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最期の儀式② インスピレーション




 モリドールさんとカードゲームをしていた。




 ポーカーである。

 ポーカーはいくつか種類があるが―――

 今回は、ドローポーカー。

 一度だけカードの入れ替え可能なルールである。

 

「どうかしら? 私の勝ちのようね」


「……そ、そうですね」


「天内くんって本当に弱いよね。こういうの」


「そ、そうっすね……」


 愛想笑いをしながら、俺は負けを認めた。

 手札を見直し、戦略の甘さを反省する。


 

 さて、俺が以前、彩羽パパに突然将棋を挑まれた際、勝てたのには理由がある。



 それは、モリドールさん相手に何度もボードゲームで鍛えられていたからだ。


 モリドールさん。

 彼女はボードゲーム全般がかなり強い。

 いや、もっと正確に言おう。

 彼女は『幅広いゲームを知り尽くしている』だけでなく、『やり込みすぎて無駄に強くなっている』のだ。


「ねえ、天内くん。そろそろ本気出してくれない? 」


「本気でやってます」


「弱すぎて、退屈になってきたわ」


 彼女の口調には余裕が漂っている。


 さて、なぜモリドールさんがこんなに強いのか。

 そんな彼女の過去を、俺は知っている。

 それは、彼女が酔っ払うと自然に漏れ出してくるのだ。 


 彼女は学生時代うだつの上がらない学校生活を過ごしていた。

 

 現在、学園はおかしな事になっているが、彼女がマホロに在籍していた当時は、今よりも庶民に対してより排他的な雰囲気がマホロを支配していた。


 そんな時分の時。

 モリドールさんは一人遊びを極めた。

 学生時代友達が居なかったモリドールさん。


 例えば、こんなエピソードがある―――

「休み時間、友達がいないから校内をただひたすら徘徊してたのよ」とか。


「授業中、練り消しをいじっていたら、いつの間にか『鼻くそ』なんてあだ名を付けられてた」とか。


 なんでそんな事をしたのか知らないが、実家に帰るたび、親に『友達と遊びに行く』と嘘をつき、門限ギリギリまで近所のカフェで時間を潰していた、とか。

 

 なんだか卑屈なエピソードが多いのだ。


 そして彼女はぼっちを極めてオンラインゲーム、特にボードゲーム界隈では、謎の強者として名を馳せたらしいのだ。

 

「私、リアルでは誰も見向きしないけど、ネットだとみんな崇めてくれるの!」

 

 と、自慢げに語る姿が、今でも思い出される。

 しかしまあ、こうした悲哀に満ちたエピソードの数々が、彼女を今日のボードゲーム女王にしたのだろう。


「そういや―――」

 と、俺は閃いたかのように口を開いた。


 今探している『召喚士』について、いいアイデアがないか、それとなく聞こうと思ったのだ。




 俺はカードを配り終えると。




「モリドールさんってオンラインゲームで滅茶苦茶強いんですよね? 俺はカード変えますね」


 俺は手札を交換し、ツーペアを完成させた。

 悪くない。


 モリドールさんは自分の手札を一度チラリと見て。

 そのままカードをテーブルに伏せた。


「『リドモー』というハンドルネームでブイブイ言わせてたわ」


「もしかしてポーカーもですか?」


「当然よ。あ、私はカードの交換なしでいいわ」


「強気ですね……でも、オンラインゲームって顔が見えないですし。ブラフも通じにくい。手札は勿論見えないし、盤面の視えているゲームより難しくないですか?」


 俺は自分の手札を見ながら、モリドールさんに尋ねた。


「ええ。難しいわね」


「ですよね……でも、どうやって勝ってたんですか?」


「天内くんってボードゲーム好きなのに、今更じゃない? じゃあ、乗るわ」 

 モリドールさんはレイズ宣言をした。


「そうっすかね?」


 俺はそれに乗るかどうか考える。

 余程いい手だったのか?


 俺の手札はツーペアが出来ている。

 手札は強くはないが悪くはない。

 モリドールさんがレイズ宣言をしてきたという事は、初手で同じ役かそれ以上の手札があるかもしれない。


 しかし……

 俺はコール宣言をして勝負に出る。

 


 手札がオープンになると―――



 モリドールさんはブタ:役ナシ。

 俺はツーペア。

 つまり、俺の勝ちだ。


 モリドールさんはブラフ仕掛けていたという訳だ。


「今度は俺の勝ちっすね。なんでブタなのに変えなかったんすか?」


「それはね……ポーカーが一回のラウンドで終わるゲームじゃないからよ」


 再びカードを切り直して、お互いにカードを配り終える。

 

 初手で俺のカードはツーペア。

「じゃあ、俺は一枚カード交換します」


「どうぞ」


 俺は手札を入れ替えるが。

 依然ツーペアのままだった。


「んぅ~。どうしようかしら?」

 モリドールさんは悩んでいた。


「それで、さっきの話の続きなんですけど」


「どうやって勝っていたかって話だよね?」


「そうです。そうです」


「少し待ってね」

 と、モリド―ルさんは一言告げると。

「じゃあ、レイズで」

 モリドールさんは再びカードを交換せず勝負に乗って来た。

 

「……俺も……レイズで」

 

「じゃあ、私は3倍のレイズよ」


「え? またブラフですか?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわよ」


 モリドールさんの顔は無表情だった。


「……」


 迷う。どっちだ? 

 わからない。 

 今回は強気だ。

 降りるべきか?

 

 俺の頭には、先ほどの勝負の記憶がこびりついていた。2回目のブラフ負け。彼女の行動パターンが読めない。


 しばしの沈黙の後。 

 モリドールさんが―――

「いい。これが答え」

 

「え?」


「今の私の行動パターンはどうだったかしら?」


「一回目はモリドールさんの勝ち。二回目はモリドールさんのブラフ負け……っすよね?」


「そうね。この回のゲームでも私はカードを変えなかった。ブタかもしれないのに」


「そうですね」


「今、天内くんの頭の中では2回目の私の行動の印象が残っている。ブタで勝負してきた私の印象が。でも、1回目で私は天内くんに勝っている。それに天内くんは私に対して事前にポーカーが強いという印象も持っている」


「そ、そうっすね」


「今回、私はカードも変えずレイズをしてきた。それも強気で。だから今、迷った? 違う?」


「……」


 俺は黙った。

 その通りである。

 だからなんだというのだ?


「多分だけど、今、天内くんの手札は前回と同じツーペアもしくは良くてスリーカードって所かしら?」


「……」

 マジか。見透かされているぞ。 


「この勝負は私が勝つと思うの」


「それはわからないですよ?」


「いいえ。私の勝ちだわ。重要なのは1回目と2回目の伏線なの。特に2回目で私の手札はブタ。けれども勝負を仕掛けた。あれ、実は『わざと負けた』の。これがどういう効果を生むかわかる?」


「……わざと負けた。混乱させる為ですよね?」


「違うわ。この3回目のゲームで(まく)るためよ」


 彼女の言葉に、俺は動揺していた。

 目の前の勝負に集中しようとするが、彼女の余裕ある態度が頭にこびりつく。


「……ブラフっすか?」


「それで? 天内くん。コールするのしないの?」


「今回もブラフだ。じゃあコールで!」


「そう……残念だわ」


 お互いに手札がオープンになる。


 俺ツーペア。

 モリドールさんスリーカード。

 モリドールさんの勝ちである。

 しかも、今回は一気にチップを奪われた。


「うっわ」

 俺は頭を抱えた。


「ポーカーは確かに運要素があるわ。けどこのゲームの妙は1回のラウンドで勝負がつかない事にあるの。2回目、3回目、4回目……その先を見据えて、『敢えての負け』を巧妙に織り交ぜる。それがこのゲームの勝ち方よ」


 彼女の笑みには余裕が満ちていた。


「負けというネガティブな要素を、逆手にとって巧妙に戦略に組み込むって事ですか?」


「そ。勝ち誇ってる時が、一番足元がお留守になってるものなの」


「……な、なるほど。敢えて負けるか……」



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