5日後に死ぬ天内
ほぼ天内の独白です。
―― フィーニス ――
それはラテン語で『Finis』、『終わり』、『結末』、『終末』を意味する言葉だ。物語の最後のクレジットで表記される『fin』そのものを具現化した存在とも言える。
それが体現するのは――――
『Finis Coronat Opus』。
『終わりが作品を完成させる』という真理。
だが、ここにはもう一つ隠されたテーマがある。
それは――――
俺は『マジックきのこ』の試作品を手に取り、手元で弄ぶ。
「やはり完全な調整は難しい。これで行くしかない」
アルジャーノン計画。
香乃が最後まで理解できなかった計画。
それはフィーニスを「倒さない」ことで打破する方法。
フィーニスは仮に倒しても『終わり』だし、倒さなくても『終わり』という訳の分からないメタ的な存在。フィーニスは『結末を観測』した瞬間に『結末が確定』するのだ。
「ならば、『結末そのものを観測させない』状況を作り出せばいい」
これがフィーニスの突破方法。
俺の導き出した最後の答え。
計画の流れはこうだ。
例えば―――
フィーニス接触時を午前10:00ジャストにした仮定する。
1)10:00にフィーニス自身へオルバースの「待った」をかけ、戦闘開始前に戻す。
2)香乃の時空間魔法で、フィーニスを例えば1分前の9:59へと戻す。
3)10:00に再び「待った」が発動。
同じサイクルを繰り返す―――
10時の時間軸の。
無限の俺A、B、C……
無限の香乃A、B、C……
この2人がフィーニスを過去に無限に戻し続ける。
時間の鏡合わせのようなもの。
そして、この計画でキモになるのは、操作を行った俺達が、結末であるフィーニスを『観測したという事実』が消えなければフィーニスを完全に封じ込めたとは言えない。
そこで記憶の消去だ。
フィーニスを完全に封じるには、『観測した記憶そのものを消す』必要がある。俺と香乃がフィーニスを忘れ去れば、初めから存在しなかったことになる。
これがアルジャーノン計画。
フィーニスを『この世界から切り離す』。
これは出来るはずだと確信がある。
ゲーム:メガシュバには『フィーニスが顕現しないルート』が存在した。
俺は『結末の、その先の物語』を知らない。
でも確かに存在している。
―――と、そんな事を考えていると。
「おい、傑」
「ん?」
「話がある」
香乃が深刻な表情で俺を呼び止めた。
その顔には、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「どうした?」
「実は―――」
香乃の口から語られたのは、かつての戦友、聖女ユラとこの時空で出会った話だった。彼女は生前、香乃と共に戦い、幾度も命を救ってくれた仲間。
だが、香乃は震える声で告げた。
「ユラは……もう、あの頃の彼女じゃない。禍々しいモノに変わり果ててしまった。あれは魔物に憑りつかれている……と思う」
・
・
・
数日経った―――
時計の針というのは止められんものだ。
新年が明けてから、時間はただ無情に流れていく。
その過程で諸問題が発生していた。
香乃が語ったユラの異変と出現。
組織の情報によると、聖剣ルミナは消失。
超級の魔物を操る召喚士の所在も不明。
「ユラ、見つからない召喚士。延命手段もまだだ。それに、聖剣ルミナも消えた……か」
俺は大きく伸びをした。
「考えても仕方ない。とりあえず飯でも食いに行くか」
こういう時こそ日常を普段通り過ごすのだ。
仮に明日隕石が降りそそいで地球が終わるという非常事態宣言がなされても、俺は自宅でゲームをして晩御飯の準備をするのだ。
人生最後の1分まで日常を楽しんだ者の勝ち。
それが俺の人生哲学。
モブはルーティンワークを欠かさない、のである。
新年の活気が収まった街へ歩き出す。
スマホを取り出し。
千秋に『三郎ラーメンでもどうよ?』とメッセージを送った。
この時間軸で過ごせる残り時間は……
残り4日。
過去のイブで1日過ごす。
『究極俺』使用して20日以上の寿命は吹っ飛ぶ計算だ。
だから俺の残された時間は―――
「実質5日ってとこか。終着点は間もなく目前か。どうっすかな~」




