TDR13騎士(改)
/3人称視点/
タイムアタック戦。
仮想領域で行われるこの戦いは実際に死ぬ事はない。
それ故に、戦場は混沌とし、計算尽くされた戦術に次々と予測できない展開が加わっていた。
生徒会パーティーは越智、まつり、フィリス、イノリの姉のイズナの4人からなる。彼らは早々に、ダークホースであるTDR勢力と交戦していた。
激しい戦闘が行われていたのだ。
暗闇からの奇襲にも関わらず、生徒会パーティーは無傷。
「決定打はないようだが、厄介だな」
魔弾の射手である越智は、暗闇に向かって鋭い眼差しで姿なき敵を睨む。
「卑怯者め。正々堂々と姿を現わしたらどうだ!?」
イズナは、暗闇に向かって挑発する。
暗闇から低く野太い声で。
「馬鹿を言うなイズナ。これが我々の正々堂々だ。勝者が全てであると教えよう!」
片翼は同じ獣人のイズナに向かって宣言する。
「さて、サーカスの始まりだ~よ」
道化メイクのトモペーがサプレッサー付きの拳銃を構え、まつりの眉間を狙う。
音なき弾丸が放たれた。
「な!? 効いてな~い!?」
驚愕の声はトモペー。
「ありゃりゃ。無駄無駄」
まつりの前で、植物の蔓が弾丸を受け止めていた。オートで反応する植物が彼女を凶弾から守ったのだ。
それだけではない。
越智、イズナ、フィリス。
彼女ら3人もまた、まつりの魔力が宿る植物を装備していた。
自動防御の自然の守り。
「やはり、無傷の原因は彼女か……」
片翼は、まつりを見て恨めしそうに呟く。
魔術が兵器を上回る理由をまざまざと見せつけられた。
TDR13騎士。
それは天内の戦法と技術を継承したモブ集団。
通称:アマチチルドレン。
彼らは魔術世界ではあり得ぬ戦法を取る。
本来魔術師に現代兵器は無意味になる事が多い。
しかし、現代兵器を積極的に活用する。
今回タイムアタック戦に参加したTDR13騎士は、カッコウや翡翠を抜いた上位戦力に位置する者達。ナイトビジョンゴーグルとガスマスクを装着した5人であった。
片翼のヴォルフガング。
半エルフのブルー。
天邪鬼のトモペー。
メタル化のマルコ。
闇金のダリウス。
―――からなる曲者集団。
TDR13騎士個人では、確かに1人の強者に及ばない。
それは彼らも重々に自覚していた。
しかし、パーティー戦―――
集団戦において、本来の彼らの真髄が発揮される。
巧みな連携と継承された戦術、現代兵器を駆使する事で大物食いを可能にするほどに。
彼らは一部隊として秀でていた。
「銃弾が効かぬのならば、メタル化。準備は?」
「いつでも行けますぜ。片翼の旦那」
片翼は牙を剥き出しにすると。
「そろそろ玉座から降りて貰おうか。殲滅作戦を開始する! やれ!」
「あいよ!」
ITボーイのメタル化。
彼は手元のノートパソコンをカタカタ叩く。
そして―――
エンターキーを、勢いよく叩いた。
多くのマシーンが起動する。
13騎士が持ち込んだ機械と装備は多岐に渡る。
TDRの技術によって開発された。
EMP ― 電磁パルス兵器。
LRAD ― 長距離音響装置。
サプレッサー付き拳銃。パルスライフル。
燃焼爆薬。サーモバリック爆弾。
クラスター爆弾。フレシェット弾。燃料気化爆弾。
……などなど。
「こちらも、準備完了だ。発破まで、3……2……1……ファイア!」
ブルーが叫ぶ。
すると―――
仕掛けられた爆弾が爆発した。
ダンジョンの岩盤が揺れ、砂埃が天井から落ち始める。
「なにしてんの!? アイツら!」
フィリスが息を呑む。
「遊びじゃねぇ。これが本当の戦い。油断すれば死ぬ。この世は金なんだよ!」
闇金のダリウスは冷たく宣言するが。
「お前は何を言っているんだ!?」
フィリスが検討違いの発言をするダリウスにツッコんだ。
すると―――
生徒会パーティーの頭上に液体が飛び散る。
「……この臭い!? まさかこれって!?」
フィリスは鼻腔から入る匂いに驚く。
「ガソリンだ!? 無茶苦茶な事しやがって!!」
銃火器を使用する越智は悪態を吐いた。
彼らの周りで気化し始めるガソリン。
「放て!」と、片翼の掛け声。
すると―――
メタル化が制御する自走式砲から催涙弾が放たれた。
刺激臭のする白煙が一帯を覆い尽くす。
「小細工を! これしき!」
フィリスは咄嗟に気候魔法を駆使し、周囲に風を巻き起こす。
催涙弾が放たれた方へ煙が逆流するが……
「……これは注意を引くための罠だ!」
越智は誰よりも先に気付く。
ブ―――ンと。
モータ音が響き渡り、空を滑空する機械の影が浮かぶ。
「ドローンか!?」
イズナが驚愕の声を上げる。
フィリスの引き起こした暴風により、制御を失ったドローンが岩盤に当たると火花が散った。
火花が気化したガソリンに……
引火した……
「しまった――!」
フィリスの声音が震えた。
「マズイぞ!?」
イズナは目を点にして回避しようと走り抜ける。
「やっべ―――――」
まつりは、植物の蔓を繭のようにして身体を守る。
ダンジョンの一角で、大爆発が引き起こった。




