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キミ。なぜわざと負けたんだ?


「すべては俺の手の平の上よ」

 1人そう呟いてみる。

 かっこよすぎないか俺。

「フフフ」

 怪しげな暗黒微笑もオマケ付きだ。

 完璧だ。

 完璧なる計画よ。


 俺は運よく風音に出会えた。

 魔法は火属性、武器術は剣という王道を選んでくれていたようで安心した。

 主人公にのみ扱える専用装備。

 どんな武器にも変化できる上に強力な能力を持つ"聖剣"も馴染んでいたようだ。

 予想をいい意味で裏切ってくれた。

「でくの坊じゃなくて良かったよ」

 無口なでくの坊だったら、半分詰みだった。

 ろくでなしでもなく、恐らく性格もいい。

 何より最低限の技量も持っているときた。

「運命は俺の味方だったか……」

 ありがとう運命よ。

 感謝する。

 風音はどうやらAブロックの優勝は逃したようだが、チュートリアルとしては上々のAブロック準優勝だ。

「完璧だ。お前は強くなるぞ」


 それにだ。

 俺の完璧なる負けを見ただろうか。

 負けRTA(リアルタイムアタック)を決めた。

 苦戦しているようにも見せ、最小限の労力で負けた。

 一歩技量が及ばなかったように見せる演出はどうだっただろうか?

「フフフフ」

 俺はCブロックの試合をボッーと見ながらニヤニヤとしていた。

 そろそろ日が暮れ始める。

 さて、もう帰っていいんだよな。

 残業は勘弁だ。

 俺は帰るぞ。

 絶対に帰る。

 この世で嫌いなモノの一つは時間外労働だ。

 もう一つは無能な経営者。

 俺の今日の仕事は終わり。

 これ以上働いたら余分な残務処理になってしまう。

 ①模擬戦へ出場から主人公に敗北する。

 ②主人公の性格や能力を探る。

 ③おまけにジュードに出会えたときたもんだ。

 今週は模擬戦しかない。

 もう今週の学園に用事はない。

 出席は取るのかしらんが、この感じだと取らんだろう。

 どうせ、ぼっちになる可能性大だしあんまり行きたくもない。

 適当にアホのふりをして「明日って個人戦の決勝戦だけっすよね?」と運営委員の学生の1人に質問したところ、「その予定」との事。

 なぜか連絡先を訊かれたが、適当な連絡先を書いて、スマッシュと嘘の名前を教えておいた。

 面倒事は御免だ。

「明日は優雅に昼すぎに起きて、適当に修行でもしておくか。ダンジョンに潜って小銭稼ぎもいいな」

 いや、それでは労働ではないか。

「俺はワーカホリックとかいうイカレた人種ではないのだから」

 労働は一休みしなくては。

 心が病んでしまうだろ。

「寝続けるのもいい。春眠暁を覚えずとも言うしな」

 ワクワクするぜ。

 連休前だとどうしてこうも気分が高ぶるんだろうか?

 

 日は沈み、観戦会場にライトが点くと、出店や学園は綺麗にライトアップされた。

 俺は出店で適当に焼きそば、たこ焼き、ハニーチュロなんかも買ってモリドールさんへの手土産にするつもりだ。

 俺はホクホク顔で大量の飯を買い込んで、そろそろ帰ろうとしている時、背後から声を掛けられた。

「君、なぜわざと負けた?」

 透き通るような凛とした声。

「え?」

 俺はそんな意外な言葉に振り返った。

 そこに居たのは意外な人物であった。

 なぜこのキャラとエンカウントするんだ?

 なんで?

 どこでミスった?

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 /小町視点/


 息を切らしてトムを探した。

 トムと名乗った天内という男の影を探した。

「どこにいるのよ!?」

 Aブロックの試合で彼が敗北したと同時に私は会場から抜け出し、いつの間にか走り出していた。

 辺りは人、人、人。

 人だかりの数々。

 ダメだ。

 見つけるのは困難かもしれない。

 彼は何者なのか。

 せめて、せめて一言だけでも喋りたい。

 そしてあの人のもとで学びたいと伝えたい。

「はっぁ。はっぁ…………」

 額の汗を拭い、少し落ち着こうと思った。

 これだけ探しても手掛かりはなかった。

 広すぎる。

 この学園は広すぎるんだ。

 その上人が多い。

 昼過ぎより人が増えている気がする。

 学園関係者だけで4000人を超えるし、一般の観戦客やその家族や友人、応援しに来てる人や野次馬まで含めると多分その倍以上の人間がこの場に居るかもしれない。

 流動する人の流れにこの広い学園内をくまなく探すなんて到底無理だ。

 1人1人の顔を見て判断するのも不可能だ。

 ここまで人が密集していると私の眼でもあの男の不可解な色や形を捉える事ができない。

 辺りは歓声が木霊していた。

「また、遭えるだろうし……」

 この学園の人間だとわかればいずれ会える。

 日が暮れて、もう今日はいいや。

 と思った時。

 遠くの方、人込みの中で出店で大盛りのたこ焼きを買い込んでいる天内の顔が見えた。

「居た……」

 何者かに喋りかけられ足を止めている。

 急がないと見失ってしまう。

「早く行かないと」

 私はその背中に向かって走り出した。




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