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ママ




 多くのギャルゲーには両親が登場しないことが多い。いや、出てこないわけではないが、物語の主軸に絡まない限り、登場することは少ない。理由は簡単で、親が介入すると物語の進行がノイズになるからだ。



 ――そんなことを考えていた。



 俺は今、タイムアタックの棄権手続きに行けずにいた。棄権ができるのかも知らなければ、どこで手続きをすればいいのかもわからない。


 その途中で、彩羽ママに捕まったのだ。

 彩羽ママに、荷物を持たされた俺は苦渋の顔。


「電波がね。悪いのよ。お父さんもお姉ちゃんもどこかに行っちゃってねぇ。困ったものよねぇ」


 彩羽ママの携帯は一世代以上前のPHS。

 それを片手に呟いた。

  

「は、はぁ……人が多いですからね。回線が混雑してるのかもですね」


「あら~」 

 ママは頬に手を当てて目を細めた。


「あの……ちょっと用が、ありまして」


 彩羽ママは俺の声に被せるように。

「天内くん。今日の晩御飯は何がいいかしら?」


「え?」


「みんなで食べるんだから当然意見を聞いとかないとね。千秋ちゃんの大事な人だし」


「光栄ですが……その用がですね……」


 俺が言いかける間もなく、彩羽ママは無理に話を進める。


「いいわよね、千冬ちゃん?」


「ん。お兄ちゃんは何が食べたいの?」

 千冬は俺の袖を引っ張った。


 俺は完全に包囲されていた。


 すると―――

 ガラの悪い金髪の大男が近づいて来た。


「よう。天内じゃねーか。お前も髪を染めたのか?」


 ガラガラ声のカラスのような声音。

 髪の毛を染めたニクブ。

 そいつの隣には頭の悪そうな女。


「お、おう」


 ニクブが俺の隣を見て、興味深げに。

「こちらは?」


 俺が言う間もなく、彩羽ママが先に答える。

「母ですぅ~」


「いや、ちがっ」 

 この人は赤の他人だよ!


「あ、これはこれは。俺……僕はニクブ・マンプク。天内……傑くんの親友をやらせて貰っています」


 彩羽ママはニクブに頭を下げる。

「それはそれは、どうもお世話様ですぅ~」


「悪いな。家族団らんの所、声を掛けて。俺はこれからデートなんだ! ドゥフフフフ!!」


「若いっていいわねぇ~」

 彩羽ママはにっこりと頷く。


「それではママさん。失礼します」


「うちの息子とは今後とも仲良くしてねぇ~」


「おい待てって!」


「な、なんだよ」


 俺は目で合図を送る。

 この場から脱出する為に助け船を出せ、と。


 しかし、意図を読めないのか。


「ああ。そう言う事か。隣に居るのは俺の彼女だ。お前のアドバイスが活きたぞぉ~」

 

 ニクブは俺に向かってサムズアップ。


 まさか。隣居るのはマチアプ女か?

 オオクボパークに居る立ちんぼにしか見えんが……

 つーか、どう考えてもそうにしか見えん。

 

「ではな! さらばだ!」


「おい。だから待てって!」


「寒い」

 千冬が俺の袖を引っ張り、俺の動きを制限してきた。


 人込みの中に消えていくニクブ。

 

「あ、あいつ……」


「気持ちのいい若者ねぇ~」

 彩羽ママはその背中を見送りながら、頷いている。


 その後、俺はさらに数人と知り合いに会った。

 ガリノにも、D組の連中にも。


 毎回、彩羽ママは紹介する。

「母ですぅ~」

 その度に俺は顔が死んでいった。


「天内くんは沢山お友達が居るのねぇ~。千秋ちゃんのお友達とも会いたいわぁ~」


「ハハハ」

 俺は空笑いをした。

 陰の者の千秋がここに居たらきっと脂汗を浮かべるだろうな。



 徐々に陽が暮れていく。



 スマホで千秋にメッセージを送るが既読にならず。

 

「チッ。アイツ。いつもはすぐに返信してくるのに」


 マジで電波障害が起きてるのかもしれん。

 特殊な回線を使用している俺の特別製のスマホもアンテナが不安定だ。信号がゼロになったりマックスになったりする。


 そんな中、香水の強い匂いを放つギャル集団とすれ違う。

 その中心に立っているのは――

 まつりだった。

 

「よっす~。あまっち! あれ? 誰だし?」


「母ですぅ~」


「へぇ~。あまっちママさんだ!」


「いや、ちが」


「隣の子は……まさか!? 妹ちゃん!?」

 

 ママさんは勝手に。

「千冬って言うのよぉ~」


「いや、だからっ!」


「「「キャ―――!! カワヨォォォォォ」」」


 ギャル集団は俺の隣の千冬に興味津々なのか、彼女を取り囲んだ。


「え? え?」

 と千冬の困惑声。

 

 俺はヒソヒソ話をするように。

「ちょっと。まつり先輩。お話が!」


「ん?」


 ギャルたちは千冬とママさんに群がり、写真を撮りまくる。


「ママさん若いぃ~!!」


「ホントホント! あとでインスタに上げていいっすか?」


「インスタントカメラ? いいわよぉ~」


「妹ちゃんもピースピース」

 ギャルたちは盛り上がる。


「あれ? またスマホの電源落ちちゃったよぉ~」


 そんな彼女らを尻目に。

 俺はまつりに小声で競技の棄権について尋ねた。


「という訳で、俺は棄権しますんで。あとはよろしくお願いいたします」


「ムリムリ」


「なんでです?」


「あーしも出たくないけどさ。強制参加なんだよこれ」


「いやいや。知りませんよ。そんなの」


「ええぇ? 前と言ってる事と違くない?」


「前?」


「言ってたじゃん。一週間前ぐらい。フィリスっちと一緒に居る時」


「は。はぁ?」


 だから、記憶にないんだけど。

 

「気が変わるのはわかるよ。でもねぇ。なんかねぇ~。学園に出資? 寄付? している協会? スポンサー? の意向らしいよ。義務だってさ!」


 スポンサー? なんだそりゃ!?


「俺は今! 風邪ひいてます!」


「受付に行けば無料で治療してくれるよぉ~。だから体調不良は理由になんないしー」


「じゃ、じゃあ! サボります」


「ん~。いいけど。みんなにペナルティーあるかもだし止めた方がいいよ」


「で、でも俺はそんな事一言も知らなかったし……」

 

 まつりはスマホを取り出し苦い顔をする。

「あっちゃ~。やっぱ、全然使えなくなってるし。も~最悪。ライブ配信出来んじゃん」


 


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