【日常回】 今世紀最大の命題 ~太もも証明問題~
---ある日の教室での出来事---
俺が転入し、しばらく経ちクラスに馴染んできた頃だった。
友人もできた。
その中でもよくつるむニクブとガリノの三人で食事を摂っていた。
午後のひと時を送っていたのだ。
「エフッ。エフッ。おっぱいの方が魅力的だが。ガリノ、お前いよいよ耄碌したか?」
ニクブは焼肉弁当の飯をかきこむと、ガリノを挑発した。
お前は飯を食いながら喋るな。
お行儀が悪いぞ。
俺は黙って卵焼きを堪能する。
「ニクブ。お前の事は親友だと思っていたが、今日までのようだな」
ガリノは、すました顔で言い放った。
逆にお前は食わなさすぎなんだよ。
何も食わないからお前はガリガリ君なんだよ。
「おっぱいには、夢・希望・慈愛が詰まっている。柔らかくどれほどの罪人も受け止めてくれるお胸。それは救世なのだ」
ニクブはどうやらおっぱい派のようだ。
「お尻の方がいいに決まっている。古来より桃は不老長寿の果実とされてきた。それはなぜかわかるか? お尻の形に似ているからだ」
対してガリノはお尻派であった。
「いいや、ガリノ。俺は救世の話をしている。人が初めて、口にするモノはなんだかわかるか? おっぱいだ。人はおっぱいに生まれ、おっぱいに死ぬ」
「ニクブ! ハートの形。あれは逆にすればお尻の形だ。暗喩としてお尻がこの世で至高なんだよ!」
ニクブもガリノも互いにヒートアップしていく。
ニクブとガリノの論争はクラスの男子共に波及していき次第に論戦になっていった。
「胸!」
「俺は尻派だ!」
「ふざけんな! 表に出ろ!」
「いいぜ。やってやるよ。久々にキレちまったよ」
「お前とはここで決着をつけるわ」
「死に物狂いでかかってこいや!!」
教室のあちこちで今にも殴り合いが始まりそうだ。
中には胸倉を掴んでいる者も居る。
やれやれ。
仕方ないか。
俺は教室の壇上まで登り、黒板を叩いた。
「聞け! 同胞よ!」
「な、なんだよ」
「一体何をするつもりだ」
男子共は一斉にこちらを振り向いた。
俺はしんしんと語り始める。
「おっぱい。お尻。
どっちの方が優れているのか。
甚だ愚問。
滑稽。
道化の考える事よ。
諸人の苦悩、苦痛、悲哀。人類の歴史において解は既に証明されている。
結論から言おう。
おっぱいもお尻もどちらも至高。
その二択で争う事がどれほど血の涙を生んだのか。
悲しいんだよ。
お前達の争いは。
もう戦争はやめよう。
おっぱい派もお尻派も。
君たちの戦争はもう終わったんだ。
悲しい争いはここで終わりにしよう。
だが、一つ忘れていないだろうか。
大きな解を。
高校の教育課程でも教わる事だ。
太ももの存在を
」
一瞬、時が止まったかのように教室が静まり返ると。
「天内。てめぇ。太もも派だったのか!?」
「意味わかんねぇよ! お前も裏切り者だったとは!」
「お前も表に出ろ!」
「見損なったぜ! 天内!」
クラス中の男子生徒の罵詈雑言が俺に一斉砲火した。
全くチンパンジー共め。
ここは美少女動物園。
一般生であっても美少女が集う。
それなのに、なぜDクラスの男子共はモテない男しか居ないのか。
メガシュヴァ主人公風音のクラスはまとも奴ばっかだったじゃねーか。
俺の配属されたDクラスのクラスメイトはなぜアホしか居ないのか。
もっとこう、貴族社会だぞ! 俺はVIPの御曹司だ、みたいな陰険な奴出て来いよ。
スクールカースト云々のあの陰湿なやつはなんでこのクラスにはないんだよ!
異常なんだよ!?
このDクラスは!
変人しかいねーじゃねーか!
風音視点ではあったじゃん。貴族社会とかスクールカーストに物申すやつ。
俺にもっとスクールカーストで底辺味わせてくれよ。
雑魚を演じるのに支障が出るんだよ。
仕方ない。
そんな事も言ってられないな。
気を取り直して。
「黙れ!!!」
俺は再度黒板を大きな音が出るように叩いた。
再び、俺は語り始める。
「
太もも。
それは母なる大地。むっちりとした肉厚のある太もも。
人はそれを不気味の谷ならぬ、"奇跡の谷"と呼んだ。
よく考えてほしい。
人はおっぱいに性的興奮を覚える。
それは番いを得るためのアピールなのだ。
お尻もそうなんだ。
番いを得たいが為に性的興奮を覚える。
これは人の宿命。
因果。
逃れられぬ輪廻なのだ。
しかし、太ももにはその機能はない。
太ももには性的アピールの機能は自然界にはなかった。
遺伝子の情報の中にもなかった。
だがあった。
近代の天才科学者モッチリ・フトーモの出した命題。
人類に突き付けた史上最大の難題。
彼は生涯をかけてその太もも証明問題に取り組んだ。
そして遂に証明された。
隠れ太もも派が多い事に。
これは真であると。
おっぱい派、お尻派が居るのであればそれ以外にも居るんじゃないかと。
まず仮定として太もも派が居るとした。
そこからの証明は長かった。
脚派、髪派、おへそ派、八重歯派、唇派の証明。
様々な解が生まれた。
人の数だけの解。
これは近代科学における偉大なる発見であった。
答えは無限にあると。
おっぱい派、尻派の対偶の先には無限の可能性があった。
∞。
」
男子共は全員ゴクリと生唾を飲む音がした。
女生徒は黙って飯を食うか、俺の演説を無視して談笑していた。
「見ろ! これが証明だ!」
俺は黒板に殴り書きをした。
式:(OPS→H)=∞
【おっぱい派・お尻派が存在する → 太股派が居ると仮定した時 = ∞】
「見ろ! お前らに俺が教授してやる。クソみそ共」
男子生徒は固唾を飲んで俺に視線が集まる。
一呼吸置き、クラス中を見回し、息を吐き。
「
これは近代物理学において最大の証明。
太もも。
そこには人の、人たり得る叡智が生まれた。
宇宙。
太ももに性的興奮を感じるというのは人の脳が進化したということ。
ようこそ。人類へ。
ようこそ。
解放へ。
新時代へようこそ。
お前たちの解を全て俺の名の下に赦そう。
見せてくれ。
新時代を!
」
俺は、わざとらしくタイを整えると。
教壇で演説を終える。
静寂が教室を支配する。
"男だけ"だけど。
『パチ』
『パチパチ』
『パチパチパチパチ』
すると、パラパラと教室の端々から拍手が送られ始めた。
それは次第に増えていき、スタンディングオベーションをする者まで現れた。
"男だけ"だけど。
すると男子生徒の1人がポツリと。
「実は俺はワキ派なんだ」
1人が呟いた事でまた一人、また一人と吐露し始める。
「すまん。俺はおっぱい派ではない。足の裏派なんだ」
「ミーは……二の腕のぷにぷにしたのが好き……」
「僕は競泳水着にしか興奮を覚えない」
「俺はAVのインタビューシーンだ。あの導入に妄想を掻き立てられる」
「ワイは、タイツ派。蒸れてると尚可」
彼らは様々な性癖の暴露を行っている。
彼らは互いに互いを認め合っていた。
赦しあっていた。
「美しいではないか」
平和。
これこそ俺の見たかった光景の一つ。
皆が一様に笑い合っていた。
フッと笑い俺は教壇を降りる。
「ん?」
とてつもない軽蔑の視線を感じ取った。
男子生徒とは真逆に女生徒の目は白いモノになっていた。
「なんで?」
・
・
・
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・
俺はその日を境に女生徒に避けられがちになった。
その反対に、見知らぬ男子生徒からはタイトル戦優勝者のように握手を求められる存在となった。
そして俺に二つ名が囁かれるようになった。
『解放者』と。
そして俺は、変人が集まるDクラス男子の精神的支柱と他クラスから一目置かれる事になる。
天内 …… 太ももフェチ
天内の友人ニクブ……おっぱいフェチ
天内の友人ガリノ……お尻フェチ
一部他のクラスはスクールカーストがあったり、ギスギスした雰囲気があったりします。
お貴族様がピラミッドの頂点に居たり、大企業の御曹司が幅を利かせてたりします。




