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人から神へ


/3人称視点/




 深淵の魔術師は自身の勝利を確信している。


 


 彼の力は―――

 あらゆる異能を模倣し、盗み取った時空間魔法と死霊術を操り、さらに規格外の召喚術は超級の魔物を使役する。

 

 彼が使役する魔物の配下も規格外。 

 分身する魔物は、数百を超える伝説の英傑達の亡骸に宿り、かつての聖女ユラの亡骸には『万物を呑み込む蛇』が宿る。彼女は聖女と魔の二つの力を秘めていた。

 

 しかし彼はそんな絶対的な戦力を持ちながら慎重であった。


 深淵の魔術師の瞳が映し出すのは、二つの未来。


 確定未来―――可変未来。

 

 確定未来は、すでに起こることが決まった未来。

 一方、可変未来は、まだ塗り替えられる可能性を持つ未来。


 可変未来は『極光の騎士』が『深淵の魔術師』に勝利の可能性のある僅かな綻び。


 深淵の魔術師は、その未来に執着する。


 百、千、万……彼の目の前に映るのは、『絶対的な勝利』ではなく、ほんのわずかな敗北の可能性。それを排除するため、彼は計算し続ける。

 

 深淵の魔術師の勝率は変動する。


 71%……77……


 全てが塗り替えられていく。

 深淵の魔術師の視る『可変未来』の全てが『確定未来』へと変貌していく。 


「足りない」

 

 78……79……

 次々と進行する数字。

 

 彼の見通す未来の全てが『勝利』を映し出していく。 

 

「まだだ」 


 どれほどの強大な力を持っていようとも。

 彼は慎重に、入念に、僅かな隙も許さない。

 決して慢心などしない。


 91……99……


「残り1%。まだ油断は出来ない」


 99.1……

 99.2……

 

「まだ、完全な勝利からは程遠い」


 彼は、どんな可能性も排除する。

 

 99.9……

 99.99……


 例え、1000回勝負しても1度でも負けるのならば、それは怠慢であり、軽率。全ての盤面が覆らない以上、まだ完全とは言えない。


「これでも足りない」


 99.999……

 

 1万の試行を行い、仮に9999回連続で求める数値が出たとしても、最後の1回が不確定ならそれは演算として正しくない。

 

「綻びはまだある」


 文字通り『絶対』を手繰り寄せる。

 徹底的に、相手に何もさせずに勝つ。

 

 99.9999……

 

「まだ、まだだ。まだ確定しない」


 そして、遂にその時が訪れた。

 全てが映し出された。どんな未来を辿ろうとも、深淵の魔術師が勝利する未来が。


 100%―――


 可変未来は消え、全てが確定未来となる。

 それは、絶対に引き起こる未来だ。

 結末の全てが一致し、揺るぎない勝利が確定した。

 

「さらばだ。ネイガー。貴様の勝利は絶対にありえない。逆転の余地は……この世にない」 

  

 未来を見通すが故の傲慢な一言。


 そんな冷酷な勝利宣言に向けて。  

「貴様の目的はなんだ?」


 両手両足を鎖で繋がれたルミナは深淵の魔術師に問いかける。

 

「なんだ目を覚ましていたのか………」


 深淵の魔術師の冷たい声が、無情に空間を切り裂く。


「……」

 ルミナは何も言わず、ただ無言で彼を見つめ続ける。既に息も絶え絶え、体力の限界を迎えている彼女の目は、鋭さを失っていなかった。


 玉座に座る深淵の魔術師は、静かに息を吐き、ようやく言葉を紡ぎ始める。


「私の目的は1つ。永遠に過去を繰り返す事だ」


「過去を繰り返す……だと?」

 

 ルミナは言葉の意味を理解できず、混乱が胸を占めた。目の前の魔術師が一体何を言っているのか、全く掴めなかった。


「大魔道師ルミナ……こうして話すのは久しいな」

 

 深淵の魔術師の目が輝き、左右に異なる色を放ちながらルミナと視線を交わす。


「その眼の紋様……マルファの……」


 ルミナの記憶が一気に呼び起こされる。特徴的な幾何学的な紋様。それは、彼のかつての仲間、賢者マルファが持つ魔眼と同じものだ。 


「安心したまえ。君は決して殺しはしない。だが、邪魔立ては許さない」


 その冷徹な言葉に、ルミナの心は震える。

 目の前の魔術師がかつての仲間だと信じられない思いが湧き上がる。


「……貴様……何者だ?」


 ルミナの声はかすれ、震えていた。


「かつての親愛なる仲間だよ」


 深淵の魔術師の言葉に、ルミナは思わず息を呑む。


「……お前、マルファか?」


 深淵の魔術師はそれに答えず。

 その瞬間、彼の肩にひと羽の緑色の小鳥が止まる。


「……それは……」

 

 ルミナは混乱し、言葉を失う。

 目の前の光景が信じられなかった。

 

「これは私が初めて使役した魔物」


「グリスパーク……お前、まさか……」

 

 ルミナが呟いた言葉は、途切れ途切れになりながらも、ようやく絞り出された。


「そうだ。1000年前、君らと共に冒険をした仲間。忘れたのか?」


「ヴェルトラン……。クロウリー・ヴェルトランか?」


「久しいな。ルミナ」

 

 深淵の魔術師、クロウリー・ヴェルトランは、かつての仲間の顔を見つめながら、ゆっくりと一歩踏み出した。

 

 



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