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凡人から才人への挑戦



/3人称視点/



 風音達と芸能チームの台本ありきの戦闘が表舞台で行われていた。ほとんどのカメラは、スポンサーの意向で彼らの勇姿を映し出す。


 否―――彼ら以外のカメラに異常が出ていた。


 低層ダンジョンは、外界と地続きであり、炭鉱の坑道のような形状をしたダンジョン。いくつか大きく開けた空間があり、主にそこが主戦場となる。

 


 低層ダンジョンは魔物も弱く、訓練を行っても事故が起こる事は少ない。



 だが、そのダンジョンは今。

 深緑と豪雪、毒ガスに包まれようとしていたのだ。

 TDR13騎士が用意した毒ガス兵器がモクモクと白い煙を出す。

 

 ダンジョン内にガスが蔓延するまで残り1時間。

 

 違う意味でのタイムアタックが始まろうとしていた。単なる低層ダンジョンが高難易度ダンジョンに様変わりしようとしていたのだ。





 ガスマスクとナイトビジョンゴーグルを付けた集団が暗闇を走り抜ける。





 TDR13騎士の姿があった。

 彼らは学園が備え付けた中継機器を一台ずつ破壊し、ITボーイの『メタル化のマルコ』が対人地雷を設置していく。


「楽勝。オーバー」


「ぐぇぇぇぇ!?」「ぎょぇぇぇぇ!?」

 ゴブリン型の魔物が、神経ガスを吸い至る所で泡を吹いてのたうち回る。 

 

「楽にしてやる。オーバー」

 ブルーがゴブリンの顔面を革靴で蹴っ飛ばした。


 純粋な魔術戦や武器戦を放棄した彼らは、戦術集団であった。もはや本来の意図であるタイムアタック戦などしていない。








 

 これは凡人である彼らなりの才人への挑戦であり、()たる決戦の日の訓練でもあるのだ。









 ―――にもかかわらず、日常の会話が行われていた。


「明日の予定は? オーバー」


「実家に帰る。お土産は五平餅。お前は? オーバー」


「俺はふて寝する。ちなみになぜか聞いてくれ。オーバー」


「OK。なぜだ? オーバー」


「親戚の結婚式に俺だけ呼ばれなかった。オーバー」


「お、おう……おーばー……」


『オーバー』と、言いたいだけの集団は無意味な世間話が無線でやり取りされる。



 すると―――



「ターゲット発見。これから『殲滅作戦B』を開始する! オーバー」


「「「「了解……オーバー!!!!」」」」


 芸能チームの飯島、真壁、そして風音。

 ダンジョンの木陰。

 そこで排泄する3人の背後を捉えたのだ。


 3人は中継の合間であるCM中を利用して、お手洗いをしていた。



 スポンサーから風音への契約:『スポンサーのCM中は戦闘の一時中断』が発動していたのだ。

 


 彼らの後頭部に、ゆっくりとレーザーポインターの赤い照準が当てられる。サープレッサー付きの銃口が無防備な3人に向けられたのだ。


 天内の思想を受け継ぐ片翼のヴォルフガングは一言。


「戦時中に小便をするなど愚か者の所業」

 

 彼は天内の思想:『戦闘中にトイレに行くぐらいならオムツを履け』理論の申し子である。TDR13騎士は全員成人用オムツを着用しているのだ。


 ちなみに、余談だが『パンパース派閥』と『ムーニマン派閥』に分かれていたりする。





 閑話休題―――





 天内が考案した戦術理論は多岐に渡る。

 その中で、これから行われる作戦B『通称:便所ワンキル』。過去、天内が考案実践した最小のリスクで最大の効果を発揮する最も合理的な戦術だ。

 

 ターゲットが無防備な状況。

 気を緩めている時、トイレ中、就寝中、食事中、家族と団欒中、ロマンス中など、その瞬間に本気の総攻撃を仕掛ける外道戦法。


 通常の戦闘ルールを無視した余りにも卑劣極まる力技。


 対人戦の勝率は脅威の100パーセントを誇り、その成功率の高さからTDR内では戦術的に完璧な一手として、計算高い面が称賛されているのだ。


「作戦開始! オーバー!!!!」


「了解!  死ね死ね死ね!!! オーバーぁぁぁぁぁ」

 

 トモペーの掛け声と共に、音なき銃声が鳴り響く。


 凶弾が風音らの間を駆け抜ける。

 バシュッ! バシュッ! バシュッ!

 と砂埃が舞いながら、数多くの銃弾が小便中の三人の下に着弾した。



 


 ―――長くもあり短い沈黙の後。

   

 無線から声が響く――――

 

 



「沈黙? オーバー……?」


「いや、生き残っている。聖女の加護か……」


 不意を突かれた風音は生存していた。 

 システリッサの加護が彼を守ったのだ。


「簡単に(ぎょく)は取れんという事だな。面白い。あれを用意しろ! オーバー」

 

 片翼のヴォルフガングが闇金のダリウスに指示を出す。


「了解オーバー」

 闇金のダリウスがロケットランチャー(RPG)を取り出し、引き金に手を掛ける。


「撃ち込んだ後、撤退する。オーバー」


 リーダー格の片翼のヴォルフガングが全体に指示を出すと、周囲が慌ただしく動き出す。



 戦術理論―――

 攻撃後即時退却:ヒットアンドウェイ。

 攻撃後に即時に退却する事で、リソースの消費とリスクを減らす作戦だ。

 


「了解! 発射! 死ね死ね死ね死ね! オーバーぁぁぁぁ!!!」

 

 ロケットが飛んでいくと―――


 


 

 風音陣営と芸能チーム陣営の中心で大爆発が引き起こった。



 

 

「撤回開始!」


「チッ! 生き残ってやがる。化け物かあいつら」

 13騎士の誰かが悪態を吐く。 


 砂煙の中で―――

 数名の影が立っているのを確認できたのだ。


「そう簡単にはいかんだろう……」

 片翼は背中に背負う槍斧(ハルバード)の準備をする。


 ITボーイのメタル化のマルコ。

 彼はデータキャラ、ノートパソコンで演算すると。


「ガスの経路から計算し、こちらに来る確率86パーセント。誘導し次第、地雷で全員を沈黙させる。オーバー!」


「ターゲットの数を減らせれば重畳(ちょうじょう)。目的は分断。獲物は我々を無視できない。そこを突く。それでも生き残るようであれば……直接仕留める! オーバー!」


 片翼のヴォルフガングは冷静に指示を出した。


「「「「オーバー!!!」」」」


 全員の声が木霊する。


 これらの作戦の真の目的は、パーティーメンバーの分断。




 しかし、それでも仕留めきれない場合。直接仕留める事も考慮していた。





  



 片翼のヴォルフガングが持ち出す「戦闘中に小便をするな」という思想は、単なるギャグやユーモアとして描かれているが、実は「戦闘における徹底した覚悟」や「無駄な隙を見せないこと」の象徴。

 

 この哲学は、戦闘において余計な気を緩めることを許さず、完璧な態勢で臨むべきという過酷な戦士の思想を反映しており、戦闘と生死を前提にした厳しい現実を示している


 片翼のヴォルフガングはモブから大出世したキャラの1人。



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