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【日常回】 小町と服を買いに ~「先輩の私服がゲボ出るぐらいダサい件について」~


 模擬戦も終わり、ひと段落した。

 小町と学園の食堂で待ち合わせして落ち合う約束をしていたのだ。

 学園は土日という事もあり、休みである。

 今後の指南についての話をするつもり。

 

 閑散とした大きな食堂の隅で。


「先輩はダサすぎます」


 唐突にそんな事を言ってきた。

「なんだよ。藪から棒に」

 俺は熱々のコーヒーをすすり終えるとそっとテーブルの上に置いた。


「だかーらー!! 先輩は私服がダサすぎるんです!」


「大きい声出さないでよ。それに俺は師匠では?」


「師匠であり先輩です! ここでは先輩です!」


「そうだけどさぁ」


「服を買いに行きましょう!」


「なんで?」


「先輩が悲しいくらいダサいからです。なんですかその私服。一緒に歩きたくないんですけど。知り合いだと思われたくないんですけど」


「ひどいな。俺のセンスは抜群だ。全身ブランド品武装だぞ」


「ブランド品はワンポイントだからいいんです」


「えぇ? そうなの? ホントにぃ?」


「まず、そのハットは何なんですか。ピエロなんですか? ハロウィンなんですか? ダサすぎます」


「ひどいなぁ。これをデザインしたデザイナーさんも居るんだが」


「先輩! 日常でそんな真っ赤で派手なシルクハット被ってる人居ますか? 居ませんよね?」


「居るよ」


「どこに!?」


「ここに」

 俺は自分の顔を指差した。

 居るじゃん。

 ここに。


「ああ! もう鬱陶しい! 話が通じないのか。この男!」

 髪の毛を掻きむしり、目に見えてイライラしだす小町。

 

「そんなに眉間に皺を寄せると癖付いちゃうよ。ヒステリー起こさないでよ」

 更年期障害には少々早すぎるぞ。


「誰のせいですか!? 誰の!」


「俺なの?」

 俺は何がそんなに勘に障ったのかさっぱりわからなかった。


「ああもう! いいですか。そんな派手なジャケットもシャツも普段着で着たらおかしいんです!」


「そうか? この紫のジャケットに真っ赤なラメの入ったシャツ。金ぴかに光るパンツ。かっこいいじゃん」

 かっこいいよな?

 俺はかっこいいと思う。

 前世でもイカしたファッションセンスと呼ばれてたんだぞ。


「先輩のセンスが壊滅的な件について」


「なんだよ。ネラーみたいな事言って。よいしょっと」

 俺はハットを脱ぎ、テーブルの上に置いた。


「噓……でしょ……」

 小町は俺の頭頂部を凝視し絶句していた。


「どうしたんだ? そんな顔して」


「何なんですか…………その……髪型」


「え?」


「『え?』じゃないんですよ! なんでそんなツンツンで爆発してるんですか! まるで長ネギに剣山が乗ってるみたいじゃないですか!」


「おかしいかな? おしゃれ泥棒してるだろ」

 俺はしたり顔で自分の髪の毛を指差した。

 休日なのでおしゃれしてきたのだ。

 キメキメだろ。

 最近は学園入学のあれこれで出来てなかったが俺のファッションセンスの本領発揮だ。

 ワックスで固めるのに2時間掛かった力作。

 前世の夜職ホスト連中を参考に作った完璧なるヘアースタイル。


「おかしすぎますよ!」


「そうかなぁ? かっこいいじゃん。ロックだろ」

 ふふん、と満足げな顔をしてみる。


「……こんな事言いたくないんですけど」


「なによ?」


「先輩ってその……」

 悲しそうな顔をする小町。

 口ごもりながら何かを言い淀むような。


 なんだよ。はっきりしろよ。

 俺はたまらず、

「なんだよ。はっきり言ってくれよ」


「その……友達って居なかったんじゃないですか?」


「ば、ばばばばばば」

 お前エスパーか!?

 なぜわかった。

 なぜか友達の居なかった前世をなぜ言い当てた!?

 神なのかこいつ。

 俺は挙動不審になってしまい目を白黒させた。


「はぁ……」


 大きなため息を吐く小町を見て、俺はたまらず抗議した。

「バカ言え! はぁ!? 居たし。クラスの人気者だったし!」

 大嘘であるが故に勢いで抗議した。


「人気者、かっこワラ((笑))でなくてですか?」


「おい! 俺をあまり舐めない方がいい!」

 はぁ……はぁ…と息を切らして、いつの間にか立ち上がっていた。


「そうですか。そういう事にしておきます。それよりも、先輩って彼女居た事ないでしょ」


 突然のクリティカル口撃こうげき

 俺の豆腐メンタルが麻婆豆腐になった。

「な!? 何言ってんだ!? 居たわ。ブイブイいわせてたわ!」

 二次元の中で!


 小町はフッと笑い、嘲笑の眼を向け、

「……モテる訳ないでしょ」

 そう、聞こえるか聞こえないかの声量で一言呟いた。


「グッは!?」

 俺の精神が吐血した。

 名探偵に真実を突き付けられた犯人のような気持ちだった。


「とりあえず」

 小町は両手を叩くと。

「制服に着替えて下さい。髪の毛のワックスも落としてきてください。街に行きますよ。先輩の服を買いに行きます」


「……なんで?」


「あああああ! 話通じなさすぎ! 『なんで?』じゃねーんだよ! ダサいからだよ! 何度も言ってるじゃん! だから服買いに行くぞ!」


「お、おう」

 俺は小町の威圧感に気圧けおされ、そう返答した。


「わかればよろしい」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 俺は渋々制服に着替え、髪の毛に塗りたくったワックスを落とした。

 そして俺達は商業区のメンズ服屋の前に居た。

 

 小町は笑みを浮かべ。

「予算は三万ぐらいでいいでしょう」


「そんなんで足りんのか?」


「十分足ります! なんなら靴まで買えます」


「ホントにぃ?」


「当たり前です! 金銭感覚おかしいんですよ先輩は!」

 小町の声量の大きさから通行人が幾人かびっくりした顔をしてこちらを見ていた。


「小町。ビックリマークが多いよ。落ち着きなよ。恥ずかしいだろ。田舎もんだと思われるぞ」

 俺はそうさとした。


 落ち着きを取り戻したのか、

「ホントに、ああいえばこういう。口だけは立ちますよね先輩」

 

「そうかぁ? 照れるなぁ」

 俺は頭を掻いてテレを隠した。


「悪い意味で!……です」


「お、おう」


「さぁ。まずはボトムからですね。とりあえず中に入りますよ」


 俺の前をテクテクと歩き、目的のコーナーの方へ向かう小町を追いかけた。

「何買うのさ」


「チノパンです」


「チノパン? 大学生じゃねーんだからさ!」


「先輩は高校生でしょ」


「た、確かに」

 高校生だったわ俺。


「それに、チノパンは老若男女問わず履いてますよ。舐めてるんですか?」


「フッ。試したのさ。自称弟子の切り返しをな」


「はいはい。そういう事にしておいてあげます」


「おい!」


 黒地の地味なチノパンを手に取ると。

「さぁ買いますよ。無難に黒でいいと思うんです」


「無難すぎないか? もっとシルバー感欲しいんだけど。こうギラギラした感じの。気品っていうのかな。そういうのがある感じがいい。ほらあそこ!」

 壁に掛かってるギザギザのメタリックな装飾がされたズボンを指差した。


「えぇ?」

 怪訝な顔をする小町は指差す先を見て。


「あれイカしてるじゃん。ガイアが俺にもっと輝けってささやいてるような感じのやつ。あれ買おう」


「黙って下さい。先輩は何も意見をしないで下さい」


「ひどいな!」


「先輩の頭とセンスに比べれば可愛いもんです」


「ひどいな!」


「はぁ。ついに語彙力も低下しましたか。御見おみそれしました師匠」


「こんな時に師匠扱いかよ!」


「その次は上着ですね」


「はいはい」


「よろしい」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 親に服の生殺与奪を握られている小学生のような気分だった。


「ふう。こんなとこでしょうか。だいぶマシになったじゃないですか。似合ってますよ先輩」

 

 俺はシンプルすぎる服に全身コーディネートされた。

 さながら着せ替え人形にされた気分だ。

「ええ? ダサくないかこれ」

 シャツをつまんで感想を述べた。


「ダサくないです」


「どこにでも居る人じゃん。これじゃあさ!」


「どこに向かってるんですか」


「センスのいただきかな」


「先輩には絶対に辿り着けない頂きですね」

 冷淡な声であった。


「ひどいな……」

 俺はがっくりと項垂うなだれた。


 シンプルな黒いチノパン。

 シンプルなベージュのブルゾン。

 白い特徴のないスニーカー。

 何の面白味もない白いシャツであった。

 髪の毛もワックスを使用しない普通の頭。


「これで、少しは街中に一緒に出掛けてもいいと言える許容範囲内です」


「もっと腕にシルバーとか巻きたいんだけど」


「ダメです」


「シルバーのチェーンを腰元に」


「ダメ!」


「髑髏マークが付いたゴテゴテのいかついベルト」


「ダメったらダメ!」


「小町は俺のお母さんか!」


「似たようなもんです。師匠の身の回りの世話と家計簿は私が預かります」


「家計簿は止めて!」


「フフッ」

 小町は握り拳で口元をおさえ、微笑した。


「笑ってるんじゃないよ」


「いえ、ついおかしくて」


「自称弟子!」


「なんですか? いきなり大きな声を出して」


「ほらよ」

 俺は小包を小町に手渡した。


「???」

 彼女は疑問符を顔に浮かべてる。


「俺はデキる男」

 俺は先ほど小町がチラチラ、ウィンドウで見てたネックレスを買っておいたのだ。

 なぜなら俺はできる男。

 ヒロインの笑顔を生み出すラフメイカー。

 こういういきな事をすぐ思いついてしまうのだ。

 やれやれ。

 仕事が出来すぎて将来が怖いぜ。 


「デキる男ねぇ」

 期待してないような声音であった。


「それはくれてやる」

 俺はぶっきらぼうにそう告げた。


「はいはい。って……これ」

 小町は目を点にしていた。


「俺は全てを見通す者」

 言った後、我ながら意味不明な解答だなと思った。


「これって結構高いんじゃ。それになんで……」


「俺はデキる男」


「もう!」

 小町は俺の肩を小突いてきた。


「ホントに……ホントに先輩ってバカですよね。ゲボ出るぐらいダサいですけど」


「一言多いな」

 小町は小包を抱きしめて満面の笑みを浮かべていた。

「まったくチョロい女だ。こんな何の能力も宿ってない貴金属にうつつをぬかすなど」


「一言多いですね」


「まぁな」


「今回は許しておいてあげます」


 やけに素直になった小町に。

「お、おう」

 俺はそう返答するしかなかった。



書き方少しアレンジしました。

見にくかったら感想欄から意見お願いします。

次は第三章です。

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