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『それでも俺はやってない!!(大嘘)』 ~緊急ミッション!~ 極悪死刑囚編を回避せよ!

 

 ダンジョンとかいう不思議空間は様々な地形がある。

 

 初級クラスから中級クラスのダンジョンは基本廃坑のような洞窟状の道で構成されている。

 そしてこの時空と地続きで繋がっている事が特徴として挙げられる。

 


 難度の高いダンジョン。

 上級以上は、亜空間のようになっている。

 例えば荒野や草原、湿地帯、なぜか夜の森林や廃墟、ゴーストタウンなど様々な特徴を持つ。


 

 難度の高いダンジョン内は空もあるし太陽や月もある、風も吹くし雨も降る。

 そのものが世界であるかのような不思議空間だ。

 

 不思議空間はこの世界では時空の狭間や時空の結界と呼んでいるらしい。 

 魔法のある世界だし何でもアリである。

 むしろ時空の狭間なる亜空間を、よく調査しようなんて思ったな。

 と感心したぐらいだ。

 


 そして我々は初級ダンジョンに居る。

 実地訓練を開始した訳だ。


 ・

 ・

 ・


「比較的安全なルートで行きましょう」

 マリアは地図を持ち先頭を歩いていた。


「そうねぇ」

 マリアの右隣を歩くクレアが頷く。

 


 マリアとクレアの2人が先頭を歩き。

 真ん中にニクブ。ニクブの隣に彩羽。

 最後尾は荷物持ちの俺の順であった。

 


 普通。

 雑魚は真ん中に置くんじゃないだろうか?

 後ろから奇襲されたら本当の雑魚だったら死ぬぞ。

 いいのか? 

 マリア隊長さん。


「じゃあ、クレア。先導はよろしくね。私は殿しんがりをするから」


「おっけぇ~」


「え?」

 嘘だろ。


 徐々に後退してくるマリアは俺の方をチラリと見ると微笑んだ。

 全員の荷物を馬車馬の如く持つ俺の隣にマリアが並ぶと、話しかけてきた。


「疲れてませんか? 半分お持ちましょうか?」

 美少女特有の花のような笑顔であった。


「え? あ、ああ。いや、大丈夫だよ。

 俺これくらいしか皆の役に立てないし」

 ハハハと無理矢理笑顔を作った。


「そんな事はありません。ご謙遜がお上手ですね」


「そ、そうかなぁ?」

 謙遜?

 どういう意味だ。 


「そうですよ」


「ハハハ」

 俺は乾いた笑いを浮かべた。


「ウフフフ」

 マリアは酷薄の笑みを浮かべながら続ける。

「こうしてお喋りするのは初めて……ですよね」


 なんで溜めたんだ。

「そう、だね」

 避けてたからな。

 俺を勘ぐってるような節があった。

 挨拶程度で済ませてた。


 それに少々冷たい態度を取って来ていたではないか。

 俺が転入したてで、馴染めてない時。

 俺を省いてクラスの親睦会? なるものをしていたようなのだ。

 しかもマリア主催。

 このクラスの顔役であるマリア。

 その女王様からのお誘いを断る酔狂な奴はこのクラスには居ない。


 彩羽が『なぜ昨日は来なかったんです?』と言ってきた時、俺は少し悲しくなったんだぞ。

 わかるか?

 悲しい真実を突き付けられる罪人の気分が。

 前世でも俺だけはぶいてきた悲しい思い出が蘇って涙目になったよ。

 咄嗟に『ちょっと急用がね』と彩羽に嘘を吐いたぐらいだ。

 ホントは急用なんてないよ。

 

「天内さんは力持ちなんですね。とても感心します」


 そんな何でもない事を褒めてきた。

 キャバクラなのか?

 何でもない、クソどうでもいい事を褒めるキャバ嬢じゃん。

「いやいや。そんな事……ないよ。ホントに……」


「いえいえ、そんな。いいんですよ」

 マリアは口ごもり頬をモゴモゴさせている。


「そ、そっか……」



「「…………」」

 しばらくの沈黙。


 は、話が突然終わった



 それからの沈黙。

 き。気まずい。 


 な。なんだ。

 この歯切れの悪いトークは。

 なんでライアーゲーム始まってんだよ。

 なんでお互い腹の内を探ってるんだよ。


 ・

 ・

 ・


 クレアの先導で俺達は順調に目標地点まで歩いていた。

 間もなく教師の用意したチェックポイントだ。


 まだモンスターとは接触してない。


 先行するチームが狩り尽くしてるのかもしれない。

 辺りに焦げ跡や、岩盤の削れた後など戦闘後の激しい残骸や残留物が残っていた。

 

 あ、あいつら(アホな男ども)、『道をならしておく』とか言ってたが。

 マジで雑魚モンスター全滅させてるんじゃないだろうな。

 

 俺達チームのドロップアイテム回収ミッション。

 このミッション達成が、ある意味できなくなるじゃねーか。

 あいつらモノホンのアホなのかもしれない。


 そんな懸念を覚え、辺りを確認する。

 クレアとニクブと彩羽は3人で楽しそうに談笑していた。

 それとは逆に極寒の氷河のような雰囲気が最後尾を覆っていた。



 数分、いやそれ以上の沈黙の後。

 突然。

「あ……あ、あ、あ」

 マリアは顔を真っ赤にして突然壊れた人形のように「あ」を連発し始めた。


「ヒェ」

 咄嗟に俺はニワトリが首を絞められたような声を上げてしまった。

 怖くなった。

 人がおかしくなる様をこの目でリアルで見るなんて。



「まうち。さんはお茶は好きかしら」


「はぁ?」


「そ、そ……そ……その。これを!」

 マリアは突然懐から玉簡ぎょっかんを渡してきた。

 随分高価そう書簡であった。


「これは?」

 俺はそれを受け取ると。


「お手紙です」


「は。はぁ」

 俺は間抜けな返答をしかできなかった。

 手紙?

 殺害予告か?

 それとも、令状。

 ありうるな。

「…………」

 いや……請求書だわ!?

 これ。

 これ請求書じゃん!?

 バレてたんだわ。

 俺の推測通りだった。

 諦めた。

 俺は素直にお縄につく事にした。



「あ、はい。確かに……その少し待ってて下さい。

 必ず……なんとかします。

 その……わかりました………

 すみませんでした……

 」

 なぜか敬語になってしまった。



 消費者金融に手を出して支払日が遅れて催促の電話が来た事を思い出した。

 いや……借金をするのはまだいい。

 俺はこれから少年院か刑務所に送致かもしれない。

 器物破損的なやつだ。

 それとも傷害とか暴行罪的な罪かもしれない。

 悪人とはいえボコボコにしすぎた。


 罪状はわからん。


 何とかしなくてはいけない。

 ファントム暗躍計画どころか、前科者になってここで詰んでしまう。


 てか……刑務所編始まるじゃん。


 このままだったら『極悪死刑囚編』始まっちゃうじゃん。

 嫌だ!

 絶対に嫌だ! 

 このままでは極悪死刑囚と凶悪な囚人達とイカ臭い刑務所にすし詰めされるのだ。

 パノプティコン。

 きっとパノプティコンみたいなとこに押し込まれるんだ。

 オレンジ色のツナギを着た屈強な男共に囲まれるのだ。

 そして最強死刑囚達とのムショ内の地位をかけて戦う事になるんだ。


 いや、待てよ。

 案外それも面白いかもしれない。

 刑務所内部の話はメガシュヴァのストーリーにはなかった。

 どうせ雑魚モブしかいないだろう。

 ボコボコにして囚人の頂点に立つのも面白いかもしれない。

 そして、俺は縛られぬ者(アンチェイン)として優雅に暮らすのだ。


 …………ダメじゃん。

 それじゃあ、何も解決してねぇじゃねーか!!



「中身を透視されたのですか……流石天内さんです。それでは……よろしいと!?」

 マリアは目を見開き驚いた声であった。


「あ…………はい。その……それはもう……いや。

 うん。

 いつかはしなくてはいけないと。

 私の謝意シャイを伝えなくてはと。

 すみません。

 本当に申し訳ございません。

 誠に……大変申し訳ございません。

 その……謝意を伝えなければとは常々思ってました。

 勇気が出なかったんです。

 今まで何度も声を掛けようとは思っておりました。

 私は阿呆なので逃げてばかり。

 謝意・・を伝えなくてはいけないと思ってはいたのです。

 なので……お手柔らかにお願いします。

 初めてなので……

 恩赦をお願い致します

 」

 俺は警官に捕まった犯罪者のように、頭の中が真っ白になった。

 ここはへりくだるしかない。

 そして何とか初犯であるとアピールし、なんとか許してもらおう。

 示談で済ませよう。

 


「そうだったのですね。

 恥ずかしがり屋(シャイ)だったのですか……意外です。

 ええ。

 それは……わたくしも同じです。

 許して頂きたいのはこちらの方。

 私も良くなかったのです。

 感謝の意も伝えず、我を忘れていました。

 恥じ入るばかりです。

 これから共に手を取り合っていきましょう。

 私達は仲間なのですから

 謝る事はないのです。

 謝る事があるならば、わたくしの未熟さ故。

 天内さんは何も悪くないのですから

 」

 マリアは心底ホッとしたように手を合わせ涙を流しながら微笑んでいた。


 俺は、教会で祈りを捧げる礼拝かのように。

 こうべを垂れて両手を合わせる。

「お許しになられるのですか……」

 破壊の限りを尽くした変質者の事を。

 

 俺の脳内にアヴェ・マリアの旋律が流れていた。

  

「何を謝る事があるのでしょう」

 マリアは目元の涙を拭い、なおも優しく微笑んでいた。


 女神だ。

 女神なのか。

 なんて寛大なんだ。

 俺は自身の矮小な心が恥ずかしくなった。

 何を恐れていたのか。

 罪の意識に苛まれ、それを覆い隠すように逃げ惑う。

 哀れな羊。

 俺は今、生まれ変わったような気がした。

 神の奇跡を見ているのかもしれない。

 俺は女神が降臨しているのを見ているのだろうか。


 これが恩寵。


 こんなにも晴れやかな気分になるのか。

 罪がゆるされるというのは。

 なんだか、心が軽い。 



「こちらの方こそ、今後ともよろしくお願い致します」

 マリアは手を差し出してきた。

  

「仰せのまま……に」

 それはまるで騎士が高貴な人に敬意を払うかのように。

 騎士が姫君に、かしずくかのように。

 俺は深く頭を下げ、片膝を地面につけると、その手を取った。



「何やってるのあの2人?」

 彩羽がこちらを向いて心底興味なさそうなトーン。


「「さぁ?」」

 クレアとニクブはその質問に疑問で答えたのであった。 

  


 やったぜ!

 前科もつかないだろうし。

 俺の借金はチャラ。

 さようなら。

 陰鬱なる日常。

 こんにちわ。

 晴れやかなる日常。

 

 よ~し。雑魚モブ生活を満喫するぞ!

 


 

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