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過程を楽しむ物語





 大晦日の催しであるタイムアタック戦は呆気なく過ぎ去った。




 決定的な勝者を出さず―――

 全陣営時間切れで幕を閉じたのだ。

 俺は残り1時間で本気を出した。 




 だが……失敗した。




 否、時間が足らなかった。

 ダンジョンを迷いの森に変貌させた深緑はフィリスの酸性雨で枯らす事は出来なかった。

 

 なぜか? 雨が謎の冷気で凍ったのだ。 

 毒ガスもイレギュラーだった。

 借金の帳消しチャレンジは失敗した。

 

「……フィーニス戦でも、寿命タイムアタックするし、同じことになるんじゃねぇだろうな?」

 

 空笑いした。

 

 失敗したら、多分笑うかも。

 内心すまんって手を合わせよう。

 それに、案外呆気なく終わりそうだ。

  

「それにしても生き残る前提で、負債をチャラにするつもりだったが、終わったな」

 

 降って湧いた唯一のチャンスっぽいボーナスステージ。

 それが終わったのだ。

 俺には10億近い借金がある。

 返せる訳がない。

 生き残っても生涯を負債返済の為だけに過ごす事になるだろう。

 

「はぁ~……」


 深いため息を吐き。

 少しだけ現実逃避した。

 

 頭の中でフローチャートを想像する。

 フィーニス戦後の俺の未来予想。


 生存ー>借金は返せないー>終わり

 もしくは――

 死亡ー>終わり 

 

「ふむ。結果は変わらないな」


 行き着く所はどちらにしろ『終わり』だったわ。

 とは言え……

 今目の前を歩く人々も。

  

 生存ー>数十年生きるー>終わり

 

 これも出力される『死:終わり』という同じ結果だ。



「そうか……そういう事か。フィーニスの本質って単純に『平等』なだけじゃ?」



 才人も凡人も、貧富も、人種も、美醜も、家柄も。



 『死』の前では等しく『平等』……



 全ての生命は必ず『死』という結末を辿る。

 

「……けど。違うよなぁ。そうじゃないんだ」


 現実世界は残酷だから―――

 数字の世界では『結果』しか求めない。

 

 フィーニスも同じく過程をすっ飛ばして『結果:死』しか求めない。

 

 しかし……

 

「人の世界では『過程』が大事なんだよ」

 

 フィーニスが『すべてを平等に終わらせる』存在ならば。

 

 俺は『人生の不平等さこそが過程を彩る』と思っている。

 

 

 俺は知っている。

 

 

 過程……

 その中で出会う無駄こそが人生を豊かにする。

 無駄に見えるものの中にこそ価値がある。

 この世に不要なモブキャラが居ないように。


 ゴールではなく、その途中にこそ人生の本質がある。

 

 だからこそ。

 俺はどうしても結果しか求めない『終末の物語』を終わらせたい。

 

 道行く人々を眺める。

 

「彼らには『過程を楽しむ物語』を歩んで欲しいから」


 それはもしかしたら、余計な事で、大きなお世話かもしれないけど……


 ・

 ・

 ・ 

 

 すると―――

 

「天内さん。こんな所に! 貴方に大事なお話が……」


 肩で息をするマリアが神妙な顔をして声を掛けて来た。


「はい。なんです?」




「ハッピーニューイヤー!」と、新年を祝う観光客がそこかしかに居た。



 

 帰宅する者と新年を祝う者が入り乱れる学園の隅であった。

 

「―――と、いう状況です。まだ調査は続けていますわ」

 彼女は今までの進捗を伝え終わる。


「……なるほど。ありがとうございます。助かります」


 彼女から手渡された幾枚かの資料に目を通す。 


 ふむ……やはりな。


「どうですか? お役に立てそうなものはありそうですか?」


 彼女はじっと顔を覗き込んできた。


「ええ。本当にありがとうございます。知らない事だらけだ」

 俺は頭を下げた。


「本当ですか!?」


「ええ。感謝します。ありがとう」


「お嬢様! こんな所に! 急いで帰りますよ!」

 と、初老の男性がマリアの下に血相を変えて駆け寄って来た。


「今は大事な話をしています。下がりなさい」


「ソフィア様が大変心配しております!」

 マリアの執事の爺やが彼女を説得する。

 

 どうやら、彼女の母がマリアをしつこく呼んでいるようなのだ。


 時刻は既に深夜。

 親目線なら心配するのも当然だ。


「どうぞ。今日はこの辺にしましょう」

 俺は目くばせする。


「ですが。まだ話が終わっていません」

 

「また、今度。今日は冷えるし、もう遅いですから。資料ありがとうございます。ちょっと読んでみますね」


「今度って、今度は―――」


 彼女の声に被せるように。

「約束は守ります。安心してください。大丈夫ですよ」


「……しかし」 

 と、何度も食い下がる彼女を宥めた。


 

 

 そこで話は一旦お開き。

 



 マリアと別れ。

 俺は学園の露店でおしるこを買い、それを片手に空いている席に腰掛けた。

 

 先程、彼女から手渡された資料。

 分厚い紙の束であった。


「随分頑張ってくれたみたいだな」


 彼女が探索している延命手段云々(うんぬん)の話。

 

 結論から言うと―――




 全て俺が知っている内容だった。




 マリアは知らない。

 この中に解決法はない事を。

 あの場で即座に否定するのは(はばか)られた。

 そんな事出来ようはずもない。

 彼女の行動は徒労なんかじゃない。あの場で即座に否定するのは、彼女の努力を無下にするのと同じだ。


 結果は残念だが、過程が大事なのだ。

 自分の為に、必死に探して来てくれた。それだけで十分だ。


「しかし……ある意味予定通りか」


 俺に主人公補正はない。

 ご都合主義は発生しない。

 それは今夜のタイムアタック戦で証明されている。

 

「うんうん。仕方ないかぁ~。まぁそんなもんだよな」


 さて、現時点で俺の命のカウントダウンは35日程度。『究極俺』の使用を逆算して……


「成人の日まで残り2週間……」


 マリアはまだ探索してくれてる。

 探索を待てるリミットはそこまで。


「マリアと組織の探索に期待するしかない」

 

 俺の体感時間で、決戦の日は成人の日。

 その日、ギリギリまで待つ。

 結果がどうであれ―――

 成人の日からタイムトラベルで過去を中継して、3月中旬の『終末の日』に跳躍し一気にフィーニス戦。


 今夜のタイムアタック戦のようなイレギュラーが発生しなければ。


 俺の勝ちだ。


「今度こそ一瞬でカタをつけてやる。それで……この物語は本当のエンディングを迎える」


 

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