桜井風音
/風音視点/
つ、疲れた。
この剣のおかげで何とかなった。
ギリギリだった。
滅茶苦茶強かったよこの先輩。
凄く。
目の前で切られた男の魔法陣による転送を見送った後、剣の効果で癒されていく身体を見て非常に驚いた。
切り傷は勝手に治癒されていくし、多分普通の剣? じゃない。
僕はどうしてこんな事をしてるんだろう。
思えば、この学園に来たのは偶然だ。
好きだった剣術と日々練習していた魔法を県大会で使用した後、あれよあれよと話は進んで今この場で戦っている。
「この剣? ホントなんなんだよ」
とても高そうな純白に光輝く剣? を学園長直々に頂いた。
すると剣は光ると僕の手首にブレスレットへと変化し装着された。
念じればいつでも剣? になって手の平に収まる。
「怖いんだよなぁ、こんな高そうなもの頂いてよかったのかなぁ」
はぁ~とため息を吐いた。
しばらく森の中を歩く。
この剣のおかげなのか体の疲労も痛みも完全になくなっていた。
体内の魔力も完全に回復している。
「凄く広いんだよなぁ」
遠くから爆音が響いていたりするけど、色んな人が戦っているんだろう。
どんどん数が減っていってるようだ。
「ま、まさか!?」
木の陰から飛び出してきた美形のイケメンが、僕の顔を見るなり驚いた顔をして駆け寄ってきた。
「???」
僕はどうして驚いたのかよくわからなかった。
驚いた顔をしているが、彼は気を取り直したのか細剣に手を掛けた。
「悪いね。じゃあやろうか」
イケメンは気を取り直して剣を抜く。
今までの生徒にない肩の力を抜いた雰囲気だ。
「なんだか。あれですね。リラックスしてますね」
ふと、僕はそんな軽口を叩いてしまう。
「まぁね。ようやく帰れそうだなって思って。夕飯の買い出しに早く行きたいんだ」
イケメンははにかんで、ごく普通の事を言った。
まるでこの戦いの勝利に興味がないようだ。
「夕飯?」
「そうそう。ちょっと家が特殊でね。あと同居人がまだ寝てそうで気になってる。ビールも隠さなきゃならん。やる事が目白押しなんだよ。早くこのくだらない戦いを終わらせたい」
制服を見ると同じ緑色のタイをしていた。
どうやら同じ学年っぽい。
「くだらない戦いか。それは同感。でも、僕負ける気はないんだ。どうにも負けず嫌いでね」
茶番であっても負けるのはごめんだ。
それは僕の信条が許さない。
「それは知ってる」
イケメンは眉根を寄せると、力を抜き笑顔になる。
「そっか。じゃあ、気を取り直して」
僕はブレスレットを剣に変化させ、体中に炎を纏わせる。
陽魔法を展開した。
肉体の温度が一気に上昇していくと全身の内外問わず心地よい炎に包まれる。
「火属性を選んだか。しかも剣術! さ……流石だ。120点!」
イケメンは、なにやらよくわからない感想を述べると、彼は細剣に炎を纏わせた。
「付与系なんだね」
同じ火の魔法。
気が合うかもしれない。
「そうだ。俺は君のように肉体に炎は纏わせられない。そういう仕様」
あっさりとそんな事を言った。
嘘の可能性もあるが、雰囲気から本当の事を言ってるように思えた。
「ネタバレは身を滅ぼすよ」
相手に自分の情報を喋るのはご法度だ。
よほどの強者じゃなければ負ける宣言をしてるようなもの。
「確かに」
イケメンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
―――瞬きをした刹那―――
「ッ!」
目の前で剣戟が煌めいた。
咄嗟に反射で剣を受け止めていた。
早い!
凄い技量だ。
ノーモーションで縮地を行った。
鉄の鈍い金属音が辺りに響く。
お互いの炎で辺りに黒い焦げ跡が出来ていた。
何度か間合いで打ち合う。
美しい剣の捌きだ。
なんでもない細剣。
なのにその技量は超絶だ。
炎を纏っている影響からか陽炎が出来て剣の軌道を読ませない工夫もある。
目で追える剣の軌道より先に一撃が一足早く到達する。
「凄い」
本当に、ただ本当にその感想しかでない。
僕も剣の道を究めんとする者。
体に纏った炎を放出し、彼との距離を取る。
技量は互角。
もしかしたら、彼の方が上かもしれない。
「お、と」
イケメンは爆炎を間近に食らわないように大きくバックステップすると剣で咄嗟に防御の姿勢を取り大きく距離を取る。
「ここだ!」
勝負は一瞬で片がつきそうだ。
人間は炎を本能で恐れる。
動物もそう。
咄嗟に反射で動いてしまうのだ。
そこに一瞬の隙ができる。
炎をコントロールし彼の足元を延焼させていく。
これはフェイク。
胸元と顔へと飛散する火炎。
これは猫だましだ。
本命の一撃はこの一閃にある。
僕の得意の決め手。
剣による連続の突き技『時雨』だ。
時雨の穂先に焔を纏わせる"不知火"を組み合わせる。
炎を収束させ無数に飛散させる。
超高速の焔の突きの連打。
腰をほんのわずかに落とし、呼吸のリズムを整える。
「はぁぁぁぁぁ! 時雨改!!」
イケメンはフッと笑ったように見えた。
「な!?」
驚愕の声が思わず口から洩れてしまった。
細剣の腹で僕の必殺の突きを受け止められていた。
「甘いな。だが技術は一級品か……」
そんな感想を述べるイケメン。
「強いねキミ!」
思わず笑みがこぼれる。
これを読んでいた?
彼は反撃の準備をしてる。
体を捩り炎で足元を焼かれながらもカウンターをしようとしている。
まずい。
一手足りないかもしれない。
そう思った。
ここで横に一薙ぎされれば僕の負けだ。
その瞬間、細剣はメキッと異音を立てる。
「!?」
彼は驚愕の表情に変わる。
「終わりだ!」
王手だ。
・
・
・
――――僕の一閃は彼の胸を貫いていた。
「……見事」
彼はそう言うとグッと唇を噛み締め悔しそうに呟くとその場に倒れた。
「ふう。単純に武器の性能が出たみたいだね。でも剣の腹で突きを受け止めるのは悪手だよ」
僕は彼に一つ忠告をしておいた。
「大きなお世話かもしれないけど」
遠くの方で派手な煌めきが輝いていた。
まだまだ戦わなくてはいけないみたいだ。
「はぁ~。行きますか。なんで僕は……」
そう呟きながらも心の奥はワクワクしていた。




