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その優しさは時に罪となる


 この世で唯一平等なモノ。

 それは死と時間だ。

 この2つは全ての生きとし生けるモノにとって常に付き纏い、常に平等。

 だからこそ。

 最も尊いと俺は考えている。


 ・

 ・

 ・


「チッ」

 俺は舌打ちした。

「ひどいな」

 俺はファントムになり、再びこの闇に潜り込んだ。

 今の俺なら可能だ。

 少なくともここを破壊できる。

 次は端役(モブ)を助けに来た。

 準備は不完全だが、あまり時間を掛けすぎるのは癪だ。

 故に信条を優先して来た。



 人身売買のオークション会場。

 筆舌し難い場所だ。

 俺はここが嫌いだ。

 人間を物のように扱う。

 人気商品と呼ばれるモノは若い女と整った容姿をした子供だ。

 これらは変態共に売買される訳だ。

 気色の悪いポルノで性器が使い物にならないほどいじめられる。

 未成熟な子供と(じじい)(ばばあ)とのポルノ。

 ケモノやモンスターとの獣姦や蟲姦モノ。

 もはやなんでもあり。

 待ってるのは凄惨な死。


 男は労働奴隷や臓器売買の為の道具になる。

 もしくは人体実験のモルモット。

 拷問などの遊び道具だ。

 これも待っているのは(むご)たらしい見るに堪えない死だ。

 

 ここの胴元共を処す。

 ただそれだけだ。


「さてと。では暴れますか」

 俺は新技でこいつらを処す。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「貴様は何者なのだ?」

 血まみれの男は俺に問うた。


「私はDEATHエンジェル。ファントムである」


「……フハハハハハ。いいだろうファントムとやら。貴様になら我が本気を見せそうだ」

 男は懐からアンプルを取り出し、その中身を注射すると身体がみるみるどす黒くなって膨張していく。



 どうやら本気というモノを見せてくれるらしい。

 

 悪魔。

 魔族と呼ばれるモノの亜種。

 人を魔人に変化させる偽魔人を作り出す薬品。

 この世界を壊す癌。

 

 それは体内のAUG、mRNA、開始コドンとか終止コドンとか呼ばれる何かの情報を改ざんし肉体を変化させ、超人的な、悪魔的な肉体と異能を得るこの世界のチートだ。

 つまり遺伝子情報を書き換えている……らしい。

 

 俺も詳しくは知らん。

 そういう設定だし。


 COR。世界を蝕む犯罪ネットワーク。


 ―― Council Of Renegade ――

 

 と呼ばれるマニアクス(狂人)3人を要する危険な組織。


 殺人、人身売買、薬、売春、武器製造販売、テロリズム、戦争や内乱の煽動。

 そして生物兵器……

 人を人外に変化させ傀儡殺戮兵器(偽魔人)に変貌させる反吐の出る薬物の蔓延。

 などなど、何でもありの超巨大犯罪ネットワーク。


 その組織に属する、ほんのちょっぴり権力のあるクソみそを処しに来たのだ。

 そろそろこの組織のクソみそ共の掃除も必要なのだ。

 


 さて、今の俺ならこの怪物くんを、ぶちのめせるだろう。

 残念ながら処する訳だが。

「いい夢見ろよ」

 俺は眼をギラつかせ、舌なめずりした。



 怪物が実は人間でした。

 『人間なんて殺せない!』とかいう、よくある葛藤。

 あれは当初はあった。

 それはわかる。その気持ちはわかる。

 何度も言うが殺し合いなんてのはまっぴらごめんだ。

 しかしだ。

 古今東西、心優しき主人公くんはこの葛藤で悶々と数日あるいは数週間以上鬱々とするが、俺はそんなものはない。

 


 << その優しさは時に罪となる >>


 

 そんな事は時間の無駄だ。

 悩んでる時間が無駄。

 時間は非情だ。

 待ってくれない。

 1秒前に救えた命のともしびを見逃す事になる。

 俺はそんなヘマはしない。

 迅速果断。

 決断は拙速に行う。

 


 これは戦争だ。

 世界の命運を懸けた決戦でそんな綺麗ごとは通用しない。

 俺も命を懸けている。

 そもそも死ぬ覚悟がなければこんなイカれた決戦に出向かない。

 

 平穏な日常を送りたいなら、清廉潔白に生きたいなら。

 適当に生きて布団の中にくるまってればいい。

 嫌な事から目を背け、良い面だけ見て生きて行けばいい。

 そんな生き方があってもいいとも思う。

 少なくとも俺は彼女達(メインヒロイン)

 マリアや小町にはそういう生き方を送って欲しいと思っている。

 


 でも、残念ながら俺にはそれが出来ない。

 未来を予期する者として。

 この世界に招かれた者として。

 放り出す訳にはいかない。

 

 


 俺はこの吐き気のするオークション会場に来るまでに何人も黒服くんをぶち殺した。

 せめてもの慈悲の為に一撃で処した。 


 俺はもう後戻りできない。

 この世界を救うと、ヒロイン全員を笑顔にすると決めたのだから。

 俺は俺のエゴの為に多くの命を天秤に掛けぶち殺す。

 それだけだ。



 男は肉体が2メートル、3メートル、4メートルとどんどん肥大していく。

「すげぇ」

 そんな感想しか出ない。


 この世界は質量保存の法則を完全に無視している。

 それをツッコむのは野暮だ。


 自然科学の申し子たる俺の推測だが、そこら辺に漂ってる粒子とか原子的なモノを吸収してるんじゃないかと解釈してる。

 物質は熱量に還元されるんだし、熱量となったエネルギーをタンパク質的な何かに可逆圧縮して体内に取り込んでるんだと思う。

 俺も何を言ってるのかよくわからないが。

 まぁそんなとこだろう。

 知らんけど。

 この魔法の世界で自然科学の世界の常識なんてとっくの昔に通用しないしな。



「私も見せてやろう。新技というモノを」

 エクストラバレットを改良した新技。

 メガシュヴァにはなかった技。

 このリアルの世界でより洗練させた技を俺は完成させた。


 ファンネルという言葉を知ってるだろうか。

 端的に言えば遠隔操作型の攻撃兵器だ。


 俺は遠隔操作系の魔術は使えない。

 放出魔術も使えない。

 遠距離武器も勿論使えない。

 俺は白兵戦武器しか使用できない。

 それは潜在性の問題であり、これを覆すには一つしかない。

 チート。

 チートとは非常に便利だ。


 つまり裏をかけばいい。

 ファンネル弾幕。

 俺の名付けたトラッキングバレット(追尾する武器弾幕)


 これを白兵戦武器判定にしてしまえばいいのだ。

 からくりは弾幕に極小の糸をくくり付けているという単純なモノ。

 つまり判定としては俺は武器を持っている事になる。

 その射程の如何に関わらず、糸が伸びる限り俺は武器を持って戦っている事になる。


 そしてこれを開発した経緯は彩羽対策からだ。

 そこから着想を得た。

 奴の固有(ユニーク)スキルは飛び道具攻撃や放出魔術による攻撃が絶対に当たらないというモノ。

 これに対抗する為に作り出した技でもあるのだ。



 武器自爆により火力上昇は狙い辛くなるが、操作性や射程を向上させた技。

 操作性と射程、そして何より自身に対する防御への使用を加味したトラッキングバレット。


 武器自爆による火力上昇ならエクストラバレット。

 

 この2つの使い分けができる。

 

トラッキングバレット(追尾する武器弾幕)


 俺は8本の武器を宙に浮かせそれを自身の周りに旋回させた。


「ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ」

 人でなくなった何か。

 それが地の底の唸りのような奇怪な轟きを上げた。


「悪いが、踏破させてもらうぞ」


 俺は多くの武器を、目の前の魔の物に放った。

 虹色の閃光が化け物に飛来した。



「グ―――ッ―――!」

 魔人は目の前から掻き消え、恐るべきスピードで俺の横に立っていた。

 そして禍々しい拳が俺の顔面を狙っていた。


「遅いんだよ。タコ」

 俺はそう告げると、トラッキングバレットの本領を発揮させる。


 俺の周りを旋回していた武器の数々が迫りくる拳の(あるじ)の頭上、胴体の四方八方に飛来する。

 剣と槍の雨。

 俺と拳の間には盾。

 そして俺の右手に持つ長槍は魔人の膝関節を的確に打ち抜く。


「ア――――ガっ」

 

 魔人は本能で危険を察知したのか攻撃から回避に動作を変えるが。

 俺の放った槍の一閃は回避に失敗し、右足の関節を串刺しにしていた。


「逃がさんよ」


 魔人の居た場所にはトラッキングバレットが空を切る。

 しかし、それは俺の並列思考により全て的確に管理下にある。


 ファンネル(遠隔操作武器)のように、避けた魔人を追尾する。


「これはエクストラバレットにも変化する」

 俺はそう呟き、糸を切ると。

 武器が自爆破壊すると爆風が起きる。

 

「グア?」 

 魔人は頭を丸め両手を胸と頭を守るように防御の姿勢をとり、膝を付いていた。

 足だったものが4メートルほど先に転がっており、引き千切れた足が再生し始めていた。


「フフフ。お前は何も出来ず負ける。宣言しよう。俺はこの円から一歩も出んとな」

 俺は足元に半径1メートルほどの円を描く。


「コ。コ。コ。ロス」


「はいはい。感情のなくなった化け物の一言頂きました」

 俺は肩をすくめた。

 大体感情のなくなった化け物は『オレ、オマエ、トモダチ』とか片言になるのだ。

「芸のないやつだ。再生力がある分、少々苦しむ事になるぞ。覚悟しろ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「貴様は死ぬぞ? ここで俺を殺せば。お前の家族も恋人も友人も皆殺しだ。壮絶な凄惨な拷問と死が待つ」

 悪党たる男は俺の放った武器が身体中に刺さり虫の息であった。

 肉体は萎み、髪の毛は乱れ、口から血を吐いていた。


「無論そうだろうな」

 俺は男に言い放つ。

 まぁそうならないけどな。


「はっはっは。面白い。問うていいか?」


「構わん」

 俺は無傷であった。

 この偽魔人。

 ゲームではそこそこ強かったが、クソ雑魚だった。

 俺が強くなりすぎてる疑惑すらあるほどに。


「お前は何の為に戦う?」


 俺は少し考え、

「この世を救うためと言ったら」


 男は腹を抱えて笑った。

 盛大に声を上げて哄笑した。

「安い。安いな。だが冗談には聞こえん」


「だろうな。本気だ」


「絵空事だ。困難な道のり。お前の絶望する顔が見たいよ。

 お前は狙われる。俺を殺せば。

 ここで見逃せばそれをチャラにできる。

 どうだ? 取引しないか? 俺達の仲間になれば」

 

 ここまで来て命乞いか。

 見苦しい。

 多くの絶望の上を平然と歩いてきた貴様が言うか。

 多くの希望を踏みにじって来た者がそれを言うか。

「あぁ。オッケー。それはないから。お前はプレイヤーを舐めすぎだ」


「プレイ……ヤーだと?」


 俺はファントムの喋り方を止め。

「無駄無駄。無駄なんだよ。

 死ぬ前だしお前に教えといてやるよ。クソみそ。

 あまり神の視座を持つ者(上位者)てめぇら(下位者)の尺度で測るなよ。

 非常に不快だ。

 不敬とすら言える。

 俺は世界を背負っている。

 その覚悟がある。

 単なるCOR編序盤の敵風情がこの俺に絶望などつまらん言葉を投げかけるな。

 俺を仲間に?

 馬鹿言え。あまりにもくだらんな。

 お前ら如きが……この俺を、大局的視点を、神の眼(この世を見通す眼)を持つ俺をどうにかできるはずがなかろう。

 」

 俺は邪悪な笑みを向けて男に向かってエクストラバレットを掃射した。




 

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