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俺の名は”NO”マン 全てを否定する男


 今、俺はモリドールさんの晩飯を買ってる。

 あの人は自炊が出来ない。

 今日は疲れたので、出店で済ませようと思っている。

 というか商業区にわざわざ行くのが面倒だった。



 そして俺はある重要な事を確認しておきたかった。

 それは寮の設備だ!

 寮の設備は流石の一言だった。

 三食出るのは当たり前。

 和洋中なんでもござれのハイパー設備。

 基本的に学園生は無料で食べられるらしい。

 一体収益はどこから上げてるんだ?

「悪事を働いてるんじゃないだろうな?」

 ありうる。

 俺の転入の際に学費なるものは払っていない。

 てか、メガシュヴァ運営がそこまで考えてなかった説すらある。

 やめよう。

 そこにツッコみ始めたらキリがない。

「税金か?」

 いや、ここには世界中のVIP諸君が居る。

 有志で費用を出し合っていてもおかしくない。

 卒業生もどうやら超大物ばかりのようだし。

「ありえるな。そういう事にしておこう」

 後で請求書の束が送り付けられない事を……

「切に願う。マジで送って来ないでね」

 俺の嫌いなモノの一つに納税があるんだから。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 もうそろそろ帰ろうかなと思っていた時だった。

「君、なぜわざと負けた?」

「え?」

 俺はそんな意外な言葉に振り返った。

 そこには頭からモフモフの獣の耳。

 モフモフの尻尾。

 それを生やした美女が立っていた。

「ゲッ!?」

 マジかよ。

 こんなとこでこのキャラに呼び止められるとは。

 美女の身長は170は超えている。

 威圧を周囲に放つ雰囲気がある。

 右頬から肩にかけて大きな傷跡が見え隠れしていた。

 だとしてもその美は失われていない。

 むしろ中二心を掻き立てるカッコよさすらある。

 俺はこのキャラのフュギュアを持っていた

 戦闘モーションのカッコよさもさることながら、やはりビジュアルがいい。 

 褐色の肌に灰色の長い髪の毛を健康的なポニーテールに纏めている。

 瞳の色は綺麗な藍色であり、非常に長いまつ毛で切れ長な眼。

 可愛さよりも美しさやカッコよさが先に来るキャラ。

 このキャラ特有の八重歯が見え隠れしていた。

 間坂まさかイズナ。

 メガシュヴァにおけるヒロインではない。

 しかし彼女にもストーリーが用意されている。

 運営お気に入りキャラだ。

 もはやメインキャラと言っても差し支えないほどに。


 彼女は俺に再度問う。

「天内くん。君はなぜわざと負けたんだ?」

 狼型の獣人である彼女。

 獣の特徴が出ているのは獣の耳と尻尾。

 八重歯と両手両足の爪の部分だ。

 それ以外は人間と大差ないように見える。

 てか、エロかっこいい。

「あ、えっと? なんの話っすか?」

 見破られていた? 

 え? マジで?

 なんで?

とぼけるか。いいだろう。少し時間はあるかな?」

「いや、この後帰んないといけないんで。それじゃあ」

 俺は踵を返そうとするが、

「待て!」

 凄みのある声が俺の行く手を阻んだ。

「ええぇ」

「一手……手合わせしてもらいたい」


 ……………ノー。

 

 俺の中の"NO"マンが"ノー"と言っている。


「無理です」

 即答で返す。

 今日の俺の仕事はこれで終わりのはず。

 ノーマンもそのつもりだ。

 そもそもチュートリアルであなたの出番はなかったはず? 

 え? あったの?

 わからん。

「どうしてもか?」


 イエス! ディスイズ!


 俺の中の"YES"マンが"イエス!"と叫んでいる。


「ええ。それではさようなら。さようならっと」

 俺はゆっくりと歩を進め、その場から逃げようとする。

「待てと言っている!」

 イズナはN○Kの徴収員ばりに俺のパーソナルスペースに踏み込んできた。

 勘弁してくれよ。

 テレビも観てないのにお金払ってた嫌な記憶蘇っちゃたんだけど。

 異世界(このせかい)にはなくて安心したよ。

 ホントに。

「なんなんすか?」

 精一杯の怪訝な顔を作る。

「教えてほしいのだ。不甲斐ないが私は弱い。しかし……お前は強い」


 ……ノー!


 それは違う。

 声を大にして言おう。

 それは違うと。

 イズナさん貴方は俺より強い。

 俺の方が弱いんだって。

 マジで。


「あざっす。それじゃあ」

 僅か数メートルの足元をグルグルと踵を返す。

 もはや一人でグルグル辺りを回ってるだけだ。


 すると。

 イズナが俺の前に立ちはだかり回り込む。

 その度に俺は踵を返すのだが、再び俺の前にイズナが回り込む。


 もう360度回っちゃったよ。


「だから待てと言ってるだろ!?」

 彼女は涙目で激高した。

「私は、私は。知りたいのだ。なぜお前のような強者があえて負けたのかと」

「ナンノコトデスカ?」

 イズナは片言の言葉を無視して続ける。

「君は何の為に戦ってるのかと。どうやってそれほどの力を手に入れたのかを……故に一手手合わせして見定めたい。そして……」

 震える声でそう懇願した。

 ダンジョン行って修行すればいいじゃん。

 簡単だって。

 ガンバ! 

「その話面白そうですね。トム」

 不意に後ろから声を掛けられた。

 ゲェ!? 

 小町!? 

 なんで。

 ここで出てくるんだ。

 ややこしくなるだろ。

 引っ込んでろ。

 お前はもう幸せになっただろ? 

 死ぬ運命もなくなった。

 貞操も守られた。

 ハッピーエンドじゃねぇか!?

 俺はもうお前にしてやれることはないんだよ!?

 それになんで俺がトムだとわかった?

 いやいやそうじゃない。

 今は動揺してはいけない。

 ポーカーフェイスだ。

「トム? 頭おかしいんじゃないの君?」

 何を言ってるんだ俺!

 言った後、後悔した。

 完全に煽っとるやん!? 

「ぐッ」

 小町は唇を噛みしめ、言いたい事を飲み込み笑顔を作った。

「天内さんですよね? なんでトムって言ったら振り返ったの?」

 出た出た。

 揚げ足取り。

 確かに振り向いたよ。

 トムって言われて振り返りましたけど何か?

 いるよねぇこういう奴。

 言葉の端々をあげつらう人。

 ホント嫌んなっちゃう。

 前世でも居たんだよこういうおばさん。

 お局さんよぉ! 聞いてるか!? 

 おっと、いけない。

 脱線してしまった。

「トムヤムクンの話を振られたのかなって? 思ったんですけど。何か? なんか文句あるんすか?」

 なんで俺は意味不明な逆切れしてんだ!? 

 馬鹿なのか俺。

「はぁ?」

 小町は呆れた顔だ。

「じゃあ俺は帰るんで。忙しいの。早く帰った帰った」

 俺は二人に手払いする。

『イラッ』

 小町は言葉に出さなかったが、完全にイラっという擬音が聴こえた。

 やっべ。

 キレそうになってるよ。

 青筋を額に浮かべ、再度笑顔を作る小町。

「おい! 聞いているのか!? 私と一手手合わせしろ!」

 左から、イズナは凄い剣幕だ。

「天内さん。少しお話を。もちろんこの方との指南の後でいいので」

 前方からは小町の謎の微笑。

 めんどくさくなってきた。

 キチィ。

 帰りてぇ。

 なんでバレてんの?

 意味わかんねぇよ。助けてくれ。なんでメインキャラに囲まれてんの?

 俺とは関わってないで早く主人公のとこに行け。

 そしてイチャコラしてこい。

 俺の夢の一枚絵の為にも。

「もっといい男に訊いてきて下さいよ。

 ほら、あそこの壇上で立ってる人。

 うわーかっこいいなぁ。

 優勝者だー。強そうだなぁ。

 俺よりずっと強いんだろうなぁー」

 大型スクリーンを指差し、ブロック優勝者が壇上で登壇して笑顔で喋っている光景に目線を誘導させた。

 ミスディレクション発動!

「ふざけるな!?」

「ふざけないで下さい!!」

 イズナと小町は俺を挟み撃ちして詰め寄った。

「ノー……」



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