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命を懸けて、娘を守れるか?



 俺は先程、彩羽家の洗礼を受けた。

 

 その後。


 露店がずらりと並ぶ大晦日の学園の一角。

 無駄に設備投資をしているマホロでは、座る所を探すのに苦労はしない。


 彩羽ママ御一行が露店で食べ物を買う列に並んでいた。空に浮かぶ提灯がぼんやりと暖かな光を放ち、人々の笑い声や屋台の呼び込みが響き渡っている。


 そんな賑わいの中。


 彩羽パパの低い声が俺の背に向かって問い掛けてきた。


「おい。小僧……」


 振り返り愛想笑いを浮かべた。

「な、なんすか?」


 彩羽パパは近くの屋台から聞こえる焼きそばのジュウジュウという音を無視するように、静かに言葉を紡いだ。


「ワシは貴様を認めてはいない」


「そっすか」


「……が、ほんの少し、片足だけは彩羽家の敷居を跨ぐ事を認めよう」


 えらく回りくどい言い方だなと思いつつ、適当に相槌を打つ。


「は、はぁ……それは、どうも。光栄です」

 

「勘違いだけはするなよ。娘を託せる男は、ただ強いだけじゃ足りんのだ。覚悟が必要だ。わかるか?」


 その声が一段低くなる。


「は、はぁ……」


「お前に問う。命を懸けて、娘を守れるか?」


 一瞬、息を飲む。


 なんか、これじゃあ、まるで、俺が娘を貰いに来た婿なんだよなぁ。


 まぁいいか。

 千秋は相当肝が据わっていると思うが。

 

 俺はフッ、と鼻で笑った。

「約束しましょう。必ず守ってみせると。この俺の名に懸けて」


 その言葉を聞き、彩羽パパは目を細め、ほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。だが、それも一瞬だった。


「そうか。ならば……ほんの少しの間。娘を頼む」


「任されましょう」


 その返事を聞くと、パパは一度目を閉じ、深く息を吐いた。そして再び目を開くと、再び凄まじい眼光を放ちながら言った。


「だが、覚えておけアマチ。千秋を泣かせたら容赦せん。貴様を必ず! 必ず! ぶちのめす」


 彩羽パパは鋭い眼光。

 殺害予告じみた忠告に冷や汗を流しつつ、軽く手を振った。

 俺は肩をすくめ。


「……肝に銘じます」

 と返答した。


 大晦日の学園は活気に満ちていたが、俺にとっては少々重苦しい夜となった。


 ・

 ・

 ・


 彩羽家と俺で食事を摂っている最中。

 汗を滲ませた学園の職員が俺に声を掛けてきた。

 どうやら必死に俺を探していたようなのであった。

 

 その後、俺は今夜のタイムアタックが行われるダンジョンに連行されたって訳。


 その道中で―――


「てっきり来ないと思ってたけど。大丈夫なの?」


 突如、同じく職員に連行されている千秋の奴が俺に声を掛けて来た。


「モーマンタイ。それよりお前の方こそ、興味ないって言ってたじゃん。なんでいんの?」


「ひっど!? し、仕方ないだろ。強制参加らしいし……君はまったく。こっちの気も知らないで」


「ところで、千秋。お前に言いたい事がある」


「な、なんだよ。突然、そんな怖い顔して」

 

「お前の家族。変わり者すぎない? 勘弁して欲しいんだけど」


「そうかなぁ? それにしても本当に突然だね。会ったの?」


「会った。そして飯を食った。蕎麦と寿司をご馳走になった」


「そ、そうなの!?」


「そう。そして確信した。お前の家族は変だ。ヘンテコだ」


「変って! そんな事言うなよ! ボクの大事な家族だぞ。これは侮辱だ!」


「侮辱とは心外だ。事実を提示しただけ」


「じゃあ事実陳列罪で起訴する!」


「何度だって言ってやるね。変人。変人。変人」


「ぐぬぬ。君に言われると腹立つなぁ。君の方が、よっぽど変人の癖に」


「俺は! 常識人だ!」


「本物の常識人は自分で常識人って言わないんだよ! すっごいダサい癖に!」


「ダサい? どういう意味だ?」


「今まで、気を遣って言わなかったけどさ!」


「なんだよ?」


「なんでいつも夜なのにサングラス掛けてのさ? おかしいじゃん。どう考えてもサンをカットする必要ないよね? 絶対に見えづらいじゃん。傑くんの方がヘンテコだよ!」


「おかしくない。これはオシャレ。シティでは普通なの。これだから田舎の芋娘は、わかってないねぇ」


「都会でもおかしいよ!」


「おかしくない」


「おかしいもん! それに傑くんは、春も夏も秋もずっと黒い服じゃん! ずぅ~っと黒い服じゃん。季節感ゼロ。夏場でもライダースジャケットだったし、絶対変だよ! おかしいよ! 恥ずかしいよ! 小町ちゃんにも注意されてたじゃん!」


「しゃね~る」


「なにさ?」


「ココ・シャネル。そんな名の偉大な人が居ました」


「知らないよ。誰さ」


「ファッション界の巨匠」


「だ、だからなんだよ」


「そんなレジェンドは言いました。黒こそが至高、と。つまり、それが答え。黒い服がかっこいいのだ。お前の方こそ俺を参考にカッコいい黒服を身に纏え」


「な~にが、かっこいいだ。君はファッション界の偉い人じゃないだろ! まるで、お葬式みたい! お葬式ファッションだよ!」


「なんとでも言え」


 千秋は『もういいや』と肩で息をすると。


「そ、それで……どこに居たの?」


「なにが?」


「ボクの家族。全然携帯が使えなくなっちゃって。会えなくなっちゃたよ」


「そこら辺に居る。あとな、色々あってお前のママさんにTV版のエヴァの最終回に巻き込まれたんだけど」


「き、君は、本当に何を言ってるんだ?」

 

「俺が訊きたいんだよ!」


 と、そんな会話を繰り広げていると。

 

 遂に―――

 本年度の学園の締め括り。

 本日、クライマックスのタイムアタックが行われるダンジョンの入口が見えてきた。



 既に幾つかのグループが待機して居り、その中には、マリアや小町の姿もあった。


 

 

 

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