧という言葉を産み出してしまったのだから。

 きっと辞書にはこう載るだろう。

 完璧とは彩羽千秋であると

 」



「馬鹿にしてる?」

 彩羽は、一度ラーメンをすすり終えるとそう一言。


「え?」


「バカにしてるよねそれ」


「は? する訳ないじゃん。本心だし」

 大嘘だけど。


「ふ~ん。じゃあ」

 彼女はカウンターの横に座る俺に向かって、ふうっと鼻筋に息を吹き掛けてきた。


「うッ」

 俺は眉をひそめた。

 ニンニクの臭い。それも強烈なやつ。

 鼻をつく胃が腐ったような臭い。

 その中に(こう)ばしい香り……いや、()()()がした。

 あれ?

 なんだこれ?

 電撃が脳内に走った。

 なんなんだこれ?


「どう?」

 彩羽はニヤリと俺の方を見て口角を上げた。


 俺は努めて。

 なんとか感情を押し殺して。

「ご褒美なんだが」


「キモ」

 と一言。

 彩羽は軽蔑するような目線を寄越すと、拳ほどの油滴るチャーシューにかぶりつく。

 150センチほどの華奢な身体なのに、隣でモシャモシャと三郎ラーメンを食していた。


 あれ? なんだ。この感覚。

 もう一度聞きたい。

 これは確認作業。

 証明には分析が必要。分析材料が必要なのだ。

 あくまでこれは研究。

 "研究者俺"としては、この研究を放り投げるなんて出来ない。


「もっと言ってくれ」


「キモキモ」


 あれ?

 この感覚。

 一体なんなんだ?

 なんだか少し……

「最高だわ。ASMRで売れるわこれ」

 特定の層に需要があるのかもしれない。


 ちょっとだけ興奮した。


「ごめん。もう一回言ってくれ」

 これは確認だ。

 まだ判断材料が足らない。


「キモキモキモキモ」

 彩羽は飯を食いながらキモを連呼した。


「あれ? 気持ちよくなってきたぞ」


 不思議な感覚が身体を支配していた。

 とても清々しい。

 脳みそが活性化するような。

 鼻から風邪薬を飲んだような感覚。


「すまん。もう一回言ってくれ」


「キモキモキモキモ死ねキモキモキモキモ」


 頭の中を謎の快感がほとばしった。

 覚醒しそうになった。


「ありがとう。もう充分だわ」

 キモイのゲシュタルト崩壊しそうだ。

 こんな飲食店の一角で俺は、ただならぬ気持ちになりそうだったので彩羽を制した。

 危ない所だった。

 何かが目覚めようとしていた。

 死ねって聞こえたけど、気のせいだろう。


「そんなキモイ天内くん。そんなに馬鹿にしても何もでないんだけど。喧嘩売ってるよね?」


「馬鹿にしてないよ。喧嘩もしたくないよ。

 俺は優雅で香ばしい彩羽さんとマブダチだと思ってるし。

 てか、もう一回。

 息を吹きかけてみてくれ。

 少し確認したい事があるんだ。

 」

 俺は太ももフェチだと思っていたが、もしかしたらニオイフェチなのかもしれない。

 そして罵られると不思議な感覚が身体を襲う。

 美少女限定だけど。

 正直……


 ちょっと興奮した。


 キモっと一言呟いてから。

「そういえば、いつから友達に?」


「友達ですらなかっただと!?」

 俺の勘違いだったぽい。

 よくある。よくある。

 自分だけ友達だと思ってる現象。


「うん。単に席が近い人。転入したてで迷える子羊だった。そのよしみなだけ」


「近くに来たのは彩羽からじゃん」


「そうだよ。あの時はまだ少し目立つ常識人だと思ってた。

 目立つ人の影に隠れれると思ってたけど、違う意味で目立ってしまった。

 それに、もう移動する気ないんだよね。

 あそこが定位置になっちゃたし

 」


「うそだろ。おい。俺は心の友だと思ってた。仲良くしていこうぜ!♪」


「仲良くしていこうぜ、じゃないよね。で何? またパーティーの話だよね」

 彩羽はニンニクマシマシの太麵をズズズとすする。


「ああ。それね。仲間になって♪」


「嫌」


「なんで?」


「それはねぇ。悲しいぐらいキモイからかな♪」


 なんだよ。ふざけんなよ。

 俺はただ、太もものモッチリ感に包まれたい、

 太ももの農園で優雅に暮らして農耕したいと思ってるよ。

 一富士二鷹三太ももって言うぐらいだし、太ももは縁起物だしな。

 そこで太ももに挟まれながら熟睡したいし、太ももに囲まれて老後を迎えたいと思ってる。

 沢山の太ももを収穫してそこで幸せになる。

 太ももパークの園長になるのが夢なのは認めるよ。

 人の夢は終わらねぇからな。

 

 それにちょっとだけ罵られると、ほんの少しだけ。

 いや、ほんのちょっぴり興奮するだけの至って健全な思考と一般常識を兼ね備えた人間だよ。


 あの、もう一回キモイって言ってくれんか。

 それと、もう一度……もう一度だけ。

 息を吹きかけてくれ。

 確認したい事がある。

 これも重要な事だ。

 重要な証明。

 近代の天才科学者モッチリ・フトーモが残した命題の一つなんだ。

 頼むよ。


 あと、俺はキモくない。

 断じて。

 キモい訳ないじゃん。

 俺は研究者なんだ。

 」


 彩羽は、『はぁ~』っと大きくため息を吐くと。

「黙ってればまだマシなんだけど。

 ホントに残念人間だよね。

 キモ人間。いいや。違うな。

 ゴミ人間だった。ゴミ人間のボス?」


 証明終了。

 これは娯楽だ。

 彩羽に罵られるとなんだか心が……満たされる。

「たまんねぇな。おい! そんなに褒めるなよ」


「褒めてねぇよ!」


「彩羽っていいよね。なんか。こう、俺のツボなんだよね」


「何を言ってるんだか」


「でも、キモいと言いつつも喋ってくれるし、飯も一緒に食いに行ってくれるじゃん」


「それね。タダ飯にありつこうかと」


「おじさん奢っちゃう。仲間になってよ。パーティー組もう。そして真の姿を見せてくれ」


「何を言ってるのやら。私は雑魚。劣等生」


「ウソツケ」


「何のことやら」

 彩羽箸を置くと。

「では、行きましょう」


「もう野菜マシマシ、ニンニクマシマシ、麺マシマシを完食とは流石だ」


「どうも」


 ・

 ・

 ・


「送ってくよ」


「別にいい」


 そんなやりとりをしつつも、俺は彩羽の住む寮へと一緒に歩いていた。

 辺りは既に日が暮れていた。、

 学園領に入ると徐々に人は減って行き。

 ここだ。と思った。

 人通りはなくなり、広すぎる領地でなら……

 強硬手段を取れる。

 早く仲間を確保したい。

 

 だから俺は。


「霧が出てきた」

 辺りには霧が漂い始める。

 正確には俺と彩羽の間での極めて小さい範囲でだ。

 これ以上の拡散は俺には不可能だ。


 他の人間に俺と彩羽を視認させない為、霧魔法を展開していた。


「…………彩羽」


「何? キモ()くん」

 前を歩く彩羽はそう返答した。


 俺はアーツで訓練用の木剣を取り出し。

「……バレット……」

 彩羽に木剣を投擲した。


「!?」

 彩羽は目を見開き振り向く。


 木剣は運動エネルギーを歪められたかのように、あらぬ方向に弾き飛ばされて。


「何をしたの?」

 彩羽は今までにない声音。

 眉間に皺を寄せ、俺を凝視していた。

 

「俺のコードネームはファントム。人は†DEATHエンジェル†と呼ぶ」


 俺は8つの異なる魔法を付与した8本の武器を背に浮遊させる。

 それを見せつけて彼女に再度問いかけた。


「俺の仲間になってくれないか? 氷結ストロンゲスト(強者)


 かっこいい。

 俺は彩羽にコードネームを与えた。

 氷結ストロンゲスト。

 かっこよくないだろうか?

 チューハイっぽい名前だがこの世界にはないし大丈夫だろう。


「一体……貴方はまさか……あの時の……」

 彩羽は眼鏡をワナワナさせ震え始める。



「We are Legends! 

 俺達はこの世界の悪と戦う。

 誰にも称賛されない。過酷な旅路。見返りは平穏な日常。

 俺達ならできる。

 一緒に戦って欲しい。

 お前の力が必要だ。この世界にはお前の助けが必要だ。

 」


 俺は手のひらを広げ彼女に手を差し出した。


「俺と共に世界を救わないか?」

 


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