三千世界のナイトメア ~ 時代が生んだ哀れなイリュージョニスト、クレイジーに散る ~
俺はお茶を飲み干し、テーブルの上にコップを置いた。
「パーティーメンバーを集めよう」
「どうしたの? いきなり」
モリドールさんは食事の手を止めた。
「あ、いえ。俺、明日から初登校なんだけど、パーティーメンバー集めは重要だなって」
「ああ。そういう」
モリドールさんは納得したようにフォークを鶏肉に刺した。
食事を続けようとしてるところに、
「モリドールさんは学生時代組んでたんですよね? パーティー」
「え?」
え? そんな事食事の席で訊く? といった顔をして刺したフォークがプルプルと震え始める。
「いや、なんでもありません。これ美味しいね」
訊いてはいけなかったようだ。
早く話題をすり替えねば。
「そ、うね」
挙動不審になり、先ほどまでパクパク食べていた食事のスピードが緩やかになった。
俺は察した。
色々と察した。
「明日行くの緊張するんだよね。初登校だし」
俺は世間話に戻そうとするも。
「そうね。あそこは……とても……ウッ!? 頭が! しかも明日は月曜日!?」
突然頭を抱えだすモリドールさん。
なんだよ。
そんなに思い出したくないのかよ。
それになんでこんなとこで務めてんだよ!
さっさと転職しろよ。
落ち着きを取り戻したのか、
「気を付けてね。天内くん。キミなら大丈夫だと思うけど」
なんだよ!
なんで含み笑いしてるんだよ。
「ウへへへへ」
モリドールさんは怪しげな微笑をこちらに向けてきた。
テーブルに突っ伏し爆睡するモリドールさんを尻目に俺はパーティーについて真剣に考えようとしていた。
悲しいかな。
時間は待ってくれない。
刻一刻と時が過ぎていた。
何もしなければ詰みだ。
それよりも……
「あれ、なんだこの感覚」
胸の鼓動が早くなる。
明日は月曜日。
「月曜日死ね」
ウッ頭が!?
なぜ、日曜日の夜はこうも気分が悪くなるんだろう。
学生の時も、社会人やってた時も日曜日の夜は、なぜか不快感に襲われた。
なぜなんだ?
教えてくれ精神学者。
「ダメだ。今日は寝れそうにない……」
月曜日。
奴は人生というゲーム。
その中でも四天王に入る逸材。
「モリドールさん。俺が必ず月曜日という概念を倒す……絶対にだ」
月曜日に土を付けられたモリドールさんの為に強い意志を持って宣言した。
・
・
・
さて、どうしたものか。
俺は二度目の高校?
いや4年制だから高専?
それとも大学か?
まぁ。とりあえず俺は学校に入学した訳だ。
教室は前世の中高とは違い、大学のような、なだらかな斜面に席が配置されている教室になってた。
クラスメイトは50名のはずだが、確実に席数は100を超えていた。
俺はとりあえず窓際の一番後ろの席に着座した。
主人公席と言われる席だ。
てか、ここが一番目立たない。
「あの人誰?」
「知らね」
「クラス間違えてるんじゃね?」
「同じタイの色だしそれはねぇだろ」
「ちょっとイケてるかも」
「いつもそればっかじゃん」
「あとで話に行ってみようかな」
「えぇ。ズルい!」
クラス中から奇異の眼を向けられている。
ヒソヒソ声が至る所から聞こえていた。
完全に腫れ物扱いだ。
「あの~。クラス間違えてますよぉ~」
フワフワした声音の女生徒が腫れ物である俺に声を掛けてきた。
「おい! クレアの奴、話に行ったぞ」
「黙ってろって」
クラスの男子が制した。
聴こてるぞ。
そこの男子生徒よ。
クラス一同が息を合わせたように静まり返る。
「え? ああ。うん。俺転校生」
自分の顔を指さして、ぎこちない笑みを向けた。
「ええぇ本当ですかぁ?」
「そうっす」
「隣座ってもいいですかぁ?」
「どうぞ」
俺は精一杯うれしさを出さぬように、素っ気なく返事をした。
や、優しい。
好きになっちゃうだろ!
居るんだよなぁ。
誰にでも分け隔てなく喋ってくれる女の子。
勘違いくんを世界各地で生み出す人。
「ああ。そっか。このクラスに二人転入生来るって先生言ってましたね。そっかぁ貴方がもう1人だったんですね」
「そうそう。って二人?」
二人?
どゆこと?
主人公風音は別クラスに転校してくるはず。
このクラスに転校してくるの?
え? マジで?
いやいや、よく思い出せ俺。
天内こと俺とはクラスが違うはずだ。
あいつとはクラス対抗戦で再びマッチアップするのがメガシュヴァストーリーで描かれていた。
世界線ズレてる?
俺はクラス中をキョロキョロと見回した。
―――居ない―――
風音も居ない。
風音の幼馴染、"天馬南朋"も居ない。
そして"亡国の皇女システリッサ"も居ない。
あいつらは同じクラスのクラスメイトだったはず。
風音のクラスは何組だった?
A? B?
確かFだった。
対して俺のクラスはマリアと一緒のDのはず。
そして今俺はDクラスに居る。
間違えてない……と思う。
学園転入の際、貰った書類にも『Dクラス配属』と、レジュメには記載されていた。
だからこれで合ってるはずだ。
そもそも俺はメインである風音視点の話しか知らない。
このクラスの事は、天内の親友のニクブとガリノ。
そして同じクラスメイトになるはずのマリア以外知らない。
「ほらぁ。あそこ」
クレアと呼ばれる女生徒が教室の先頭の方を指差した。
「あ、ああ」
グルグルのマークの付いた度の強そうな眼鏡を掛け、お下げの目立たない女生徒がチョコンと前の方の席で座って居た。
表情が全然見えない。
どっかで見覚えあるぞ。
誰だ?
まぁ。いいか。
気のせいかもしれない。
「あの子も最近転入してきたんだよ」
「へ。へぇ」
「私はクレア。クレア・ノヴァイスト……え~っと、あのぉお名前は?」
「あ、ああそうだったね。俺は天内傑って言うんだ。よろしく頼むよ」
「え~っと。漢字は……天と地で優れる? それとも天を知ってより選る? かな」
「違う違う。多分文字が違うよ」
俺はルーズリーフを取り出し、自分の名前を書いて説明しようと。
「おっと」
ペンを取り出そうとした所、咄嗟に消しゴムが筆箱から飛び出た。
俺は風魔法を発動させ、消しゴムを浮遊させ手元まで引き寄せた。
「風魔法使いなんだねぇ」
「そう……だね」
ほぼ全属性の魔法使えるけど。
そういう事にしておこう。
改めて。
「俺の名前の漢字は」
漢字をサラサラと書いて見せた。
「へぇ。いい名前だね」
「名前だけね」
中二病全開な気もするけど。
それと、天と地で優れるとか俺と正反対だろ。
名前負けしてる。
勘弁してくれ。
「「……」」
お互い顔を見つめ合ったまま話す話題がなくなった。
き、気まずい。
どうしよ。
そ、そうだ!
「ちなみに……あの子。俺と同じく転入してきた子。なんて名前なの?」
よし、切り抜けたぞ。
流石IQ100の俺。
「うん。彩羽さんだよぉ~」
「え?」
耳を疑った。
今なんて?
伏線回収早くね?
普通もっと引っ張るよね?
あいつはどこの誰なんだ! って。
嘘だろ。
おい!
「あの、ごめん。もう一回言って貰いたい。ちょっとよく聞こえなくて」
「いいよ。彩羽さんだよ」
い・ろ・は?
その下の名前はまさか……
「彩羽さ~ん」
クレアは彩羽なる者を手招きして呼び寄せた。
「はい。なんでしょう?」
お下げ髪の目立たない少女は席から立ち上がる。
「彼も同じく転校生だって! 彩羽さんと喋りたそうにしてるよ!」
「ほう。そうなんですか。それはそれは。挨拶が必要ですね」
お下げの少女はこちらに向かって歩いてきた。
一歩また一歩と。
彩羽なる少女がこちらに向かって歩いてくる度に胸の鼓動が早くなった。
勿論、悪い意味で。
銀髪じゃない。
ボク要素もない。
雰囲気もまるっきり違う。
だが、紛れもなくそれは……彩羽千秋であった。
見間違えるはずもない。
見た目はかなり地味になってるが、こいつは俺をボコボコにした少女だ。
あれってコスプレだったのか? マジで?
「どうも。初めまして。彩羽千秋です」
45度の綺麗なお辞儀をした。
そっかぁ~。
うん。
把握した。
すげぇわ。この世界。
俺はこの世界、やっぱ攻略できないかもしれない。
俺の予想を斜め上に踏み砕いてくる。
必死の愛想笑いを浮かべ。
「ど、どうも。仲良くしてくれると助かる」
俺は手を差し出した。
「こちらこそ。私も友人が居ない新参者。仲良くしてくれるとありがたい」
彩羽は微笑み、細い白い手を差し出し握手をし返してくれた。
彼女は俺の席の前に着座るすると、振り返り。
「お名前はなんと言うんですか?」
「天内です。天内傑」
「ほう」
彩羽グルグルの表情の見えない眼鏡をクイッとし、こちらの顔を覗き込んできた。
「どうしたんです? お加減が優れないようですが……」
「少し、環境に慣れなくてね」
このクラスの雰囲気にも。
そして今目の前に居るキミにもね。
俺は動揺を隠しきれない。
「それはそれは非常にわかりますよ。…………失礼。話が急に変わるんですが」
「ん?」
「どこかで会った事ありません?」
「き、気のせいじゃないかな」
「「………」」
お互い沈黙した。
や、ヤバいぞ。
バレたら殺される。
「おお! 二人とも仲良くなれそうだねぇ!」
クレアは話に割って入って来てくれた。
グッジョブすぎる。
すると予鈴のチャイムが鳴り始めた。
本鈴が間もなく鳴る頃合いであった。
「もうすぐ、ホームルームだよ。それじゃあね!」
「それでは」
「お、おう」
クレアはどうやらお気に入りの指定席があるらしく、隣の席から立ち上がるとそちらに走って行った。
その背中を眺め。
「ヒェッ」
マリア居るじゃん。
いつの間に……
こっちを凄い目で凝視してるし。
怖いんだよ。
俺はゆっくりと視線を外し、
「彩羽さんはさっきの席に戻らなくていいの? 視力良くないんじゃ」
「お気になさらず」
「でも」
「お気遣いありがとうございます。問題ありません。伊達なので」
「うん。そっか」
このクラスにはファントムに請求書の束を送り付けたい奴。
俺を半殺しにした奴。
この2人が居る。
マリーについてはわかっては居たが、ずっとこっちを睨んでるし。
前の席にはサイコ美少女が居る。
「うぅぅぅぅ」
頭を抱え。
俺は本当に頭が痛くなった。
悪夢を見ているようだ。
すると本鈴が鳴り教師が入ってきた。
キャラまとめは出そうか迷ってるので、少し保留です。
三章開始です。章題は後日付けます




