真の実力者
/3人称視点/
森守まつり。
生徒会役員:庶務。
まつりは、いち早く天内の素質を見抜き、天内が懇意にしている一個上の先輩である。普段の彼女はギャルそのもの。筆記の成績は中の下、家庭も一般的であり、よくも悪くも目立つ存在。
しかし、天内傑が、終始警戒した存在でもある。
国家に所属する騎士や魔術師たちでさえ霞んでしまうほど、今代のマホロ生は歴代最高峰の実力者が揃うと謳われる。そんな中、彼女は生徒会役員に選出された。生徒会役員に加わった背景には、特別な使命や家柄も無い。純粋にその才能だけで上り詰めた。
国家最高位に位置する『戦略級の魔術師』という称号の一点のみで。
それが意味する所は―――
世界最高峰の実力者達と肩を並べている証左に他ならない。
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「最悪だしー。マジで!」
頬に炭がついているまつりは、不機嫌そうにダンジョンを1人歩いていた。TDR13騎士の策略により仲間と分断されたのだ。
「森守まつり……」
いち早くその姿を察知した千秋は一言呟いた。
「あれ!? よっすー。あまっちは?」
まつりはキョロキョロと周囲を見渡す。
だが、天内の姿は見当たらない。
「5回目のお手洗いに行きました。多分、大きい方です」
千秋は肩をすくめた。
何度目かのトイレ(大嘘)に行っている天内であった。
「お腹ピーピーじゃん。ウケる」
「どうもご機嫌よう……ではないようですね」
マリアは挨拶がてら、目を細めてまつりの髪の毛を凝視した。
小町はギョッとしながら、まつりに質問する。
「それよりも、どうしたんですか。その髪の毛……」
「それは言わないで!」
TDR13騎士の奇襲により、爆発天パになったまつりは苦い顔をする。
小町は、アフロヘア―のギャルをしげしげと見つめ。
「エルフ、ギャル、アフロヘア―。属性がてんこ盛りだ……」
「そんな事よりもさぁ~。スマホひび割れたんよ。とーいうか!? 壊れてるよね!?」
まつりは折れたネイルの指先でスマホを弄る。デコレーションだらけのスマホの画面には大きな亀裂が走っていた。
「ネイルも折れてさぁ~。髪の毛もこんなんになっちゃった。これじゃあギャルサーの会合行けないし!」
しばらく、まつりの愚痴を聞かされる3人は、苦笑いをする。
「可愛いと思いますよ。アフロ」
千秋はうんざりしながら返答する。
「そうかなぁ? あーしはそう思わんよ。見た目は大事だ!」
「そ、そうですか」
「あーしさぁ、やる気なかったんだけどぉ、これってぇお金貰えるんだよね?」
「その……ようですね」
マリアは返答する。
「お小遣いも少ないし。ちょっと必要になっちゃったよぉ……だからさぁ、負けてちょうだい! オ・ネ・ガ・イ」
まつりは両手を合わせ懇願する。
「負ける? 仰ってる意味がわかりません。これはタイムアタック戦。早い者勝ちです。勝ち抜けしたいのならば、お先に―――」
彼女の言葉を被せるように。
「う~ん。でもさ、マリアっち。アレだよアレ。取り敢えず出逢った人は全員バトルみたいな感じっしょ!?」
「違いますよ」
「そうなのぉ~。でもさぁ~……数は減らした方が……いいよねぇ?」
まつりは無邪気に同意を求める。
「そ、それはそうですが……」
「じゃあ、ここでみんな帰って! あまっちが残るんだからいいじゃん。お願いぃ~」
「……そのような事は出来ませんわ」
マリアはきっぱりと断った。
「じゃあ、ここで戦わないといけないじゃん! 後輩いじめはしたくないんだよねー」
「まるで、ご自身が勝つのが決まっているような発言に聞こえますが?」
マリアは怪訝な顔で尋ねた。
「うんうん。そう言ってるのよ~ん。もしかして……交渉決裂支離滅裂かっ!? これは戦闘不可避かっ!?」
小町は、諭すように―――
「まつり先輩が実力者なのは知ってます。手前味噌ですが、私達3人は強いです。流石にまつり先輩1人では……」
「なーほーねぇー」
まつりは腕組しながら、爆発天パのアフロ頭を縦に振る。
「じゃあ、やろっか!」
「わ、わかってない!?」
小町はまつりにツッコミを入れる。
「本当に3対1でやる気なんですか?」
千秋は、やれやれ顔。
「まぁ~ね。あまっちも居ないし……余裕っしょ!」
陽気に宣言した後であった。
それは突然――――
詠唱もなく、視界を埋め尽くさん樹木がまつりの足元から出現した。蔓が急速に触手を伸ばし、木々が鬱蒼と生い茂り始める。
翠玉迷宮。
地形そのものを深緑に書き換える戦略級魔術。
続けて、まつりから一言。
「千樹葬」
ノーモーション。
杖を使う訳でも、手の平を向ける事すらしない。
足元から、無数の樹木が鋭利な刃となり、3人に向かって鋭く突き出されたのだ。
鋭く尖った木々が迫る―――
殺意の籠った切っ先の数々。
千秋は咄嗟にガントレットを地面に叩きつけた。
「雪……獄」
宣言すると大地から氷壁が立ち上がり、まつりの攻撃を受け止める。
「うわーお。一瞬で氷の壁が出来た。でも、それだけじゃ、止められないんだよねー」
まつりの呟きと共に。
樹木に果実が実り出すと、花粉が千秋を包み込んだのだ。
―― 八雲の樹海 ――
植物の成長を急速に促す魔術が行使されていた。
それはヘッジメイズを深緑に包み込んだ魔術の一端。
「くっ……!」
千秋が苦しそうに呟いた。
彼女は口を塞ごうとするが、花粉の影響で動きが鈍る。
「2人とも口を塞ぐんだ!」
その言葉とともにマリアと小町は袖で口と鼻を抑える。
千秋は氷の結界を張り直そうとするが。
呂律が回らなくなり、身体が思うように動かない。
花粉『しびれ粉』の影響であった。
「焼き払えばよろしいのでしょう!」
マリアが即座に反応し、メイスを構える。
「炎の咆哮!」
火炎の魔術が発せられようとした。
「甘い甘い。植物の弱点は火。それってさぁ、古いよねぇ。それは大いに間違いっ!」
マリアの周囲には引火する樹脂が滴り始めていた。
まつりの一手目の『翠玉迷宮』。
炎の魔術を封じる揮発性有機化合物を放出する植物が展開されていたのだ。
マリアの手元から引火するように爆発―――
する前に―――
いち早く気付いた小町の魔眼が光る。
「抜刀!」
小町から高速の抜刀が放たれた。
マリアの炎の魔術を切り伏せる。
『無効化』した。
爆竹が爆発した程度の最小限の火花に影響を留める。
「へぇ~。やるじゃ~ん!! でも! 実は、みんな大した事ない感じ?」
挑発めいた宣言をするまつりは再び笑みを浮かべる。
マリアは心の中で―――
(親善試合にて、天内さんは森守さんを倒した。これは本当に凄い事だったのでは?)
「一筋縄ではいかないようですわね」
「ノンノン。これでオシマイだよ~ん」
まつりは人差し指を横に振るう。
マリアの視界が揺らいだ。
強烈な睡魔に襲われたのだ。
「いつの間に!?」
足元を見ると、植物の『種』が絡みついていた。
しびれ粉で、しびれて動けなくなった千秋。
小町は刃を振るうが眼は虚ろ。目を擦りながら、種から拡散した『眠り粉』の眠気に抗っていた。
「じゃあね。マリアっち。バイビー」
手をひらひらとさせるまつり。
範囲魔法『裂秋嵐』が発動した。
刃物のように鋭利な枯れ葉が―――
マリアの眼前で舞った。
森守まつりは植物を自由自在に操る。
植物の特性そのものが、彼女の手数の多さになる。
鋭利な葉や棘の付いた種。
物理的な木材としての質量。
拘束系の蔓や根。
搦め手である胞子や花粉といった毒。
樹脂や油、加工された紙に至るまで。
植物は彼女の思うまま。
彼女の持つ魔術:森臨魔法の本領はその効果範囲と手数の多さにある。
彼女を相手にするという事は―――
深緑と格闘する事を意味していた。
森守まつり
環境操作型の戦闘スタイルを極めたキャラクター
通称:MAP兵器まつり
魔法―――
翠玉迷宮
範囲魔法:地形を樹海に変化させる。
千樹葬
射程範囲中:無数の尖った樹木を出現させる。
八雲の樹海
サポート系:植物へのバフ『急速成長』
しびれ粉・ねむり粉・引火性樹脂・揮発性有機化合物の散布
裂秋嵐
範囲魔法:鋭利な枯れ葉で切り刻む




