闇金アマチくん と 幻のシックスマン②
学園の敷地にひっそりと作られたバラック小屋。
その地下であった。
ここではあらゆる賭博が行われている。
特に富裕層の学園生に対して作られた遊技場だ。
富裕層の連中はこういう事がどこの世界でも大好きなのだ。
ここでの収益は主に2つ。
賭けを行う者同士で金を賭けさせ、
我々は場所代とゲームの取りまとめを行い、収益の数パーセントを徴収し、そこから利益を上げるというモノ。
次に学園の備品をネコババし捻出した資金を元手に、
我々胴元のイカサマルーレットとイカサマポーカー、イカサマバカラである。
俺はVIPルームに入り、マジックミラー越しに賭博場の様子を窺った。
マスカレードマスクを被った紳士淑女が賭けに熱狂している姿だ。
「フフフ。金の魔力に取りつかれた者よ。なんと哀れな事か」
しばらくすると。
目出し帽を被った集団が敬礼してVIPルームに入って来た。
彼らは俺を出迎えた。
「順調か?」
「上々かと」
カッコウ部隊の男、ピジョンoneが返答した。
「うむ。では資金の計上を頼む」
俺は鷹揚に最も重要な事を頼んだ。
「あれを持ってこい!」
カッコウが部下のピジョン共に命令した。
しばらくすると、俺の座るテーブルの上に多くの品々が並べられていく。
「ほう。これは凄いな……」
目の前にあったのは、大量の札束。
それと貴金属やアイテムの数々であった。
「で?」
で? いくらになんの?
そこが肝心なんだよ。
ピジョンoneは、おほんと咳払いし。
「これら全てを換金すれば10億はくだらないかと」
マジで!?
まだカジノを開始して全然経ってないぞ。
これは凄いな。
ニヤニヤしちまうぜ。
いかん。ポーカーフェイスだ。
「…………素晴らしい」
俺は鷹揚に手を叩いた。
そして続ける。
「カジノは儲かるが、いずれ摘発は免れない。
人の口に戸は立てられぬからな。
ここは敢えて生徒会の連中に摘発させる。
花を持たせてやろうではないか。
我々は次のビジネスを開始する
」
「「「「 おお! 」」」」
とカッコウ部隊が色めき立つ。
「それは一体?」
カッコウは恐る恐る俺に窺った。
「闇金業を開始する」
「な……なんと!?」
カッコウは驚きの声を上げる。
「闇金業に移行できるようプランを練れ!」
俺は、この場に居る全員にそう命令した。
「利子は如何ほどに?」
カッコウは俺に質問してくる。
う~ん。どうしよう。
あの漫画を参考にするか。
でも10日で5割だと不安だな。
とりあえず吹っ掛けてみるか。
「1日5割」
俺は掌を広げて5とジェスチャーした。
ホントは1時間で5割にしたかったが、
流石にそれは天文学的数字になりそうだし止めといた。
「な……なんですって!? 鬼畜すぎる!!」
カッコウは驚いていた。
そんなにおかしいのか?
まぁいいだろ。
むしり取るには丁度いい利率じゃなかろうか。
「まぁ。落ち着け。
話はまだある。
その前に、カジノの終わり。
その終わりの一番の儲けどころがある。
わかるな?」
俺はそうカッコウに質問した。
「……申し訳ございません。見当もつかないです」
「中間考査前のクラス対抗戦だ」
「「「 !? 」」」
この場に居るカッコウ部隊、総勢10名が驚きの顔をした。
「ここで一儲けさせて貰う。
ここで金持ちのボンボン共のケツの毛一本すら残さず毟り取ってやる。
俺の作戦を皆に聞かせよう。
」
「お願い致します」
うむ。と俺は威厳たっぷりに頷くと。
「まず、彼らにはクラス対抗戦に多額の金をベットしてもらう。
そして大敗北してもらう。
王族、貴族、大企業のボンボン共の資産を根こそぎ略奪する訳だ。
これは1手目でしかない。
その後がこの作戦の肝。いや……次のビジネスの話になる。
非常に重要だ。
2手目。
このボンボン共に闇金業の餌食になってもらう。
このクラス対抗戦で資産をショートさせた連中に惜しげもなく金を貸し出すのだ。
借金をさせろ。
そして。
仕送りというモノが追い付かなくなるレベルまで金を毟り取る。
仕送りが来れば債権の回収。
2日遅れれば債務は利子によって倍々で増える。
また仕送りが来れば債権の回収。
まず利子のみ回収しろ。
そして束の間の安息を与えるのだ。
もう返し終わったとな。
安息という名の希望から、まだ返し終わってないという絶望を与えるのだ。
重要なのは心を、精神を、魂を支配するという事だ。
徹底的に萎縮させろ。
債務者の心に、我々に決して逆らえぬ楔を打ち込め。恐怖という手綱を持って支配するのだ。
仮に『返せない』と寝言を言うようなら、ここでの出来事を告発すると脅せ。
悪事を全て暴露すると脅迫するのだ。
そのために敢えてこのカジノを生徒会に摘発させる。
選民思想の、エリート脳の奴らは汚点を嫌う。
その心の隙間を見逃すな。
弱みにつけ込め。
弱点を、弱みを、汚点を、羞恥を、痴態を徹底的に蒐集せよ。
それはカッコウ。
お前の役割だ。
そして最後に。
簡単に元金を返させない工夫も必要。
できるな?
妨害工作と情報収集。
」
「容易いかと」
カッコウは頭を垂れた。
「フフフ」
学園での生活が再起不能になるまで金づるにさせて貰うぜ。
そしてクソみそ共には絶望を味わってもらう。
カッコウは、
「クラス対抗戦の決戦結果を賭けの対象にする場合。一つ問題が」
「わかっているさ」
俺は指を鳴らし、トマトジュースを所望した。
「急いで閣下にお飲み物を!」
カッコウ部隊が慌ただしく動き出し、俺の前にトマトジュースが置かれた。
「結果がどうなるかわからんという事だろう?
無論優勝候補のチームはあるだろう。
その場合。
賭けにならん。
特に生徒会の連中が居るクラスはオッズが低くなる。
その上、肝心の毟り取りができなくなるだろう。
皆、勝ち馬に乗りたがる。
公営ギャンブル場のような確実に胴元が勝つシステム。
例えば。
プールされた賭け金から一定のマージンを収益として徴収し、
残りのプールされた賭け金を勝者に配分するやり方。
これではダメだ。
それでは、胴元である我々は小銭程度しか稼げない可能性がある。
」
「その通りです」
「故に、俺の属する2年生のみをフィーチャーさせろ」
「どのようになさるおつもりですか?」
「俺の所属するクラスが優勝する。
その前に重要なのは。
扇動と情報操作が必要だ
まず俺たちのクラスが弱くみえるようにレッテル貼り。
これが必須。
そして我々のクラスに敗北してもらう獲物達にはバンドワゴンをかけろ。
獲物をより強く見せる事が大事だ。
そしてよりDクラスを雑魚に見せろ。
これで恐ろしいオッズがDクラスにかかる事になる。
いいな? ぬかるなよ。
」
俺はトマトジュースを飲み干し、ガラスのコップを音が出るようにテーブルの上に置いた。
「承知致しました」
「まず我々Dクラスが最弱であると植え付けさせろ。
そして必ず我々が勝つように画策する。
その前に他のクラスの2年生連中は勝負の前に敗北してもらう必要がある。
既に場外戦争は始まっていると思い知らせてやる。
待ってろよ。クソみそ共。
」
俺はカッコウ部隊に見えるように怪しげな笑みを浮かべた。
「フフフ」
俺はニチャァァァと嗤った。
そしてカッコウ部隊に告げる。
「マーケティングを開始せよ!
ファルコン部隊、イーグル部隊、ホーク部隊、クロウ部隊に伝令を流せ!
各クラスに属する者を集めスパイ部隊を作れ。
既に内部には腐敗した種が蒔かれているとクソみそ共に教えてやるのだ。
いいな。
これでボンボン勢力。
その中でも欲深い者は完全に破滅する。
お前達の昔年の憎しみを、まずこの者共に教えてやろうではないか
」
「「「「 ハッ!! 」」」」
目出し帽の男達は敬礼した。
俺はカッコウ部隊が居なくなると、VIPルームにて1人ほくそ笑んだ。
クラス対抗戦。
これは主人公風音は勝つ必要はない。
風音がマリアと接点を作るイベントの一種でしかない。
ここで風音とマリアは共闘関係のような間柄になるのだ。
それがきっかけで、マリアが恋に落ちるというのがメガシュヴァのストーリーに描かれていた。
つまりDクラスが勝っても、全く問題がない。
なので、今回は大きく勝たせて貰う。
資金を増強させて貰うぜ。
俺は富裕層へと這い上がる事になる。
資本主義の世界は弱肉強食。
ゼロサムゲームの勝者は1人でいい。
こと、金銭のかかった祭りならウィナーテイクオールで俺の懐を潤させて貰う。
「フフフフフフフ。アッハハハハハ」
俺はたまらず腹を抱えて大笑いした。
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帰宅の道中。
俺は薄暗い帰路で考え事をしていた。
差別と区別の違いは何なのか?
言葉遊びでしかない。
この世界には……
いや……元居た世界にもあった。
人は異質な物を排除するように出来ている。
いい意味でも悪い意味でもだ。
自分と違う。集団と違う者を排除しようとする。
そして人は、いや知的生命体は異物を虐げる器官がある。
この学園にはボンボン共の自己顕示欲を満たすため。
獣人が陰で差別されている。
いや、いじめられている。
という表現が一番近いかもしれない。
間坂イズナの妹。
メガシュヴァヒロインの1人。
"間坂イノリ"は獣人だ。
彼女を解放するという陰の目的もある。
彼女をクソみそ共から救うとな。
俺が闇金アマチくんになる事で間接的にイノリルートに干渉する事になる。
獣人差別がきっかけで引き起こる事件。
風音が学園生の持つスクールカーストや自称エリート様による選民思想に疑義を呈す事でストーリーの歯車が狂いだす事件。
それがイノリルート。
これは闇金アマチくんの手により、ボンボンを支配下に置く事で自動的に"歴史"が編纂されるだろう。
つまり、イノリルートの魔王的役割である【マニアクス】の1人を叩けばいい、というシンプルなストーリー構造に持っていける。
風音。
俺はお前のお膳立てをしてる事になる訳だ。
この世界は1人のヒロインを救済してエンディングを迎えるというシンプルな構造ではない。
全てのヒロインの問題が同じ時間軸で平行して起こっているのだ。
抱えている案件をマルチタスクで行うには因果を潰すのが手っ取り早い。
それは俺が神の視座を持つ故できる事。
フフフフ。
とは言っても。
「……それだけではない」
選ばれた者とそうでない者。
イズナもイノリも選ばれた者。
彼女達は遅かれ早かれ救済されるのかもしれない。
主人公の手によって。
それは選ばれた者だから
しかし、そうでない者はどうだ?
彼らはいつ脚光を浴びる?
いつ救済される?
端役として切り捨てられるのか?
物語に描かれなかった幾千のモブは、たった一行で救済されるのか?
たった一行で絶滅させられるのか?
「いや、違う」
それは逃げだ。
思考を放棄している。
俺はこの世界に来てわかった事がある。
脚光を浴びない者も日陰者にも感情があり、心がある。
モブが世界を作り、運営しているのだ。
この世界のシステムはモブなしに完成しない。
モブが建築し、モブが作物を育て、モブが衣服を作っている。
断じて!
モブはメインキャラを活かすためだけのシステムではない……と思いたい。
メインキャラを導くのは主人公の役目。
モブを導くのが俺の役目。
「風音は光の面を。俺は陰の面を……フフフフ。俺は影なのだから」




