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強敵と書いて『絶望』と読む



 俺はこの世界に来て初めて強敵と言える存在と対峙していた。

 肩で呼吸をするので精一杯だ。

 強すぎんだろ。

「ペッ!」

 口から血痰けったんを吐きだす。

 口の中に鉄の味が広がっていた。

 ―――肺に血が溜まって気持ちが悪い。

 頭がクラクラする。

 ―――額から血がしたたってきた。

 目の前は星が散ってるかのようにチカチカとしていた。

 ―――痛みで気が散りそうになる。

「集中しなくては……狩られる……」

 身体はボロボロ。

 衣服も所々破れていた。


 拳が飛んできた。

「うぜぇ!」

 悪態を吐く事しかできない。

 紙一重で躱し、何とか間合いに入らないように大きく距離を取る。

「逃がさないよ!」

 敵は身体をじり、遠心力を加えながら、強烈な回し蹴りを懐に打ち込んできた。

 俺は咄嗟に盾をアーツで取り出し変わり身にする。

 金属で出来た盾。

 それが……

 バリンっと本来有り得ざる音を立てた。

 戦慄。

「嘘だろ。おい!」


 盾は一瞬で氷漬けになり、まるでガラス細工のように砕け散った。


「氷瀑……」

 敵はそう呟くと一瞬で目の前に氷の隆起した凶悪な刃が飛来しようとしている。


「ッ!?」

 俺は咄嗟に本気マジ防御をおこなう。

 エクストラバレットで目の前の氷瀑塊に向けて掃射し、爆発を引き起こす。

 直撃を免れる紙一重の攻防。

 


 つえぇぇぇぇ。



 逃げなくては。

 相性が悪すぎる。

 どう切り抜ける。

 俺には分が悪すぎる。

 こんなシナリオもイベントも知らんぞ。

 クッソ! 色々予定が狂い始めている。


「ボクの氷瀑ひょうばくを間近で受けて、立ち上がるなんて。あなた、結構強いのかな? 不審者さん」

 氷の気化する蒸気の中で、わずか十数メートル先に立つゴスロリファッションの少女が感想を述べていた。

 漆黒のゴスロリファッションに身を包む銀髪の美少女。

 彼女の顔は余裕綽々といった表情。

 月光のもとで深紅の瞳が妖しく光っていた。

 両手には獲物を殴り殺す禍々しく光り輝くガントレットが嵌められている。

 


 ―――絶望―――



 強すぎる。

 ヤバい。

 初めて絶体絶命のピンチに遭遇してしまった。

 マジで運ねぇわ。

 笑える。

 


 ペロリと舌舐めづりし、いたずらっ子のようにコチラに微笑むボクっ娘の美少女。

 中二病患者。

 化け物クラスに強いボクッ娘美少女。

 ……彩羽千秋いろはちあき

 

「買い被りすぎだな。私は弱いぞ」

 ファントムになった俺は不適に微笑み本心半分で強がる。

「そうかなぁ? 不審者さん。凄く強いよ。うん。自信を持って!」

「どうも……」

「それで、なにしようとしてたのかなぁ? 悪い事?」

「それは言えんな」

 俺は不適に返答した。

「そっか~」

「逃がしてくれると助かるんだが」

「う~ん。どうしよっかなぁ」

「私は何も悪い事はしてないぞ」

「ホントかなぁ。悪い人は同じ事言うんだよね」

「あっそう」

「とりあえず。投降して貰ってから、その後は事情聴取から判決って事で」

 花の咲いたような微笑みで両手を叩いて提案してきた。

「断る」

「そっかぁ~。じゃあ……完全にノックアウトしてもらうって事で!」

 少女の前に無数の鋭利な氷の粒が空間に突如として形成されていく。

「じゃあ行くよ!」

 と掛け声の中には邪悪な笑みが含まれていた。


 金切り声のような音がしたと同時に。


「チッ」

 俺は思わず舌打ちをしてしまう。

 凶悪な死のひょうの弾丸。

 それらは俺に目掛けてガトリング砲のように着弾。

 それを高速に回転させた思考で読み解きギリギリでかわす。

 俺の避けた先の木々は見るも無残な姿に変容していくのが目の端で見てとれた。

 

 文字通り冷や汗が出る。

 ギリギリだ。

 この悪夢からどう逃げる?

 手札は多くないぞ。

 ・ 

 ・

 ・

 模擬戦後の休日を謳歌し、俺はコソコソと深夜に主人公風音が成長しやすいように初期イベを舗装整備しに行った帰りだった。

 ファントム衣装を纏った俺は、学園編の初期に発生するダンジョンモンスターの暴走を止めに行っていたのだ。

 

 その帰り道。 

 この美少女の強襲・奇襲を受けたのは……


 最初にこの少女の強力な一撃をモロに食らったのはまずかった。

 そこからリズムが崩れてしまった。 

 にしても。

 ここまで強敵だとは……

 初見だったら間違いなく負けてた。

 プレイヤーの知識が活きたな。

 本心でそう思った。

 ・

 ・

 ・


 眼前には何トンあるのかと思える氷のつぶてが迫っていた。

 てか……

 俺死ぬんじゃないのこれ?

 俺はそれを紙一重でいなす。

 その瞬間背後から声がした。

「じゃあ。不審者さん。サクッと逝っちゃって」

「フェイクか!?」

 わずか数メートルまで間合いを詰められていた。

 ガントレットに氷の魔術が収束していくと、

「氷瀑!」

 息を飲んだ。

 大地が―――

 ―――空間が

 ―――― 一気に歪む。

 来る!

 辺りは極地の永久凍土のように氷漬けになり、眼前の空間には巨大な氷塊が無数に乱立していた。

「エクストラバレット!」

 無数の武器弾幕。

 俺は切り札を惜しみなく使い氷塊撃破に専念しようと……

「斥!」

 斥力を操る高度な魔法の術式。

 それを聞き俺は余りの絶望から絶句した。

 彩羽は重力魔法の"斥"を使用し、エクストラバレットの武器投擲を反射し、掃射した全ての武器が明後日の方向へ飛んでいく。

 完全封殺。

 氷塊は既に目と鼻の先まで迫っていた。

「おい! おい! おい!」

 ヤバいって! 死ぬって!

 ・

 ・

 ・

「あら~死んじゃったかも。やりすぎたかな」

 彩羽は頭をポリポリと掻き、困ったような声音であった。

「まだだ!」

 俺は氷塊から顔を出す。

 タキオンを発動して、この場から逃げる!

「引かせてもらう」

「逃がさないよ」

 冷徹な微笑。

 瞬間。

 メリッと異音が頭蓋に響き渡る。

 鼻の骨が折れた。

 彩羽の拳が俺の顔面を掠る。 

「いってぇな。おい!」

 スキルで肉体の硬度を極限まで高めたにも関わらず。

 止まらぬ鼻血を吹き出しながら。

 悪態を吐き宙を舞う。

 体制を整え思考を加速する。

 考えなくては。

 とりあえず距離を取りタキオンで戦線を離脱する。

 それで行こう。

 逃げるしかない。

 クッソ。

 ―――タキオン! 

 体制を整え着地すると同時に……

「なにぃぃぃぃぃ!」

 発動はしている。

 だが、肉体が……思うように

 ダメージを食らいすぎているのもある。

 足元が氷漬き……

「ボクの氷瀑はこの空間を既に支配している」

 月明かりの中。

 空間に漂う微小な氷の塊(細氷)は乱反射しダイヤモンドダストのように辺り一帯を虹色に輝かせていた。

 身体の自由が……

 まるで麻痺してるかのように……

 動きが上手く……

 俺は暗器アーツで手元からナイフを数十本を空間に固定し、火炎、雷電、砂岩、風圧を纏わせる。

 ヒューと口笛を吹く彩羽。

「こんなに多彩な魔術使い見た事ないよ」

「だろうな……」

 俺と主人公風音ぐらいだろうさ。

「それでも……ボクには、飛び道具は効かないよ」

 彩羽はそう宣言し、ニヤリと微笑む。

「知ってるさ!」

 俺は数十の刃を一斉掃射した。


 知ってるとも。

 よく知ってる。

 彩羽千秋いろはちあき固有ユニークスキルは『飛び道具/放出魔術による攻撃が絶対に当たらない』能力。


「だから! こうするのさ!」

 俺はエクストラバレットの要領でナイフが彩羽に到達するより早く武器破壊し彩羽の前で爆破させた。

「うわップ」

 彩羽は咄嗟に手で顔を覆い、爆発を防ぎ、まばたきをする。

 この一瞬のスキだ。

「悪いな。逃げさせてもらうぞ!」

「ちょ!」

 肉体を聖属性魔法で治癒し、足元で再度エクストラバレット。

 辺りの温度を上昇させ、再度タキオンを発動させる。

 全ての動作を1秒にも満たない時間でおこなった。

「ちょっと! 待っ!」

 彩羽の声は後方に一気に掻き消え、俺はなんとか戦線離脱に成功した。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

「ぜぇ……ぜぇ……」

 学園の敷地。

 森の中で凄まじい肉体的疲労と精神的疲労から木に寄りかかった。

「マジかよ。強すぎないか。知らねぇぞ。あいつが初期からあんなに強いの……」

 あのままやってたら、五分……ってとこだ。

 俺はあいつを殺す気もないし、傷つける気もなかった。

 それでも防戦一方だった。

 本気で攻撃に回っていたとしても……

「相打ちってとこか」

 はぁ~っと大きくため息を天に向けて吐いた。

 メインヒロインでも、生徒会役員でもない。


 ――最強の"一般生"の1人――


 彩羽千秋いろはちあき……

 氷と重力の魔法の使い手。

 壊れ固有ユニークスキル保持者。

「こんな序盤に相対あいたいするとは……」

 あいつ。

 何年生だっけか。

「はぁ~。同学年だったら……ヤバいだろアレ」

 俺はボロボロになった身体を引きずり家に帰宅する事にした。

 モンスターの暴走は既に布石を打っておいた。

 その帰りに思わぬ誤算はあったが……

「ミッションはクリアしたんだ。今日はもう寝よう」

 疲れたよ。

 本当に……




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