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ん? 今、"なんでもする"って言った?


 根負けした。

 つーか逃げられなかった。

 傍から見れば両手に花に見えただろう。

 実際は両手と首、背骨を完全にホールドされてた。

 そもそもイズナの筋力はA。

 馬鹿力である。

 天内が逃げるには荒事を起こすしかない訳だが。

 それは憚れた。 

 俺は聡明。頭脳明晰。

 元社会人の一般常識コモンセンスを持ち合わせてる。

 そんな事はしたくなかった。

 だって目立ちたくないもん。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 すっかり真っ暗になった学園。

 模擬戦1日目が終わり、気が抜けたのか学園生が至る所でバカ騒ぎしていた。

 そんな光景を傍目に俺と美少女と美女は共有スペースのデッキで向かい合っていた。

 俺はテーブルの上に両手を乗せ腕を組んだ。

「それでは。まず穂村さん。貴方の要件はなんですか?」

 俺は最終面接の面接官ばりの威圧感と感情のなさで質問を投げかけた。

「えっと。それは……」

 小町は少し言い淀む。

 ここだ! 

 チェックメイト!

「不採用!」

「ええぇ!? なにも言ってませんよ!」

「質問に即答で答えられない方は弊社には要りません。ご退席を。勝手口はあちらです」

 バカ騒ぎしているグループの方に手を差し出した。

「なんなんですか!? これは面接なんですか!」

「そうです。履歴書も出さない。質問には答えられない。舐めてるんですか? 貴方には弊社で働く未来が見えませんでした。それではさようなら。益々のご活躍を……」

「く! なんなんですか! ふざけないで下さい! トム!」

「トム? はて、なんの話でしょう? あまり私を怒らせない方がいい」

 ゴゴゴゴゴゴゴと背後に威圧感を漂わせる。

「もうホント鬱陶しい! この際、もうトムはどうでもいいの! だって貴方はトムだから!」

 小町はこれでもか、と激高した。

 俺はトムだよ。

 正解。

 正確にはファントムだけど。

 90点を差し上げましょう。

 まぁ。この場ではトムではないけど。

 一旦息を整え、小町は静かに言葉を紡いだ。

「私は貴方に頼みがあって来たんです」

「頼みぃ。なによぉ?」

「それは……………貴方の事を師匠と呼ばせて下さい!」

「師匠?」

「そうです! 私を貴方の弟子にしてください。天内先輩。私を鍛えて下さい」

「なんで?」

「師匠……天内先輩の試合観ました。凄かった。あんなに凄い剣術使いは見た事ない。それに……恩だって……」

 俺は小町の声に被せるように、

「いやいや、褒めすぎだって。君の眼は節穴だよ」

 本当に褒めすぎだ。

 俺は雑魚だよ。

 小町。

 君の方が才能は豊かだ。

「ふし! あな……」

 がっくりと項垂れる小町。

 彼女はわなわなと唇を震わせ再度口を開いた。

「でも……私は、貴方のもとで学びたい。なんでもしますから! 師匠!」

 ん? 今なんでもするって言った?

「今、なんでもするって言ったよね?」

「……え、ええ」

 俺は舌舐めづりした。

「師匠ね。ふむふむ。なるほど。なるほど。悪くない響きじゃないか。うんうん。君は見どころがあるねぇ」

 俺は存在しない履歴書を読むパントマイムをした。

 困惑顔の小町は顔をみるみる青ざめさせていく。

「あの、言葉の綾というか……その」

 小町はどんどんくぐもった声になっていく。

「おい! 自称弟子。焼きそばパン買ってこい! もちろんお前の金でな!」

 俺は足を組み偉そうに注文した。

「ええ!?」

 驚き顔の小町にさらに畳みかける。

「それと自称弟子。肩凝ってんだわ。焼きそばパン買ってきたらマッサージ頼むわ」

「くっ! なんなんですか!」

「弟子になりたいんだろぉ?」

 悪辣な顔で小町の返答を待つ。

「そ、それは……ちがッ」

「よく聞こえないなぁ? じゃあこの話はなかったという事で。それでは。益々のご活躍を」

「わかりましたよ! この最低男! ふざけんな!」

 悪態を吐きながらも小町は従順に出店の方へ走って行った。

 もう小町ルートは終わっている。

 俺が露払いしたからな。

 ふむふむ。

 これは考えようによってはていのいいパシリを見つけたんじゃないだろうか?

 小町は下級生。

 俺が卒業するまでパシリとして馬車馬の如く俺の手足として働いて貰うのもありかもしれない。

 そもそもこいつの借金は二桁億だった。

 それぐらい、いいんじゃなかろうか?

 もう一度言おう。二桁億円だったと。

 俺は恩着せがましい男。

「おい!? 私の事を忘れているんじゃないだろうな!」

 イズナが俺と小町のやりとりに我慢ならず声を挟んできた。

「少し、待って下さい。先にこっちの話をまとめたいんで」

 ・

 ・

 ・

 しかし、よくよく考えてみよう。

 それに、これはチャンスなんじゃないだろうか。

 俺もいずれパーティを組まねばならん。

 どの道、誰かを勧誘する必要があった。

 できればネームドキャラ。


 学園で登録できる1パーティの定員は5人。

 ゲーム上でも1パーティ5名までだった。

 パーティ編成はイベントとミッションクリアに必要不可欠。

 無論俺がその枠を一枠潰してしまう訳なので、残り4席。

 ここに小町を入れる算段は正直なかった。

 だって無理だと思ってたし。

 そもそもこいつがこの学園に来る可能性は五分だったから。

 

 メインヒロインは強キャラ揃い。

 仮にこの学園に来たとしてもてっきり主人公風音パーティに入るものだと思っていた。


 現時点で俺の弟子になりたいだけのようなので、パーティに組み込む問題とは別な案件。

 だが。

「う~ん。ぶっちゃけ強いんだよなぁ」

 小町は育成の仕方と扱い方で化ける。

 悩みどころである。


「なんだ。考え事をして」

 イズナはイズナで俺の方を睨んでいる。

「まぁまぁ」

 俺は"まぁまぁ"でたしなめる。

 これは俺が発明した"世渡り48手"の一つ。

 プラスの意味にもマイナスの意味にもどっちにでも解釈できる常套句だ。

 

 それはさておき。

 弟子なら師匠の言う事はある程度聞いてくれるかもしれない。

 というか千載一遇のチャンスなんじゃないだろうか。

 ぶっちゃけ。

 今後、強キャラを勧誘できるとは微塵も思っていない。

 ダメもとで頼んでみようかなとは思っているが、多分ムズイ。 

 俺は目を瞑り非常に悩ましい問題に直面していた。

「どうしたんだ? 天内。そんな苦しそうな顔して」

 はぁ。

 まだこの人の話もあったな。

 次に間坂イズナを考えなくては……な。

「おい! 聞いているのか!」

「まぁまぁ落ち着いて下さい。先輩。それで先輩は俺と戦いたいんでしたっけ?」

「おお! そうだ。その通りだ」

 犬っころみたいな笑顔を向けてきた。

 可愛いじゃないか。

 ふむふむ。

 しかし、今日は疲れた。明日は寝たい。そういう予定だ。

 俺は休日は一日に一ターンしか動けない性分。

 なので。

「じゃあ、明後日にしません? 今日は疲れたんで」

「おお! いいぞ! 明日・・だな!」

 すると、小町が息を切らして焼きそばパンを買って戻って来た。

「買って……きました……よ」

 ぜぇぜぇと肩で息をしている。

 随分急いで戻って来たな。

 急がなくていいのに。

「おい! 自称弟子。飲み物がないじゃないか! 気が利かないな。ほら駄賃だ。早くウーロン買ってこい! 喉に詰まったらどうするんだ!」

 俺は懐から小銭を取り出しテーブルの上に置いた。

「クッソ! この最低男! こんな奴だとは思いませんでしたよ!」

 小町は額に青筋を立ててこちらを睨んだ。

「自称弟子……これも修行。師匠の世話も弟子の修行だと思え。そんな事もわからんのか? 俺はキミを試してるのさ」

「言わせておけば。それらしい詭弁をズラズラと」

「早く行くんだ。それとキンキンに冷えてるやつで頼む」

 俺は手で号令をかけた。

「ちくしょ―――――! 覚えてろよ!」

 小町は小銭を乱暴に握りしめると再度、出店の方へ走って行った。




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