ゴミゴミの実を食ったゴミ人間
「それでは、これから実地訓練を行う。各自準備を!」
学園の敷地内にある、とあるダンジョンの前でDクラスの生徒はそれぞれ武器を携えていた。
「それでは各グループから順に入れ」
俺は、5人一組で1パーティ。
計10パーティが時間差で順番にダンジョンに入って行く光景を眺めていた。
俺たちは最後のパーティだ。
・
・
・
この世界の授業には魔法の実践訓練なるものがある。
ツッコミはやめよう。
軍人でも冒険者でもないのになぜこんなおままごとをするんだよ!
というツッコミはやめた。
この世界は異常なんだ。
本日は学園の初級ダンジョンに潜り、モンスターを狩りドロップアイテムを回収してくるミッション。
それと教師の用意した課題のブツを持ち帰るというお使いミッションであった。
俺は日夜モブの雑魚を演じる為に、実地訓練では最下位の記録を叩きだす努力をしていた。
その次に悪い点数を叩きだそうと競ってくるのが、なぜか彩羽。
俺と彩羽による雑魚モブワーストを狙う攻防戦が静かに巻き起こっていた。
俺と彩羽は競い合うようにワースト雑魚を狙うライバルになっていたのだ。
モブフェッショナル同士のゴミのような競い合い。
その反対にマリアとクレアはこのクラスで常に最高得点を叩き出している。
「あー。やだなぁー。俺は魔法不得意なんだよ。今回も自爆しないといいが」
俺は彩羽に聞こえるように独り言。
「そうだねー。私もからっきしなんだよねー。前回はたまたま運よく一回成功したけど」
俺と彩羽はお互い棒読みである。
((こいつ(この男)やはり狙ってやっている!!))
俺と彩羽はお互い目線が合った。
バチバチと火花が散ったかのように錯覚した。
ヒリつくぜ。
今度も俺が最下位の成績を取る。
雑魚キャラの座を譲る訳にはいかない。
前回は魔力が暴発して自爆という演出。
彩羽は不発からの一回成功したように見せかけた的外し。
やるじゃねーか。
「あの……」
このクラスの中心人物であるマリアが、落第ギリギリの成績を取る劣等生である俺と彩羽のやりとりに割って入ってきた。
「どうしたんです?」
俺はできるだけ柔和な笑みを浮かべた。
「天内さんと彩羽さんは…… << 仲がいい!! >> ですよね……」
マリアは少し睨みを利かせ、『仲が良い』を強調した
「そうかも……ね」
そう。彩羽とは色々あったが、こいつは話せば中々わかる奴。
それなりに話せる奴なのだ。
まぁ。まだパーティメンバーに誘えてないが。
「そうですね」
彩羽は無表情であった。
成績下位生徒はパーティのバランスを取るため成績上位者とパーティを組むという采配。
俺、マリア、彩羽、クレア、ニクブの5人によるパーティが組まれたのだ。
チッ! どうなってやがる。
あの教師、中々頭がキレるじゃねーか。
最悪の気分だぜ。
マリアの前でボロを出せば俺はお終いなんだぞ。
「天内さんは、なぜ本気にならないのです?」
マリアが微笑みながらそう問いかけてきた。
「え?」
え? しか出なかった。
人間、不意を突かれると『え?』しか出ないのだ。
「いえ、いいのです。忘れてください……実力を隠される……はぁ……」
辛辣に、それでいて大きなため息を吐いた。
そして1人納得した顔をし『うんうん』と、うなづいていた。
「あ」
あ、しか出なかった。
バレてる?
いやいやいや。
…………いや。そんな訳はない!
俺は風魔法が暴発する雑魚男を完璧に演じている。
得意な風魔法は小物の浮遊しかできないという事にしてある。
なのになぜだ。
俺は冷や汗が止まらなかった。
「天内はホントなんで入学できたのか謎なぐらいだしな。ある意味実力を嘘吐いてるとも言える」
ニクブは俺の肩に手を回しニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた。
「私に任せて下さい。みなさんの安全は私が守りますぅ」
クレアは自信満々に宣言した。
「よ。よろしく……お願いします」
俺はマリアからすっと離れ、クレアに頭を下げた。
すると、前で待機してる別チームの男子3人が。
「解放者は何もできないんだ。いや、それでいい。お前はボーっと荷物持ちでもしとけ。お前という存在を失えば人類の損失」
「そうだ、な。お前は僕たちの精神的支柱。お前の存在は光明だった。闇夜に差す月光の光。それはお前の事なのだろう」
「人が最も救われるとき、報われるとき、それは赦される事なのだと。
お前は教えてくれた。ワイに任せとき」
「天内は雑魚なんだから、マリアさんとクレアさんの後ろに隠れてればいい。
死ぬなよ! 解放者」
「お、おう」
男共"だけ"からなぜか信頼されている俺は、一様に男子生徒から肩を叩かれた。
「あの気持ちの悪い演説をしてから、キモい事になってる」
彩羽は眼鏡をクイッとさせ、俺の隣に立つとそう感想を述べた。
「あ、ああ」
なんで?
俺は何かしたのだろうか。
ただ証明問題を解いただけ。
勘弁してくれ。
俺の博識を披露しただけだ。
「なんという。ここまでのカリスマ性……早く何とかしないと。パーティーが……埋まってしまう」
マリアが眉間に皺を作り驚愕した顔でボソりと呟いた。
「…………」
俺は、それを聞かなかった事にした。
なぜならマリアの持ってるペンが粉砕していたからだ。
それはもう見事にバキバキに折れていた。
テコで二つに折れるのではなく、ペンの端から引き千切っていた。
なんという握力なんだろうか。
マリアは妙にカリカリしてるのか、
さっきから貧乏揺すりのスピードが凄まじい事になってる。
イライラしないでくれ。
怖いんだよ。
そんな妙な緊張感を持っていた俺に、先行する男共が、
「そろそろ俺達の番のようだな。じゃあ先に行く。天内、武運を祈る」
「退路は俺たちが切り開く。道程はならしておくから安心して付いてこい」
「大将。お前の首は必ず死守する。お前が戦死すれば……このクラスは崩壊だ」
「せめて……俺の事を忘れないでくれ。それじゃあ」
全員サムズアップして白い歯を見せてきた。
まるで戦場に赴く兵士だ。
「お、おう。頼むわ」
彼らのチームは先行しダンジョンの中に入って行った。
それを見送ってから。
「類は友を呼ぶ……キモい人にはキモい人が集まるのか。
ゴミゴミのゴミ人間ばっかりだ。このクラス。
勉強になった」
彩羽はより一層辛辣な意見だ。
「悪かったな」
俺もどうしてこうなったのか意味不明なんだよ。
キモいのは認める。
ただゴミ人間は言い過ぎだ。
一理あるけど。
「問題ないよ。そんな事よりそろそろ本気を出してもいいよ。天内くん」
キラリと眼鏡を光らせると、深紅の瞳が垣間見えた。
「なんの事やら」
俺は素知らぬフリをした。
それはお前の方だ。
この中二病め。
パンッ! と大きな柏手を叩く音が俺と彩羽の間でした。
「腑抜けはどうでもいいのです。そろそろ準備を開始しましょう。彩羽さん。天内さん」
マリアが彩羽と喋る俺が気に食わないのか、間に割って入ってきたのだ。
「そうだね」
ハハハと引きつった笑みを浮かべる事しかできなかった。
「そうですね」
「それでは皆さん。作戦会議を始めます」
マリアはダンジョンのマップを開き、全員に向かって作戦を語り始めた。
初級ダンジョン1級相当のダンジョン。
経路は分岐しており、複雑になっているが雑魚モンスターしか出ない。
それに教師の配慮もおり、万が一の時でもいつでも戦線を離脱できるように、使い捨てアイテム:空間陣刻石をメンバー全員に貸与されている。
「空間陣刻石……」
俺はゴクリと魔石を握る。
メタルペリッパ狩りに使った高額アイテム。
これ一つで札束何本か飛んでくぞ。
使ったフリしてネコババしよう。
うん。そうしよう。
そんな事をボーっと考えていると。
「……という作戦で行きます」
実質このチームのリーダであるマリアがそう宣言した所だった。
「わかりましたぁ」
クレアがフワフワボイスで納得した。
「了解っす」
ニクブがマリアに向かって敬礼していた。
「……わかりました」
彩羽が何を考えているかわからない顔をして頷いていた。
「お、おう」
ヤバ。
何も聞いてなかった。
こんなとこで俺の難聴スキルが発動するとは。
全く困ったものだ。
デキる男はたまに突発性難聴を患うのだ。
「では、最後は私達のチームですね。行きましょう!」
マリアはチラりと一度俺を見ると、一度コクりと頷いた。
「???」
え? 何?
なに、その合図。
俺達即席パーティはダンジョンでの実地訓練を開始したのである。




