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集大成


/3人称視点/



 天内傑は気付いていない。

 自身に異常な数の強化(バフ)が乗っている事実に。

 

 知覚加速。筋力増強。回避強化。自然治癒。超感覚……

 




 クリスマスイブ―――





 それは過去、風音がアルターグリフの襲撃を受けた日。


 時空の幻獣:アルターグリフを宿す伝説の英傑達は1人1人が一騎当千の猛者揃い。


 槍兵ムジナ。

 盾兵イガリ。

 剣兵アレックス。

 騎兵アラゴン。

 弓兵フィリオ。


 風音に刺し向けられた無表情の英傑は一個パーティー。

 本来、彼の下に辿り着くはずだったクローンは、さらに多かった。

 

 風音をユラの解析に留まらせたのは、それ以外のアルターグリフを天内傑が処していたから―――

 

 深淵の魔術師が視た未来。

 それはどのようにしても風音を解析できるに留まる未来だった。

 



 学園の薄暗い林の中。



 

 木々の間を閃光が駆け巡る。

 

 天内が初めて獲得したチート。

 彼を序盤から終盤まで支える神速(タキオン)

 彼を最高速に引き上げる異能。


「死ねぇぇぇぇいいい!!!!」


 それは天内の咆哮。

 死神にも似た絶叫。



 夜明けの静寂を切り裂く無音の閃光。

 



 神速の風が駆け抜けると―――ムジナの首が宙に飛んだ。




 彼女の首が落ちるよりも先に迎撃態勢を整えるイガリ。彼はあらゆる攻撃を反射する盾:リコイルハンマーを構えるが―――


「反応速度が遅すぎる! お前の弱点はその技を過信している事にある」

 

 刹那―――




 ――――――閃光が舞った。



 

 天内から放たれるは、その全てが武の極地。

 滑らかな剣の軌道は、鉄剣が描く弧ではない。

 

 しなやかなムチのような軌跡。

 

 速すぎる剣閃。

 滑らかな剣筋は盾を掻い潜り、イガリの両手を切断した。


「!?」


 アルターグリフを宿すイガリの目が困惑に染まる。


 本来、恐怖に染まらないただのクローン。

 感情が宿らぬそれが信じられないという顔を浮かべる。


 だが、その両目が驚愕に変わるよりも速く―― 


 両手が地面に落ちる前に―――

 

 イガリの視界がブレる。

 困惑顔が真一文字に両断された。



 同時―――



 天内の背後に螺旋回転する暴風の矢が迫る。

 濁流のような激しい風切り音を上げる。


 周囲の全てを巻き込みながら呑み込んでいく。


 木々が根こそぎ剥ぎ取られ、大地は抉り取られていく。

 

「ド素人が。威力の高い攻撃はスナイプに向いてない。極限まで精密操作しなければ、それはただの大振りにしかならない」


 彼の眼が光った。

 眼で追うのは、矢本体ではない。

 破壊されていく大地の影。

 

 彼はそのすぐ横を紙一重で駆け抜けた。 


「そこだ!」

 

 彼は放たれた矢の方角を瞬時に見極めた。


 極限まで引き上げられた直感。 

 研ぎ澄まされた経験と技巧。

 

 次なる標的をフィリオに定めると。


「来い!」


 手の平を掲げる。

 天内のスキルが発動した。


 スキル:アームズコール。


 夢魔界都市にて天内を凌駕する夢魔の剣技を突破した技。 

 

 離れた位地にある武器を手元に手繰り寄せる異能。

 

 事前に周囲にばら撒いた武器が宙を舞う。


 天内の武具とフィリオを対角線に結ぶと、どこからともなく武器が飛来する。


 遠距離技が使えない天内。

 彼が工夫した遠距離技。


 武器を呼び寄せる事を逆手に取った遠距離技。 

 

 次の瞬間―――

 弓矢を放ったフィリオの後頭部に刃物が突き刺さった。


「お前は問題外」


 すると、白兵戦を得意とするアレックスが剣閃を飛ばす。


 


 ――――が。




 ガチャリと。

 金属がかち合う、鈍い音を奏でる。

 

 剣戟が引き起こった。 

 剣聖とまで謳われた流麗なアレックスの剣筋。

 

 それは火花を散らしながら天内の細剣を捌き、鎖骨を狙う。


 すると―――

 天内とアレックスの間に撃鉄が鳴る。

 

「お前とは何度も戦った」


 コンマ1秒にも満たない鍔迫り合い。

 両者の剣が離される。


「……」

 言葉を発さない青白い顔のアレックス。

 彼の表情が一瞬強張った。


「俺に2度目はない。お前の動きは俺が教えた借り物。それ以上の学びがない。進化しないお前は……俺の敵ではない!」


 剣聖の剣筋。

 武の最高峰であるはずの剣技は、彼の前では二度目はない太刀筋となる。

 

 何よりその剣技は天内の模倣。

 見破られれば価値がない。


「剣が槍を相手に闘うには、槍の3倍の技量が必要らしいぜ」

  

 天内は不敵な笑みを浮かべる。


 スキル:暗器。

 手元の武具を手品のように―――

 剣を槍に切り替える。


 それは彼の多彩さを決定づけた武器を隠し持つだけの弱い異能。

 

「っ……」 


 アレックスが一瞬、半歩ほど後ずさる。

 わずかな後退。

 しかし、天内にとって、十分すぎる致命的な間合いを生む。


「恐れこそが最大の敵なんだぜ……行くぞ。採点の時間だ」


 天内は静かに呟くと。

 ヴァニラが持つアーツ。

 天内が模倣した。


 

 アーツ:神速斬。

 

  

 魔獣王山本を撃破した技が発動する。

 

 超高速の刺突が――――放たれた。


 

 毎秒500発に迫る死槍。

 


 それは、空気を圧縮する。 

 瞬き程の間に、アレックスの身体は蜂の巣になった。



 間髪入れずに―――

 


 宙を舞うアラゴンが操る業火の戦車。

 それが周囲の酸素を奪っていく。

 大魔法が展開し。

 周囲を燃やし尽くす炎の雨が降りそそごうと―――


 それよりも速く。


「火力の高いお前が一番厄介だ。だから……」


 ―――装填完了 


「エクストラ……バレット」

 

 高火力な必殺の一撃を持たない彼を序盤から支える唯一の中距離技。所有する武具の一つを弾丸に変換する投擲技。


 刀剣のミサイル。


 それが、高速で宙を裂き―――

 

 

 アラゴンの上半身を吹き飛ばした。


 

 通常、対人戦では本気を出さない天内。

 魔法学園では常に手を抜き続けた。


 彼は不死身の魔人や人類存亡の危機の終末戦でしか本気を出さない。


 なぜか? 

 余りにも速すぎるから。

 圧倒的に強すぎるからだ――――

 

 ほとんどが瞬殺で終わってしまう。

 

 そんな彼は初っ端から『フルスロットルの本気』を出した。

 

 彼が伝説的英雄の1個パーティー。

 それを葬るのにかかった時間……


 たったの30秒。


「まだやれるだろう?」 

 

 久しぶりに使用した超高速。

 

 代償で手足が焦げ。

 発火するかのように蒸気を放つ天内。


 損傷するはずの脳の沸騰は、同時に治癒されていく。彼は気付いていないが、本来長期戦に向かない天内に施された強化が自動で発動していた。

 

「あと何人残っている?」


 確かめるように周囲を視線を飛ばす。

 

 既に天内の周りには―――

 複製体の死体は警戒しながら姿を現わしていた。

 

 伝説的英雄のクローン達。


 アレックス、ムジナ、イガリ、フィリオ、アラゴン。


 

 

 ――――切っ先が光る。




 それは速攻。

 神槍の姫ムジナは既に追撃を放っていた。


 ムジナの屈折する影を縫う槍。

 複雑な軌道を描く切っ先は、影を縫い付け、動きを封じる。


 だが――――


「その技は知っている……追尾する弾丸(トラッキングバレット)


 天内が空中に待機させていた12枚の武具の羽。

 ハイタカのエンチャントによって強化された不可視の12の刃。

 

 千秋の防御を突破する為に編み出した技。

 ボルカーの猛攻を防ぎ続けた攻防一体の守り。

 

 それは今や彼を守護する絶対的な守り。

 

 12枚の羽翼が、槍兵が放つ神槍を弾き返す。


  

 槍兵ムジナの視界が揺れた。

 

 

 何が起きたのか理解する前に―――

 彼女は、自身の体が崩れていくのを感じた。

 上半身と下半身は真っ二つ。

 彼女の上半身と下半身は両断されていたのだ。

 

「ふむふむ。奇襲はいいぞぉ」


 称賛する天内の周囲の地表。

 そこには、いつの間にか、深い斬撃の痕が残っていた。

 

「10……11、12、13……ざっと20以上。本物には遠く及ばないお前らは借り物の身体でどこまでやれる? アルターグリフ」


 彼は軽く細剣を振り回し。


「さぁ……パーティーの始まりだ」

 

 お気に入りのセリフを宣言した。


 

 天内傑は強力な魔法を一切使用できない。



 マリアのような莫大な魔力を持たない。

 小町のような特別な眼を持たない。

 千秋のように、爆発的な魔術など使えない。



 故に工夫する。



 物語の流れを知る『未来視にも似たゲーム知識』だけではない。


 この世界で培った経験・技量・鍛錬。 

 異世界で磨かれた武の極地。

 それらが彼を成長させた。

 

 音魔法は静かな足捌きを実現する。

 神速の動きと無音の攻防は、捉える事を困難にする。

  

 持ちうるスキルとアーツは矮小。

 だが、最適解に駆使する。

 この世に無駄な物はないと宣言するように。

 全ての場面で有効打を放つ為に、操る武具は多彩を極めている。

 


 極光の力を持たずとも――――




 その実力は世界最高峰。

  




 


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