運命の引力
/3人称視点/
運命とは常々奇妙なものである。
どんな才能を持って生まれるのか。
性別は? 容姿は? 性格は?
どこに生まれ、どんな家庭で育てられ、どのような環境で過ごすのか。
誰に出逢い、どのように成長し、人生と言う名の答えなき旅路をどうやって歩くのか。
そんな中で、人との出逢いほど奇妙な事はない。
不思議なもので―――
初対面で『こいつとは仲良く出来そうにないな』と思う人物ほど、生涯の親友になったりするし、『顔も体型も性格も全然タイプじゃないな』と思える人物ほど生涯を共にする夫婦になったりする。
初対面で反感を抱いた者ほど人生で深く付き合ったりするものだ。
逆に―――
生涯の大半に関与する親や兄弟姉妹こそが、人生最大の敵になったり、厄介な人物になったりする事があるし、初対面で好印象な人物ほど、その後の関係が上手くいかなかったりする。
その答えは、神のみぞ知る。
人知の及ばぬ因果。
理由も理屈も存在しない。
それは宿命とか、運命とか、天命や定めとされる。
実の所を言うとだ。
当初、天内と反目していたフィリスという女生徒。
彼女は抜群に天内と相性が良かったりする。
相性診断をすれば群を抜いて高得点を叩き出す。
『星の巡り合わせ』というやつである。
天内という奇天烈で奇妙な男は、ある種、意図的に運命と言う名の物語を操作しながら、結果的に仲間が集まったに過ぎない。それは彼のパーティーメンバーであるマリアや小町、千秋、フランが当てはまる。
しかし、フィリスは必ず天内の味方になる存在。
『終末の物語』に関与しなくともだ。
天内が弱かろうが、強かろうが関係ない。
彼が魔法も武具も使えなかろうが、物語に介入しない存在だろうが関係ない。
初めからどうやっても出会う運命である。
まるで『運命の引力』とでも言える眼に見えぬ糸に引き寄せられるように。
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劇的な変貌を遂げつつあるダンジョン。
天内は、借金帳消しチャレンジの為、暗躍していた。
しかし、動き回り過ぎた彼は迷子になってしまっていたのだ。
その過程で邂逅していた。
分断され1人になったフィリスと―――
天内の口八丁手八丁が炸裂しようとしていた。
「いいか。フィリス。よく聞け、俺とお前で手を組もうではないか」
「手を組むだと?」
「ああ。そうだ。ここで俺とお前が争っても意味はないとは思わないか?」
TDR13騎士の奇襲により爆発天パになったフィリスはアフロ頭を傾けた。
「ふむ。道理だな。ここでいざこざを起こしても私になんの得もない。お前に勝てるビジョンなど思い浮かばないからな」
「謙遜するな。お前の多彩さは俺が良く知っている」
「お、おう。そうか。いいぞぉ天内。褒める分には遠慮はするな!」
突然褒められたフィリスは少しだけ鼻高々になる。
「フィリス、お前は本当に凄い奴だよ。それだけじゃない。美人でスタイルも良い。人望もある」
『はっはっはっ』と笑い、気を良くしたフィリスは尋ねる。
「それで? 手を組むとは具体的にどうするのだ?」
にやけ面を隠しきれないフィリス。
「その前に、まず。お前はこのタイムアタック戦、何位を狙っている?」
「ん? 騎士道精神に則って、やるからには一等をだな―――」
「いいや。違う。違うよねぇ」
天内は、フィリスの言葉に被せるように否定した。
「どういう意味だ?」
「俺はフィリスの騎士道精神論を聞きたい訳じゃない。いいか? お前は今、お金がないよな?」
「……そ、そうだが」
「月のお小遣いは?」
「なぜそのような事をお前に言わねばならん!」
「ところで、俺の剣はどっかの誰かさんのせいで質屋に入れて以降、戻って来ていない」
「うっ!?」
どっかの誰かさんであるフィリスは顔を歪ませた。
「だが、今回の余興。挽回できると思わないかね? フィリスくん。この意味がわかるよねぇ」
悪徳商人のような顔になる天内。
「……お、お前の悪い所が出てるぞ」
「1位は名誉、2位は金品、3位は税金の免除や債務整理の権利……」
「な、なんだよ。なにが言いたい」
「俺は3位を狙っている。これは絶対に死守したい」
「1位は狙わないのか!?」
「狙うもんか!」
「なにぃ!? わざと負ける気なのか!? それでは騎士道精神に反するではないか!」
「馬鹿野郎!」
「馬鹿なのは天内! お前の方だろう!」
「フィリスよ! 尻の穴かっぽじってよ~く聞け!」
「し、しり……下品だぞ! お前!? 何を言ってるんだ!!」
顔を赤らめるフィリスは激高する。
天内は悲しい顔を作ると。
「名誉では腹は膨れない……夢と希望ではお腹は満たされんのだ。お腹は空きっぱなし。腹が減って仕方がない」
「お前に食券をあげただろう! 毎日手作り弁当も作ってやると言ったではないか!」
「あんなもん食えるか!? な~にが弁当だ。スイーツをあたかも幕の内弁当みたいに作ってきやがって! どこの世界に刻んだマシュマロを白米のように偽装するアホが居るんだよ!? 産地偽装の概念を超えてるんだよ。生産者さんもびっくりだ!」
「甘い物は美味しいではないか!? 私の好きな物を共有して何が悪い!?」
「糖尿病になるわ! 血糖値爆上がりで死んじまうわ! お前は俺を殺す気か!?」
「うぅ!?」
当然すぎる反論に言葉を詰まらせるフィリス
ふぅ~と大きく息を吐くと。
「いいか。これを見たまえ」
天内は隠し持つフラッグをフィリスに見せつける。
「な!? 天内。お前、既に獲得していたのか!?」
「ああ。課題のフラッグは、誰よりも最速で獲得した」
「な、なにぃ!? さ、流石ではないか!! やはりお前は只者でないな! 我がヘッジメイズの誇りだ!」
「ふっ。当たり前だ。こんな余興、朝飯前の準備運動でしかないからな」
「おおぉ!? いいぞぉ~天内。やはりお前は歴代最高の戦士だ!」
「フフフ。あまり褒めるな。こんなもん屈伸よ。屈伸」
「いいぞぉ~天内。傲岸不遜で、失礼で、下品な奴だが、いいぞぉ~天内! お前の歯に衣着せぬ物言いはいいぞぉ~!!!」
天内は褒められているのか、貶されているかわからない発言に困惑すると、オホンと咳払いし続けた。
「いいかね。条件次第じゃ、これをフィリスくんにくれてやってもいい。その条件、わかるよねぇ?」
「なっ!? お前……私に故意に2位を取れと、まだ言うのか!?」
天内はようやく聞きたかった言葉を聞き、ニヤリと笑う。
「そんな事は、一言も言っていない」
天内は敢えて明言しない。
言質を取らない。
それが天内のやり口。
彼はただ、言葉巧みに心理誘導しているだけ。
天性の詐欺師の才能を持つ男:天内傑。
彼はポンっとフィリスの肩を叩くと。
「だが、解釈は人それぞれだ。思想の自由は憲法で明記されている。それで? どうかね? フィリスくん。俺の条件を飲むかね?」
「くっ!?」
唇を噛み締めるフィリス。
天内は念押しと言わんばかりに。
「悪くない話だろう? お互いヘッジメイズ所属の仲じゃないか。俺はお前を相棒だと思ってるんだ」
「そ、そんな風に思ってくれていたのか!?」
嬉々とするフィリスは顔を上げた。
「当たり前だ!」
「お。おおぉ!?」
悪徳商人天内とアフロ頭のフィリスの密談が決着しようとしていた。




