単純なゲームほど思惑は複雑怪奇
/3人称視点/
学園の生徒のバックグラウンドは実に多彩だ。国籍・種族・経歴・人種・家柄・思惑に至るまで、そのバラエティは驚くほど広い。
世界に4つしかない魔法学園の一校『マホロ』。
ここには世界各地から優秀な魔術師と騎士が集う。魔法学園に入学すること自体が、地位やステータスを意味するのだ。
故に、自然と生まれやすいのだ。
芸能人が……
芸能事務所ステラ・プラネットにはタレント、俳優、芸人、文化人など、あらゆるジャンルの芸能人が所属している。
そんな中で、事務所に所属しながら学園生で構成されたパーティーがあった。彼らは広告会社と学園のスポンサーのコネでねじ込まれた集団としてタイムアタック戦に参加していた。
・
・
・
ダンジョンの一角―――
カメラは不自然に一人の俳優を捉える。
彼は指を鳴らし、背後で特撮さながらの大爆発を起こした。これが彼の魔術だ。
「イッツ! ショータイムだ!」
声の主は、特撮ヒーロー『エレメントフォース』のレッド役で知られる俳優の飯島翔太。
「意外にやりますよ! この方々!」
システリッサが、『わざとらしく』叫び、結界が風音パーティー全員を守る。
「そのようだね」
風音はカンペを見ながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
風音達は今、学園のスポンサーの意向で多くの制約を受けていた。
例えば―――
異能の宿らぬ鉄剣を使う事。
勝負は速攻で決着しない事。
魔法は出来るだけ使わない事。
……など。
その理由は、学園側からの強い要請だった。
――――
――――――
――――――――
数日前のこと。
学園の一室で、風音は学園の幹部達に呼び出された。
小太りのプロデューサーが風音の前まで歩み寄ると、肩をポンと叩く。
「子供のヒーローを簡単に負かす事は良くない、と思わないかね?」
「そ、そうですね」
プロデューサーは手を後ろで組みながら、うろうろと歩き回る。
「今度の大晦日。学園所属の若手俳優が出場する」
「は、はぁ……」
「そこで相談なんだが、君らに一芝居打って貰えないか、という話だ」
「どういう意味ですか? 話が読めないんですが」
「世の中には、世論支持が必要。学園の運営資金もね」
風音は困惑しながら答えを待った。
プロデューサーはさらに続ける。
「簡単な話だ。次の余興で、学園側とスポンサーの意向を汲み取ってくれるとありがたい」
ようやく、意図を汲み取った風音は。
「つまりは……わざと負けろと? それではみんなを騙す事になるんじゃ?」
「騙す? 何の事かね?」
敢えてプロデューサーは明言しない。
それが大人のやり口。そして、続けた。
「後続、後輩、今後未来を担う若者へ夢と希望を与えるのは大切だろう?」
風音はそれに答えられなかった。
プロデューサーは、懐から紙を取り出し、机の上に置く。
「読みたまえ」
紙を手に取り目を通す。
そこに書いてあった美辞麗句を見つめ風音は言葉を失う。
「これってやらせでは?」
「やらせ? 何の事かね。これは私の落書きだよ」
――――――――
――――――
―――――
そのやり取りを経て、風音は大人の世界の現実を理解した。後続を立てるためには仕方ないことだと感じた。色々考えた末、風音は二つ返事でその話を受け入れた。
彼は、大人だった。
剣閃が飛ぶと、大楯を弾く。
「君! やはり英雄と呼ばれるだけはある!」
盾の主は日焼けした肌に短髪の青年:スポーツ系タレントの真壁大輝。体を張ったバラエティー番組で活躍するスポーツマンだ。
「じゃあ! これはどうかしら! ね!」
アイドル:カナミ☆フォーエバー17が棘のついたスタンドマイクを振り回す。その一撃が、大地にヒビを入れる。
風音は慌てて避けるが、その先で声が響いた。
「流石ですね! しかし! これで終わりです!」
朝ドラ女優の葉月莉子が詠唱すると、空気中に幾重もの水流が渦巻いた。それらは鋭い水流となり、風音に向かってウォーターカッターを飛ばす。
―――が、水流は軌道を変えるとイノリの盾に弾かれた。
「当てさせない」
イノリの無機質に宣言する。
主人公パーティーと芸能人たちとの激しい攻防……否、忖度・接待勝負。
これは大人の描いた台本。
目的は不自然にならないように芸能チームを入賞させる事。既に、順位は決まっている。青写真は描かれている。しかし、計算を狂わせる曲者達が余計な事をし始める。
・
・
・
俺は待機している仲間の背を見つけると、わざとらしく独り言を呟いた。
「ふぅ~。出た出た」
「なんか、遅くないですか? 先輩、遅すぎません?」
小町は怪訝な顔をして尋ねてきた。
「あ~。悪い悪い」
俺はフラッグを背中に隠し持ちつつ、トイレに行って来たフリをした。
「……」
無言のマリアが俺をじっと見つめている。
「ちょっとな。腹が痛くて大きい方を……これからもちょっとトイレに向かうかも」
「大きい方って。ちゃんと手洗ったのかよ」
千秋が嫌そうな顔をした。
「洗った。おしぼり持ってきたから」
「ほんとぉ?」
「ホントホント」
「本当はお加減が優れないのでは?」
マリアが不信の眼を向ける。
「大丈夫ですよ!」
「怪しい……」
「さぁ! 行こ! 行きましょう!」
俺はいたたまれなくなり先陣を切って歩き出す。
状況を整理しよう。
このタイムアタック戦。課題であるフラッグは既に手中にある。このまま入口に引き返せば我々の勝ちで終わる。
しかし、安直に戻れば1位になってしまう。
「そうすると3位になれない……」
なので、一度話を整理せねばならない。
これは世にも奇妙な『負け残り』トーナメント。
俺の借金を帳消しにするチャンス。
優勝するのは簡単だ。
だが、優勝になんの価値もない。
俺が狙うのは3位。
俺は今から、全5チームを全て把握し、動きを操作せねばならない。
「これは非常に難易度が高いゲーム」
俺の勝利条件は―――
1:1位と2位を先に勝ち抜けさせる。
2:勝ち抜けしたパーティーを観測する。
3:3位になったタイミングで脱出の開始。
4:4位と5位のチームからの総攻撃を耐える。
これである。
モブ生活が破綻しないように速攻で倒すのは禁じ手だ。
「幾重にも張り巡らされた制約。だが! 盤上は俺が支配させて貰う……」




