3人目の『主人公』の実力
/3人称視点/
モニターが暗転した。
一瞬の静寂の後、崩れ落ちる電光掲示板の火花が暗闇を切り裂く。
―――大晦日。
年を跨ごうとする瞬間。
本来、低層ダンジョンにて行われるタイムアタック。そのクライマックスに参加した者達は、深層ダンジョンに転移させられていた。
超級の魔物が闊歩する深層領域―――
人間が踏み入ることを許されぬ死の領域。
そこでは、本来有り得ざる光景が広がる。
英傑の影と、魔物が連携を組んでいたのだ。
伝説的英雄の影が、業火の中から姿を現す。
一人ではない。槍兵ムジナ。彼女が複数。影を縫われて身動きの取れなくなった業火の魔術師マリアに屈折する閃光の槍先が迫る。
「……くっ!?」
彼女は息を呑んだ。
叫びは槍の突き刺さる音にかき消された。
幾重にも放たれる穂先は、寸分の狂いもなく、彼女の両目、鼻孔、口腔、こめかみを次々と貫いていく。肉が裂け、骨が軋む音が響く。
最後に突き刺さった槍が、彼女の頭部を串刺しにしながら高々と持ち上げた。マリアの頭部からは棘が生えたようであった。
槍ですくい上げれらた身体は宙に浮かび、既に力なく脱力している。
そこにはもはや人の顔はなかった――
ただの血まみれの肉塊が揺れているだけだった。
一方で―――
刀を構えた小町は巨人と対峙していた。
巨体にも関わらず、巨人の動きは速い。
巨躯から放たれる風は空を切り裂き、彼女の身体を追い詰めていく。
「なんて早いの!?」
刀で応戦しながらも、仲間の惨状が脳裏をよぎる。
次の瞬間―――
巨人の巨大な手が彼女の顔を乱暴に掴んだ。
「ぁあ、がっ……!」
叫ぼうとした声は途切れ、巨人の握力が骨を砕く音が響く。メリメリと歯が頬を突き破り、血と肉が飛び散る。
「……」
声にならない呻きを上げた。
そのまま、巨人は少女を岩盤に押し付け、すり鉢ですり潰すように少女の身を削った。岩肌に血と肉がこびりつき、彼女の身体は無惨な塊となって崩れ落ちた。
さらに反対方向では―――
盾兵イガリは氷剣を反射する。
反射する槌が、氷瀑の魔術師の攻防を見事にいなす。
「くっそ。なんだコイツ!?」
防御姿勢のまま千秋は魔力を練り上げ、自身の周りに重力場を作る。剣兵アレックスが放つ斬撃の猛攻を防ぐ切るが。
終わりは突如訪れる。
魔力を喰らう黎の聖女が現れた。
下半身が蛇のようにうねる異形の姿。
「なんだ!? お前!? なんで!?」
千秋の声は震え、恐怖に染まっていた。
しかし、彼女の問いに答えることなく、聖女は千秋の防壁を物ともせず、『均衡の聖杖』を振り下ろす。
ぐちゃり―――と。
聖女にしか扱えぬそれを千秋の脳天に叩きつけた。
魔物の怪力を持つ聖女の一振りは。
初撃で彼女の頭蓋を砕いた。
両の目玉が、凄まじい圧力に耐えられず、軌道を外れた弾丸のように外界に飛び出した。二撃目は首まで到達すると、皮膚がべろりと剥がれ落ちる、皮だけで繋がる下あごが露出した。
だが、それで終わりではなかった。
黎の聖女は聖杖を叩きつける。
何度も何度も―――
狂ったように何度も杖を振り下ろし。
ついには肉塊となった千秋の遺骸。
両者の間に静寂が訪れる。
ユラは指先で、剥がれ落ちる肉を摘まむ。
そして、ゆっくりと口元まで運び、その口で肉塊を咀嚼し始めた。
そんな中で唯一、猛攻を耐える者が居た。
最後に残ったのは風音とシステリッサ。
彼らだけがかろうじて生き延びていた。
それ以外は全滅した。
南朋もイノリも、他の参加者も。
数百に及ぶ過去の英傑たち。
追憶の亡霊は1人1人が一騎当千。
しかし―――
マリアも千秋も小町も。
全く相手にならなかった訳ではない。
退ける事が出来なかった訳ではない。
本来、治癒するはずのない彼らには『星喰いの竜』を宿す『黎の聖女ユラ』が居たのだ。
倒しても、倒しても、倒しても―――
何度もユラの治癒魔法によって回復した。
それは無尽蔵な暴力。
戦略と戦術を駆使する魔の渦であった。
そんな暗闇の中で突如として。
――― 極光が輝いた ―――
/深淵の魔術師視点/
「やはり貴様が……邪魔だな。極光」




