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終末の笛の音が鳴り響く② 全ロス


/3人称視点/



 先程空から落ちた『食べ掛けのりんご』は、砕け散り大地に無造作に転がる。それは硫酸にでも浸したかのように煙を上げて大地に溶けていく。


 ・

 ・

 ・


/小町視点/


 徐々に陽が傾き始めていた。

 皆で撮った大切な写真を手に忍ばせる。


「私は大丈夫だ。証拠だってある」

 

 自分に言い聞かせる。 

 

 

 学園は『いつものように賑わっている』。

  

 

 帰路に着く時間帯では正門前は多くの人で溢れかえる。

 生徒達は寮に戻る者、自宅に戻る者がチラホラ見え始める。

 皆一様にこの世界がおかしいなんて思っていないよう。

 

 私は一縷の望みを懸けて先輩を待ち伏せしていた。

 

 天内傑は居た事になっている。

 

 覚えている人も居た。


 先輩とよく喋っている2人。

 名前は確か……ニクブとガリノって人。

 2人は先輩の事を覚えていた。

 うろ覚えだったけど……

 

「だから居るはずだ」

 

 動揺してマリア先輩には、天内傑の事を覚えているか確認し忘れた。

 

「彩羽先輩は覚えてないような雰囲気だったけど……」

 

 それが謎。 

 アイツはこんな時に居ない。

 アイツは私の事を覚えているのだろうか?


 何度もメッセージを送るが、そもそも通信エラーになり失敗を繰り広げた。出来ないのはいつもの事。ならばと思い、スマホで記事を検索した。 

 

 ―― 検索:ガリア事件 ――

 

 私の知っている歴史の記憶。


 表示結果:インターネットに接続されていません


「……電波が悪すぎる」

 

 大前提として検索がしずらい。

 それは私の焦燥感を募らせる。

 

「まだ」と、リトライする。

 

 ―― 検索:ガリア事件 ――

 

 このサイトにアクセスできません

 

「っ……」

 舌打ちした。

 

 リトライする――――ページを読み込めませんでした

 

 スマホの電波は不規則。

 非常に繋がりにくい。

 何度もエラーになる。

 

「で、出来た……」 


 何度目かのリトライ作業でページ検索は実行された。

 ガリアの事件を検索すると、確かにあったのだ。

 

 それは私の知っている歴史。

 記事の内容は正しい。

 これは私の知っている時の流れを経過した世界であった。

 

「この世界は本物……のはずだ」

 

 ――――視界が歪む。

 

「……っ!?」

 

 眩暈がする。 

 常に全力で発動させていた眼の力。

 それが頭痛を引き起こしているのかもしれない。

 

 頭を振り、力を込めて眼を凝らす。


「まだ、ネットの回線は生きている……じゃあ……」 

 

 自分の記憶が正しいと証明する為に次の検索を実行した。

 

 トウキョウへのミサイル事故。

 

 再度、何度もリトライしその記事も残っていた。


「やっぱり、あるんだ……」

 

 確信した。

 私の記憶違いでもなんでもない。

 ここは私の知っている世界。

 この眼もこの検索結果も『真実』を映し出している。 

 そうこうしていると。



 ―――――――既に日は暮れており、辺りは真っ暗になっていた。

 


「記録は残っている。でも記憶が残っていない?」


 そうとしか考えられない。

  

「何かの術にかかっている?」


 私の眼は精神汚染系の術に掛かっていれば、見抜ける。

 物理的に斬る事だって出来る。

 でも、彩羽先輩もマリア先輩もそんな兆候はなかった。


「それに……もし、記憶が完全に消されてれば戻すなんて事は出来ない……」


 それは高度な治癒魔法でも不可能だ。

 ましてや私では出来ない。

 

 ・

 ・

 ・

 

 徐々に人通りが少なくなって、先輩には結局出会えなかった。 

 居ないのだ。

 

「アイツ……一体どこに。学校に来なさすぎなんだよ」

 悪態を吐く事しか出来ない。

 

「も、モリドールさんは……」

 

 私達のパーティー顧問である女版天内傑。

 口が誰よりも達者な奇天烈な人……

 訂正、少しだけ変わった人。

 

 彼女の行方を捜す為に教務課に向かった。

 教務課がギリギリで締まるタイミングで駆け込み。


 モリドールさんがどこに居るのか尋ねると。 

 高圧的な女性職員はめんどくさそうに。

「モリドール??? ああ、居たわね……あの人はとっくの昔に退職されましたよ」


「は?」

 何を言ってるんだ?

 退職?


「い、いつですか?」


「去年の夏ぐらい?」


「そんな訳……」


 掠れる声を呻いた。

 声が震えた。

 おかしい。それじゃあ、私だけおかしい人になってしまう。

 

「もういいかしら?」


「そんな訳ないですよ!」


「そんな訳あるんです。それに、ほら。もう定時だから」


 職員は壁に掛けられた時計を指差す。

 針は19時差していた。


「……い、いや、でも」


「また明日でいいかしら?」


 その後、問答すらさせて貰えず、門前払いを受けた。まるでこの世界で私は1人ぼっちになったかのような錯覚を受ける。


「そんな訳ない。あるんだ。あったはずなんだ」


 モリドールさんは居たはずなんだ。

 不安を塗り消すように、残っている証拠の数々を確認する。

 

「だってあるもん。みんなで撮った写真だって手元にある」


 手元にはガリアでみんなで撮った写真があるんだ。


 写真を握る指先が白くなる。 

 

 眩暈がした――――

 星が散ったようにクラクラする。

 常時発動していた眼の力。

 

 異常に負荷が掛かっている。


 力を込め過ぎて、眼が霞み始める。

 徐々に視力を失うように視界が狭まって行く。


「まずい……」


 先輩の馬鹿みたいな訓練のせいで、いつもは24時間発動できるようにしていたが、動揺で(りき)んでいたのかもしれない。


 無駄に疲れているのだ。


「こんな事今までなかったのに……」

 

 私は、糸が切れるようにそれを解除した。

 













 ―――――ボーっとした。















 空が青かった。

 

「あれ……私は何をしていたんだっけ?」


 いつの間にか手に握られていた『黒塗りの写真』。

 それをゆっくり視線を落とし見つめる。


「気持ち悪っ!」

 

 墨をこぼしたように黒く塗りつぶされた真っ黒な写真。

 

 背筋が寒くなった。

 

 手から離そうとするが、指先がそれを拒んだ。

 手が(かじか)んでいるのかもしれない。

 

「呪いの写真」

 

 思わずツッコんでしまった。

 違う違う。 

 近くのゴミ箱に目を移す。

 

「早く捨てないと」


 私はそれを丸めると近くのゴミ箱に捨てようとする――――が、手がそれを離そうとしなかった。寒いからなのか、身体と脳の命令が異なるかのように、震える手が、再度必死で抗ったのだ。


 動揺した。

 

「なにこれ!?」 


 片方の手で写真を握った指先を一本ずつ離す。

 ゴミ箱に捨てようとする手が、まるで何かに縋りつくように震えた。

 それに薄気味悪さを感じながらも、そのままゴミ箱の奥まで手を突っ込み、無理矢理手を離した。


 


 

 ――― しばらく意識が遠のく。

 




「あれ!? って。なんでゴミを漁ってるの!?」

 

 私は自分の奇行に驚いたのであった。

 

 

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