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今宵、貴殿らは † DEATHエンジェル † と踊る覚悟はあるか?


 

 いい感じじゃあないか。

 風音の育成は順調だ。

 まず風音は亡国の皇女システリッサを仲間に加えた。

 そして幼馴染の天馬南朋も仲間に加えた。

「お前の手の早さは一級品だ」

 

 日が浅いにも関わらずヒロイン二人を仲間に加えるとは。

 『性欲なんてありません』みたいな顔をしてる癖に。

 とんだ、どすけべ坊主だ。

 しかも男友達はパーティーに加えないという徹底ぶり。

 そうだよ。

 これだよ。

 お前はハーレム主人公じゃなきゃだめなんだよ。

 ハーレム主人公様は男を味方に付けない。

 なぜなら邪魔だから。


「フフフ」

 俺は暗黒微笑を浮かべた。


 俺は双眼鏡を持って彼らが訓練している姿をストーキングしていた。

 いや、それでは俺がストーカーみたいじゃないか。

「スニークな。スニーク」

 俺は自分に向けて説得した。

「あ!?」

 今風音の野郎、よろけたシスを抱きかかえようとした瞬間、胸を触りやがった。

 ラッキースケベだと!?

 なんという事を。

 頬を赤く染めるシステリッサ。

 それを見た幼馴染の南朋が風音を『こんの! 痴漢!』と言ってボコるというお約束のオチまでついていた。



「す…………すげぇ」

 俺は感動した。


 あいつらやりやがった。

 テンプレを。

 主人公御一行パネェわ。 


 では、行くか。

「さて、そろそろ。俺の出番だな」

 そろそろ、あれをやりたい。

 言ってみたかった言葉。

 第9位に入って来る言葉を言いたい。

 たまらねぇぜ。


 ・

 ・

 ・


 月夜のもと

 ダンジョンから出てきた三人組。

 俺は風音達の前にファントムとして彼らの前に降り立った。

 闇の中から囁く。

「弱き者よ。力が……欲しいか?」

 言ったぞ。

 言ってやったぞ!

 くぅ気持ちいいぃぃぃぃ!!

 

 暗闇の中に立つ俺。

 彼らは一直線に俺の方に向かって。


「何者だ!?」

 瞬時にブレスレットを剣に変化させ構える風音。


「気配がまるでなかった……」

 錫杖しゃくじょうを胸の前に突き出すシステリッサ


「この人……滅茶苦茶強いよ」

 身の丈はある鉄の棒を回転させ棒術特有の間合いを取る南朋。


 全員俺に気づいたようだ。


 各員武器を構え、警戒を怠らない。

 今の所、攻撃する気配は見受けれない。

 さすが人格者諸君。

 


 俺は傲岸に手を叩いた。

 これが演出。

 謎の怪人はこうするのだ。

 とりあえず手を叩き、『やりますねぇ』みたいな雰囲気を醸し出すのだ。

 そして全てを見透かしたかのように、

「ふむ。火の使い手、それに聖属性か。君は……おもしろい。風の魔法。しかも強力だ」

 実力を言い当てる。

 これこれ。

 これがやりたかったのよ。

 たまんねぇな。

 おい!



「「「!?」」」

 全員一層警戒を強めた。


「おや、当たりかな」

 知ってるだけだけど。

 俺は、『こ、こいつ!? 一体どうやって僕たちの力を見破った!?』というキャラをやりたかった。

 興奮を押えきれない。

 ダメだ。

 ニヤつきそうになる。

 いかん集中しろ。

 ポーカーフェイスだ。


「あなたは一体」

 システリッサは恐る恐る問いかける。


「私か……お前達に力を与える者……幻影なる亡霊……その名は、ファ」

 俺はゆっくりと低い声で、威圧感を漂わせながら。


「信じられるか!」

 南朋が俺の語りを遮り、激昂した。


 ちょっと。

 名前を言わせてくれよ。

 空気読めないなぁ。


 気を取り直して。

「私の名は、ファン」


「みんな少し待ってくれ。落ち着くんだ。貴様は僕たちに何を望む」

 風音が陽魔法を身体中に纏わせていく。


「警戒して! 只者ではありませんわ!」

 錫杖を鳴らしシステリッサは穂先を俺に向ける。


「………」

 なんだよ。

 こいつら。

 名乗らせない上にさっき言った事の再放送早すぎなんだよ。

 言ってるじゃん。

 力を与えるって。

 大丈夫か? 

 言語能力。


「ウチから行くわ!」

 南朋が身の丈ほどある棒を携え、俺に向かって飛び上がった。


「え?」

 なんで、戦闘モードに切り替わった?

 そんな要素あった?


 ふざけんな!

 今、俺何もしてないよね。

 そんなにおかしいのか?

「チッ」

 俺はたまらず展開がおかしくなりすぎて舌打ちした。

 この脳筋どもめ。

「いいだろう。少し力というモノを見せてやろう」

 俺は短剣を取り出した。


「来るぞ! 援護をシス!」

 風音は戦況を観察、今か今かと俺の隙を窺っていた。。


「ええ! 南朋! この者に星の輝きを。光の加護を与えたまえ」

 シスが聖属性魔法を唱えると光の粒が南朋の身体中に纏わりつく。


「身体が軽くなった! うん。これなら! 行くぞ!」

 南朋は得物に強烈な風圧を付与させる。


「はぁ……」

 聖属性の強化バフ魔法か。

 それに風の不可視の刃。

 俊敏、威力が数段上がっている。

 俺はそれを。


「†イリュージョン†」

 最近取得した霧魔法を発動させた。

 両手をパントマイムのように視えない壁を触る動作をする。

 我ながら、馬鹿な技だなと思う。

 レアな魔法、霧魔法は恐らくメガシュヴァ制作担当が疲れてたのか、イカれてたのか分からないが一言の意味不明な単語や中二病な動作で発動する。


「え?」

 まるで、くうを切ったように攻撃が当たらず。

 南朋は驚きの声を上げる。

 霧魔法で作り出した俺の幻影は、南朋の放った棒術の軌跡に霧散した。


 俺は南朋の背後から。

「軌跡を残すな」

 俺はそれだけ呟くと、風圧の纏った得物に、火の魔法をほんの少し加えた短剣を近づける。

 短剣は強烈に酸素が注入され豪炎へと変わる。

 両者の間に火柱が昇る。


「嫌! うそでしょ」

 南朋の驚きの声が上がる。

 

「タイプ相性だ」

 タイプ相性をご存じでない?

 魔法向いてませんよ。

 支援するなら風と火は相性がいいが、打ち合いとなれば相性は悪い。

 基本だ。


 俺は、驚きから一瞬硬直した南朋の懐に飛び込み、掌底を打ち込もうと、

「なに!?」

 俺は咄嗟に声を上げた。

 風音がいつの間にか背後に回り、俺の首筋に剣の峰を叩きこもうとしていた。


「やるな」

 俺は足元の土を蹴り上げ、そこにほんの少し砂岩操作。

 さらに風魔法を組み合わせ大量の砂塵を巻き起こす。


 南朋の魔力から発せられた風魔法に引火した火柱と砂塵が絡み合い、

 俺と風音、南朋を隔てるように巨大な炎の砂塵が壁のように出現した。

「目くらましだ」

 俺はそう助言すると。

 一瞬目を閉じた風音に向かって雷電スタンを走らせる。


「な!? んだと」

 驚愕の表情の風音に1秒程度の硬直を与える。



 俺は無言でスキルを発動した。

 

 ――高速思考/並列思考――

 

 刹那が何秒にも引き延ばされスローモーションのような世界へと早変わりする。


 驚愕の風音の顔。

 こわばる顔の南朋。

 目を見開くシステリッサ。


 彼ら彼女らはまるで時を引き延ばしたかのようにゆっくりとした動作になる。


 やはり、まだまだ弱いな。

 

 ―――身体強化―――

 

 彩羽とかいう、現状の俺に匹敵、もしくはそれ以上のぶっ飛んだ異常者つわものは居たが、基本的にマホロ一般生とこの段階でのメインキャラ達は弱いと考えていい。

 お前らはやはりまだ弱い。

 弱すぎる。

 それではこの世界を攻略など一生掛かっても不可能だ。


 ―――超高速移動(タキオン)―――


 俺はスローの世界で身体が軽くなる。

 スローの世界で唯一の例外、普通に動作できる存在かのように、俺は歩き出す。


 全ての武装を解除させるか。

「笑止」

 俺はそう宣言すると、全員の武器を剣道の小手の要領で叩き落とす。


 ―――全解除―――


 時は再び元の流れに戻りだすような錯覚に陥った。

 

「……噓でしょ」


「そんな馬鹿な」


「あなたは……」


 三者三葉驚愕と苦悶の表情で俺を眺めていた。

 

 魔力の伝達を止め砂塵の爆炎は収まり、それを見届けると。

「これで、ようやくわかったかな。力量の差というモノが」

 俺は両手を広げると。


 エクストラバレット(武器弾幕)の要領で。

 大小様々な剣、盾、槍、斧……あらゆる武器8本を暗器アーツで取り出し、

 それぞれに。

 火・水・風・地・金・雷電・重力・聖属性の魔力を付与させ俺の背後の空間に固定させた。

 

 武器を背後に、まるで天使の持つ羽翼のように8枚展開させる。

 それらをわざとらしく、月明かりを反射させ煌めかせる。

 

 中二病のポーズ『支配者のポーズ』を取り、霧魔法でドライアイスの白い煙のように辺り一帯を幽遠な雰囲気を作り出す。



 ―――猛者降臨演出―――



 両手を広げ仁王立ち。

 場を支配する支配者のポーズもオマケ付きだ。

 かっこいいだろ。

 満月をバックにする完璧なる采配。

 これをやりたかった。

 謎の強者は月を背に不敵な実力を示すのだ。



 皆一様に絶望の表情をしていた。

「魔術の深淵……死の天使……」

 3人の内の誰かがボソリとそんな一言を発した。


 DEATHエンジェルだと!?

 かっこいい。

 その呼び名。

 かっこいいじゃないか。

 そのアイデア頂きますよ。


「思い知っただろうか。

 少しは私の話を聴く気になったかな。

 我が名はファントム。

 幽谷たる深淵の奈落ゲヘナより馳せ参じた亡霊。

 人はこう呼ぶ。

 †DEATHエンジェル†と」

 

 き、決まった。

 かっこいい。

 我ながら貧困なボキャブラリーを組み合わせた。

 最高にCOOLな名乗りを上げた。

 俺は必死にニヤつきそな顔面を何とか根性でポーカーフェイスを作る。


「「「……」」」

 全員目を見開き沈黙していた。

 

 よしよし。聞きそうな感じだぞ。

「今のキミらでは、そこの"聖女"を守る事はできない」

 俺はシステリッサを一度見たあと風音と南朋を見る。


「ッ」

 唇を噛みしめるシステリッサ。


「なぜそれを!」

 それを見て悔しそうに俺を睨みつける南朋。


「……」

 言葉を発する事ができず、歯がゆい顔をした風音。



 助言タイム行くぜ。


「ここより南に10キロほど行ったところに渓谷がある。

 そこに巨大な滝がある。

 その裏に行け。

 お前たちに力と栄光をもたらすだろう」

 俺はそう言い残すと。

 待機させていたエクストラバレットを四方に掃射し爆風を巻き起こし霧を辺りに拡散させた。

 

 俺はタキオン(超高速移動)でその場から颯爽と逃げた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 音を置き去りにするかのような演出。

 サクセスコード200(成功)

 俺は彼らから距離を取り、草むらに隠れる。


 再び双眼鏡を懐から取り出し、主人公御一行様を観察した。

 お互い何かを話し合っていた。

 そして一様になにかを納得してるようだった。

 風音はトホホといった顔をして微笑みながら南朋の介抱をしていた。

 それに頬を赤らめる南朋。

 

「す、すげぇ」

 やっぱすげぇわ。

 風音は童顔で性欲皆無顔だけど、なぜか童貞の癖にとこ上手な主人公。

 俺は末恐ろしくなった。

 奴は偉大なるギャルゲの主人公。

 神に寵愛と恩寵と祝福を受けた選ばれた存在。

「お前の……勝ちだ」

 俺は血涙を流しながらそう呟く事しかできなかった。



 気を取り直して。

「よし!」

 助言できたぞ。

 早く強くなれ。

 滝の裏にはお前達の強化アイテムとお前ら専用のイベントがある。

 その上、レベリングに最適なダンジョンだ。

 初見殺しの強そうな奴は俺が大体処しといた。

 ピクニック気分で行ってくるといい。


 よ~し。

「今日は旨い飯が食えそうだ!」



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