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――> 





 本日はお開き。

 千秋と小町に、マリアに語った事と同じく今まで俺が黙っていた事をざっくりと流れを説明したのだ。


「と、まぁ。なんやかんやあって、そんな感じだ。そこでお前らに頼みがある……」


 千秋が恐る恐る口を開く。

「な、なんだい?」


「俺は死ぬ気はないが、万が一の時に……」


「そんな事……言わないで下さいよ」

 小町の声音は震えていた。


 俺は手で制す。

「わかってる。だが、これだけは、したいというのが、ある。どうしてもだ」


「聞くだけは……聞こう」

 千秋も肩を落としながら耳を傾ける。


 俺は、頷くと意を決して。

 早口で―――。


「まず、葬式! 俺の葬式で流す曲について。お前ら二人に頼みたい! 鎮魂歌(レクイエム)は、ホルモンの『ぶっ生き返す』。これを是非流して欲しい。次に遺影。これは撮影してあるぞぉ!」


 俺はスマホを取り出し写真を見せつけた。


 そこに映るのは―――

 中指を立て、不敵な笑みを浮かべる俺の写真。

  

 気合が入った服装。

 髑髏の刺繍が入ったニット帽。

 首にヘッドホン。

 クソデカサングラス。

 黒いコートを羽織り。

 インナーのシャツは派手な赤。

 シャツには英字で『You died!  Score 0』。

 

「これだ! この超イカした写真にしたい! あとでお前らのスマホに転送しておく。いいか! 頼んだぞ! きっと! 檀家から金を巻き上げている生臭坊主もびっくりするぞぉ~!! 俺は葬式で主人公になるんだ!」


 

 宣言の後―――

 沈黙が場を支配した。



「「……」」

 2人の鋭い目つきが刺さる。


「な、なんだよ」


 すると―――

 『ふざけんな!』と、怒号が飛んだ。


 ・

 ・

 ・

 

 俺は彼らと別れた後―――

 香乃にプレゼンする為に、最後の策の資料を学園のPCルームで作成していた。

 

 当たり前の話なんだが。

 2月に死ぬかもしれない俺が、3月に現れるフィーニスを倒すというのは矛盾が発生している。


 通常―――

 マリアの延命手段を待つのが筋。

 しかし、確証が薄い。

 ギリギリで間に合うのは主人公補正が過ぎる。ご都合主義は発生しない算段で計算する。

 

 故に、それ以外の方法を模索した。

 

 そしてあるのだ。

 たった一つ。

 2月に死ぬ奴が3月に行く方法が。


 改めて、おさらいしなければならないだろう。

 召喚―――

 これは時空間を超えて呼び出せるというバグ特性を持つ。


「フィーニスに出逢うまでに複雑なプロセスを踏まねばならん……」

  

 フィーニスに接触するまでの作戦をまとめてみる。


 『接触するだけのプロセス』。


 ――――――――――――

 目的:フィーニスに接触する 


〇課題:

 俺の寿命は2月で尽きるが、フィーニスが現れるのは3月。

 ―――> 現在のままでは戦う事が出来ない。

 

〇解決策:召喚術のバグを利用

 俺を『過去』に送り、さらに『未来』に召喚する方法。



〇作戦の流れ。

 ① 1月中旬:俺が過去へ移動。

   ―――現在時空からの消失。


 ② 過去の適当な地点に着地:

   ここはどこでもいい。

   例えば昨年の8月1日。

   

 ③ 未来への召喚:

   香乃が『フィーニス顕現の日』に俺を召喚。


 ④ 最終決戦:3月、フィーニスとの対峙。


〇俺の体感

 1/13(25年)―>8/1(24年)―>3月中旬(25年)


 ―――の移動をほぼラグなしで行う。

 俺の寿命カウンターは肉体の損傷ではなく『魂』の損傷。故に、過去で1日過ごしてもカウンターは目減りする。なので、ここを最短距離で通過する必要がある。

 

〇成功条件

 1:香乃が3月まで生存する事。

 2:過去跳躍に耐えられる身体をフランに用意して貰う事。


〇リスク

 香乃が何らかの失敗をした場合、この作戦は終わる。

 俺が過去に取り残された場合も同様にジ・エンド。

 現在時空で、1月中旬からフィーニス顕現まで俺は不在。

 ――――――――――――


 これはあくまで、接触するまでの道筋。

 対処法はさらに複雑な手順を要するが……


「よしよし……出来たぞ」

 俺はプレゼン資料をまとめ終わると満足した。

 

 ・

 ・

 ・




 帰宅途中―――





 天を仰いだ。

 すっかり暗くなり、天には星々が煌めく。

 冬の澄んだ空気は星の光をよく通す。


 俺が持つ手札……

 アイテムの数々を脳内で再確認する。

 

 どいつもこいつも、ドラマがある代物ばかりで笑った。


 『ケハエール』―――

 俺の命綱であり、俺の増毛剤として作らせた回復薬。


 『オルバース』と『極光ブラックナイト』―――

 夏イベで獲得した。


 『マジックきのこ』―――

 大金持ちであるグリーン汁王子になる為、ヘッジメイズにて栽培した。


 『蟲毒の壺』―――

 俺の足らない魔力を補う外部バッテリー。

 夢魔界で奪った。


 『魔力阻害書(スペルバインダー)』―――

 ガリアの雪山でたまたま拾った。


 『不可視の武器多数』―――

 ボルカー戦の為にハイタカに強化させた。


「結局、俺個人は弱いんだよな。S~F評価で、俺個人の潜在能力は最初から今まで総合力『C』ってとこだ」

 

 苦笑いした。

 俺は最後まで道具とプレイヤースキルで生き残って来たにすぎない。俺個人の能力値は頭打ちなのだ。


「それに……間違いなく、もう一度使えば……」


 手の平を何度か握ってみる。

 ―――震えている。

 ツゥ――っと、いつの間にか鼻血が垂れていた。


 指の腹で血を拭い、吐息を一つ吐く。

 

「時間が惜しいな」

 

 極光(ブラックナイト)を全力で稼働させるのは俺の身に余る。夢魔界で奪った『蟲毒の壺』の外部バッテリーも核撃で使い切っている。

 

 手札は少ない。

 順調に弱体化している。

 逆チート化。

 否―――

 チートを使い過ぎたツケを支払っている。

  

「究極俺は出来てあと一回ってとこだ……」

 

 それ以上使えば確実に崩壊する予感がある。

 自分の身体だからこそわかる。

 喉元に刃を突き付けられている感覚。


「明確な死が待ち受けている」

 

 狂乱者同様、使わなければフィーニスと対峙した瞬間にゲームセットさせられる可能性がある。『夜の女王』のように、街中で強敵が出現する場合は『究極俺』でマニュアル操作しなければいけない。ブラックナイトの自立運転、アレの全力は街中に甚大な被害を及ぼしてしまう。


 震えは止まっていた。

 手の平を何度か握ってみる。


「ふむ」


 まだ精密に動く。

 

「さぁて。最後のパーティーの始まりだ」

 

 そんな不敵な独り言を呟いていると。

 

「アマチィィィィィ!!! ここに居たかァァァァ!!」


 フィリスの野郎が走って来ていた。

 目が合った。


「げっ!? な、なんだ?」

 

「そこを動くなよぉぉぉ!!!」


 フィリスの目は異様に吊り上がっている。妙に血走ったその目には、ただならぬ執念が宿っていた。


「こっわ」


「天内。貴様、昨日。突然、どうして居なくなったんだ!?」


「は? 何の話だ?」


「とぼけおって!」


「だから、何を……」


 フィリスは俺の襟を掴む。

「昨日は私を訪ねて来てくれて、私は嬉しかったのだ!」


「は、はぁ?」


「呑気なお前がだ! だが貴様! 乙女の気持ちを踏みにじりおって! 折角期待をしていたのに!」


「だから、何の話だよ……俺は昨日お前に会って……ない」


「しらばっくれるなよぉぉぉ! こんなおかしな髪の色の男はお前しか居ないだろう!!」


 フィリスに力いっぱい掴まれると、首をブンブン揺れた。

 

「や、やめろって」


「あの後、自室で待っていたのにィィィィィ!!」



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