闇金アマチくん と 幻のシックスマン①
まもなく同学年同士のクラス対抗戦だ。
マリアに赦されてから2週間ほど経った。
マリアとも普通に話せるようになり俺は学校に行くのが楽しくなった。
何より彼女は、かなり柔和に接してくれるようになった。
それが何よりも俺の心を楽にさせた。
しかし、近くの席に移動してきた時。
俺は正直複雑な気分になった。
これはあくまで勘でしかないが、俺は『致命的なエラーを引き起こしたかも』と懸念している。
マリアのくれた手紙? みたいなのはどっかに行った。
モリドールさんと食事をしてる時はあったと思うんだが、どこに行ったんだ?
モリドールさんはあの後から、少しよそよそしくなった。
それも気になる。
なぜだ?
手紙の中身を確認してないのはまずいが。
まぁ。いいや。
もう借金はチャラなんだし。
どうせ請求書なんだし、額を見てストレスを感じる必要もないだろう。
「彩羽の奴。全然仲間になんないしな。今度飯にでも誘ってヨイショ祭りをするしかない」
彩羽を褒めて褒めて褒めまくる。
この作戦でいこう。
とりあえずヨイショしまくればいいのだ。
これは接待。
俺の得意技"接待48手"を見せてやろう。
そんな事より。
俺は"新たな仲間"を1人得た。
モブの1人を仲間にしたのだ。
彩羽を常に勧誘してるが、首を縦に振ってくれず、やや難航していた。
そんな時、出会ったのだ。
最高の逸材に。
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俺はなぜか下級生、同級生、上級生の日陰者達の反逆の旗印になっていた。
一言でいうなら学園でも底辺の扱いを受けているモブ男子達の顔役になりつつあった。
その総数は既に100を超えている。
しかも、現在進行形で拡大の一途を辿っているのだ。
俺はいつの間にかモブを取りまとめる、【モブ連合総統】の地位に居た。
闇の組織。
日陰者の逆襲
略して【TDR】。
それが俺の名付けた組織だ。
我々は組織的に学園の備品をネコババすることで、組織は潤沢な資産を蓄え始めていた。
「閣下。闇カジノの視察に行かれますか?」
突如闇から現れた目出し帽を被った男子生徒が俺に語り掛けてきた。
「うむ」
俺は威厳たっぷりに頷く。
この男のコードネームは『カッコウ』。
闇に生き、常にモテず。
女生徒から透明人間のように扱われてきた日陰者。
遂には、妄想の中で彼女を作り出した超越者。
メガシュヴァキャラでもレアリティ1の正真正銘の外れ枠。
学園の底辺を這いずり回り、常に影と共に生きてきた。
孤高なる真に恐るべき男だ。
彼の持つ超レアスキル。
常時発動する【陰の気配】は余りにも非情。
"影が薄くなりすぎる"のだ。
『あ、居たんだ』を人生で記憶してるだけで3761回言われてきたと言っていた。
その中には勿論、親も含まれるとの事。
涙なしには語れぬ不遇の人生を送って来たのだ。
両親は気を抜くと、カッコウの存在を忘れてしまい、
『息子は死んだ』、『息子は失踪した』と言われるほど。
中学の時、修学旅行に参加してるのを教師、クラスメイト全員が記憶から忘却し、
ついにはバスに乗っていないのを気づかれず、
サービスエリアに置いて行かれ、
シン・名古屋から自宅のあるシン・仙台まで徒歩で帰宅したという逸話すら持つ。
マホロの地は魔力の質の高い者が多いので、ギリギリ存在を認識されるらしい。
それでもカッコウが息を凝らすと誰もが彼の存在を認識から外してしまうのだ。
ゲームメガシュヴァで全てのステータスを極限まで0に近づけ、レベリングすると手に入るスキル。
ふざけた育成キャラメイクで取得できたレアスキル。
意図的に運営が隠していたおバカスキルだ。
それが【陰の気配】。
それをこの世界で取得した存在が居るなんて露ほど思いもしなかった。
ステータスが低すぎて戦闘には一切向かないが、使いようによっては"最凶の刃"になり得る。
俺は彼を見出した。
一目で"異常"だと感じ取った。
彼は余りにも"逸材"。
メガシュヴァで使えたあらゆるレアキャラにない"才能"を感じ取った。
モブの中のモブ。
雑魚の中の雑魚。
"モブしか持つ事ができない能力"。
それを極めた者。
いや、こう言い換えるのがいいだろう。
モブの影そのものだと。
彼は影だ。
光に隠れる影そのものなのだ。
俺は彼を、幻の6人目と勝手に呼んでいる。
隠密ゆえ、主力パーティーには加えられないが、6人目のパーティーメンバーみたいなもんだ。
俺はカッコウに幾つかのアーツとスキルを指南した。
彼はそれをいとも容易く覚えていったのだ。
取得させたアーツやスキル達。
特殊行動【隠密】。
特殊行動【隠形】。
スキル:影法師。
スキル:絢爛。これはカッコウを周囲の人間に認識させる為に取らせた。
これらのアーツやスキルを、彼の持つ【陰の気配】と組み合わせると非常に相性がいい。
あらゆるモブを凌駕する影の薄さ。
余りにも相性のいいスキルとアーツ。
彼ほど隠密に優れたモブはいまい。
いや……モブを超えた異常。
異端である。
それに彼は、現に【TDR】の諜報部リーダーとして有能な活躍をしてくれている。
"そしてカッコウはファントム暗躍計画を知るマジもんの仲間となった"。
俺がカッコウを勧誘すると、
『初めて人に必要とされた……』
『そんな邪悪がこの世界に』
と、涙を流しながら俺の勧誘を喜んで引き受けてくれたのだ。
俺はカッコウに語りかける。
「これは危険な賭け。
生徒会、特に風紀委員には見つかるなよ。まだ摘発される訳にはいかん」
俺は目出し帽を被り、闇に溶ける。
「ハッ!」
カッコウも共に闇に溶けた。
俺たち二人は【TDR】が運営する闇カジノに向かったのであった。




