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天牢雪獄


重要回




/3人称視点/


 

 踏破すべき最後の試練。

 

 森守まつり。

 

 広範囲魔術『翠玉迷宮』が発動し、低層ダンジョンの地形は急速に変貌を遂げた。生い茂る樹木が魔物たちを呑み込み、迷宮そのものがまつりの支配下に置かれていく。 


「ありゃ?」

 まつりは眉をピクリと動かす。


 マリアに放った落葉の刃(葉っぱカッター)


 それらは、マリアの目の前で氷漬けになると自重で大地に落ち粉々に砕け散った。

 

「……少々、油断した。毎回、ピンチの時に限って傑くんは居ないし……」 


 脚を震わせながら、千秋が立ち上がる。


 続けて―――

「そろそろ本気出しましょうかね。ボク。これでも副リーダーなんで。傑くんの次に強いんで!」 

 千秋はマリアの方を見て挑発した


「どういう意味ですか!?」

 突然、仲間から言葉で刺されたマリアは声を上げた。

 

「マリアは今回役に立ちそうにないって話」


「な!? なんですって!?」


「事実そうじゃないか。まつり先輩に炎を攻略されている。発火したらマリアは自爆するじゃん。全然ダメじゃん」


「そんな事ありません。私は二つの魔法適正があります。手数が多いのです」


「冗談はやめなよ。遅延魔法(ディレイマジック)しか使えないじゃん」


「あ、あの~。2人ともぉ~」と、まつりが遠慮がちに声をかけるが、2人の言い争いはさらにヒートアップしていく。

 

「ふん! 十分です。これで戦いますもの」

 マリアはメイスを振り回し千秋に宣言する。


「近接戦はボクより弱いよね?」


「そんなものやってみないとわかりませんわ」


「いいよ。じゃあやろうよ。この後」


「いいでしょう。実力を示さねばなりません。そもそも私は貴方(あなた)の事を副リーダーなんて認めてませんもの」


「傑くん指名なんだけどボク。マリアは平社員みたいなもんだろ」


 小町は、既に眠気に負けて眠りこけていた。

「後輩ちゃん寝てるよー」と、まつりは、再度話に入ってこようとする。


 しかし―――

 マリアも千秋も聞こえないのか、お互いの視線が火花を散らす。


「そもそも(わたくし)の方が千秋さんより優れているとわかれば天内さんも気が変わりますわ」


「ふ~んだ! 言ってな!」千秋はあっかんべーをする。


 マリアはその態度を見て眉をピクピクさせる。


「このパーティーの次席など、あの合宿の時だけの話でしょう! いつまで過去の役職を引きずっているのやら。滑稽ですわ!」

 

「そんな事ないもん!」


「いいえ。千秋さんは思い込みが激しいのです。妄想の話は止めて下さらないかしら」


「君に言われたくないんだけど! いつも勘違いして暴走しているのは君の方だろ」


 マリアはフンッと鼻を鳴らすと。

「何をおっしゃっているのかわかりませんわ」


「あ、あのぉ~。あーし置いてかれてる感じ?」

 

 まつりは、千秋とマリアの言い合いに置いてきぼりになっていた。彼女は敵にも関わらず眠ってしまった小町をダンジョンの端に運び終わる。


 千秋は嫌味を含んだ感じで。

「あ~。もういいよ。マリアはそこで黙って見てなよ。マリアが手も足も出なかったまつり先輩をボクが倒す所を見せてあげるから。学びなよボクの実力を!」


「千秋さんが倒す? フフ。面白いですわね。御冗談では!? 生まれたての小鹿のように脚が震えていてよ!」


「あ~。凄い嫌な奴。マリアって友達居ないだろ?」


「それは千秋さんの方ではなくて? 逆にお聞きしますが、千秋さんってお友達居るんですの?」


「な!? 居るもん!」


「ふ~ん。どなたです? 言って下さい。早く!」


「マリアの知らない人!」


「嘘おっしゃい!」


「嘘じゃないもん!」


「もう、何やってんのさ……」

 まつりがため息をつく中、再び激しい口論が続く。


 すると―――埒が明かないのか。


「もういい!」「こちらこそですわ!」

 

 千秋とマリアの2人は言い合いを強制中断した。


「あ! 唐突に終わったし」

 今まで置いてきぼりを食らっていたまつりは呆気に取られる。 

 

 頭に血が上ったマリアは既に眠気が吹き飛んでいた。

 千秋もまた、徐々に身体の痺れが抜けていたのだ。


「行きますわよ!」「ボクだってやるぞ!」


 マリアはデバフ特化の遅延魔術を発動させた。

 千秋も対抗するように超攻撃特化の氷の魔術を発動させる。




 



 ―――それは偶然だった。


 



 

 ある種、完璧に息が合ったマリアと千秋の2人。 

 マリアの『月の魔法』。千秋の『氷の魔法』。

 二つの魔法が交錯した瞬間、空間が異様な振動に包まれる。


 完璧なタイミング。

 同等程度の実力者である彼女ら。

 性格の不一致と反発が起こす自然な調和。

 

 だからこそ―――


 完全なシンクロを引き起こす。 


 相乗魔法。


 二つの魔術を掛け合わせる魔術。

 ユーグリットが使用した特別な魔術。


 2つの魔力が絡み合い、まるで調和したオーケストラのように一つの大魔術を形作る。

 





 ―― 合体(がったい)術式:天牢雪獄(てんろうせつごく) ――

 





 極寒の嵐が舞い上がり、一帯は純白の結晶に覆われた。豪雪の大地がまつりの『翠玉迷宮』を塗り替え、その支配領域すら凍結させる。


 深緑の迷宮が徐々に支配力を失っていく。


「これは……」

 まつりが驚きの声を漏らす。

  

 果実が実らない。

 花粉も胞子も飛ばせない。

 植物の成長速度が上がらない。

 


 天牢雪獄が発動していた。



 魔力の流れは遅くなり、大気に浮かぶ毒素は氷漬けになる。


 千秋とマリアは顔を見合わせる。

「……次はどっちが副リーダーか、はっきりさせましょう!」


「いいよ、ボクが勝つに決まってる!」


「へぇ……久々に本気を出せそうだしっ! 翠鋭千槍(すいえいせんとう)

 まつりの足元から千に及ぶ木々の槍が、一斉に出現した。


 まつりはその威力を確信していた。


「これで終わりだしっ!」

 

 深緑の脅威がマリアと千秋に一斉に牙を剥く。

 

 千槍が一斉に突進を開始する。

 千に及ぶ深緑の槍がマリアと千秋に迫った。

 木々の槍が空気を引き裂く音が響き、それはまるで荒れ狂う嵐。

 

 しかし、マリアの目は冷徹だった。

 彼女の両手がわずかに動く。

 『月の魔法』が紡がれ、遅延魔法が広がると、千槍は動きが緩慢になる。



 ――『天牢雪獄』が再び、強力に発動する。

 


 雪嵐がマリアと千秋の姿を吹雪の中に隠す。


「くっ!? やば……」

 姿が見えなくなった2人に、まつりは焦った。


 

 猛吹雪の中―――


 

 まつりの背後を取った千秋が姿を現わす。

 千秋が鋭く足を踏み込んで一気に距離を縮めた。

 

「これで! 終わりです!」


 重力魔法を付与した千秋の拳が、まつりの頭部に迫る。


「やるじゃん! 渦巻(アーヴァ・)の繭(ヴォルテックス)

 

 棘の付いた(つる)と鋭利な木々が、まつりを守る(まゆ)のように包み込もうと――――


「ようやく……使えそうですね! 千秋さん陽動、ご苦労様です。では! 千秋さんもろとも灰になりなさい!」


 マリアがメイスを振りかざすと、先端に炎が宿る。


「なんで炎使えるの!? これって丸焦げコース!?」

 

「マリア! 君って奴は!! ボクは仲間だぞ!」


「マジっ!? 味方ごとやる気!?」

 驚愕の声はまつり。

 

 フッと笑みを浮かべるとマリアは冷たく言い放つ。


「死になさい! 焰竜(えんりゅう)の激震」


 まつりと千秋に向かって、大火炎が放たれた。


「絶対に許さないからなぁーーー!!!」

 

「うぎゃ――――!!!」


 千秋の恨み言とまつりの絶叫が木霊した。


 

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 


 バチバチと音が鳴る。

 放たれた爆炎が凍結した木々の先端に炎を灯していたのだ。


 千秋とまつりの2人は、マリアの炎により同時に焼却させられ退場した。

 

「と、言う訳で。私が副リーダーという事でよろしくて」


 優雅な笑みを浮かべるマリアはメイスを華麗に振り回し、勝利宣言するのであった。





千秋の敗因:窒息

まつりの敗因:焼却



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