解像度が高すぎる女
ホテルから出た俺と小町。
気まずい雰囲気がしばらく流れた後。
「先輩に……聞きたい事があります」
小町が俺に問いかけてきた。
「なに?」
やはり、俺は何かしたのか?
生理周期を分析するアプリ『ロナロナ』によると、昨日は小町の危険日の可能性があった。俺はパーティーメンバー全員の安全日と危険日を詳細に分析している。なぜか? 女は生理によって人格が豹変するから――――
ちなみに俺はキモくな~い。
彼女は俺の頭頂部を見ると。
「それは、その……頭はなんなんですか?」
俺の髪の毛は赤毛と白髪の混じった不思議な髪色になっているのだ。
「だから、これはオシャレだって」
「そんな訳ないでしょう!」
「いやいや、何を疑ってるんだよ」
「そ、それは……」
コイツはさっきからずっとこんな感じだ。
ごにょごにょ言い淀むのだ。
「俺も小町……さん、に……山ほど聞きたい事があるんだ」
「なんなんですか。さっきから小町さんって。さん付けっておかしいでしょ」
俺は意を決して―――
「もうさ。単刀直入に訊くけど。なんで一緒に寝てた訳? しかも裸で!」
おかしな事が起きているのだ。
目を泳がせる小町は。
「そ、それは。まぁいいじゃないですか」
「よくないだろ!」
「そういう事もありますよ」
「ねぇんだよ!」
「ぐっ!? そんな事は、どうでもいいんですよ!」
「そんな事って。お前はそれでいいのか? お前は……そんな感じの奴だったのか……ちょっと驚きなんだけど」
「え? いや! 何を想像してるんですか!?」
「誰とでも寝る女だったのかって事……ちょっと意外だ」
彼女は言葉の意味を理解したのか。
顔を真っ赤にして。
「は、はぁ!? はぁ!!!??? ちがっ! 違う! んな訳ないでしょう! はぁぁぁぁ!?」
「じゃあ。説明してくれ。俺と小町さんは昨日何があって、こんな事になったのか! 頼む教えてくれよ!」
俺は頭を下げた。
なんなら土下座をした。
「顔を……上げて下さい」
小町の声は震えている。
「じゃあ。教えてくれるんだな?」
小町は頷くと、そっぽを向きながら。
「え、っと。その……あの……昨日の夜。先輩が熱を出して倒れました」
「お、おう。それで?」
それで? その後、一体何があったんだ?
「なので、温めないといけないと思いました」
「そ、そうか。サンキュな」
「はい。で……この話は終わりです」
「は?」
突然、話が終わったぞ。
「この話はここで終わりです。もういいじゃないですか。細かい事を気にし過ぎるから禿げるんですよ」
「それはおかしいだろ!」
「先輩は! 先輩は! 一体何を気にしてるんですか!?」
「お前こそ、この状況で気にならないのはおかしいだろ!」
「い、いや……それは。もう。いいじゃないですか。お腹空いちゃいましたよ。朝マック行きましょ。ね?」
「俺は騙されないぞ! 俺が倒れてた。そして温かい場所に連れて来た。ここまではわかる! それは、ありがとう!」
「え、あ、はい。どういたしまして」
「連れてきた場所。仮に、それがラブ……少し変わったホテルだったとしてもいいだろう」
「は、はい。そうかもですね」
彼女は目を泳がせ始める。
「確かに、俺は繁華街で気を失ったのだろう。俺の記憶はそこで止まっているからな。近場で寝かせる場所を探した。ここまでは理解できる。でも! 目を覚ましたら裸なのはおかしいだろう!?」
「そ、それは先輩が朦朧としながら脱ぎ始めたんですよ! 私のせいじゃない! 先輩の寝相が悪いだけでしょうがっ!」
嘘くせぇ。
こっちを見ろ。
こっちを見て発言してみろ。
なんで、明後日の方向に怒鳴ってんだよ。
「百歩譲って、俺が寝ぼけて服を脱いだとしよう……それならなぜ! お前も裸だったんだ! おかしいじゃないか!」
彼女は観念したのか―――
「だって! ドラマで観たもん!」
「え?」
「裸で抱き合って体温共有するのを、です! 私は先輩の為を思って、したんですよ! それなのに! なんでそんな風に怒るんですか?」
「いや、別に怒っては……」
俺は真実を知りたいから訊いてるだけなのだ。
「先輩の服は凄く濡れてました。昨日は雪が舞っていたから」
「お、おう」
「先輩は真っ青になって震えていたんですよ! だから急いで温めたんですよ! ドラマでやってたもん! 体温を分け与えるのは裸の方がいいって! それなのに! 私が悪いみたいな事ばっかり! あまつさえ、ビッチみたいな事言って! そんなの酷いじゃないですか!」
小町は涙目になりながら矢継早に俺に詰め寄った。
「お、おう。そうか」
「心配したのに!!」
小町は鼻を啜りながら、突然涙を流し始めた。
えぇ~。なんで泣くんだよ。
俺は昨日、何があったのか訊いただけじゃんか。
間違いがあったらいけないから。
「わ、悪い。悪かったよ。ありがとな。俺の事を思ってたん……だな?」
俺は苦い顔をした。
「ぞうでずぅ~」
鼻水を垂らしながら、彼女は裾で目頭を擦っていた。
「それじゃあ、昨日はなんか。その、未成年……不純異性交遊みたいな事は……」
「ぞんだのないでずよぉ~。ばだじはただ、先輩が心配だったんでずよぉ~」
「悪い。悪かったって。な? 泣くなよ」
「ふぇ~ん!!!」
小町が大声で泣きだしたのだ。
「くッ!?」
ヤバいぞ。
コイツがこんなに泣くなんて―――
きっとどでかい地雷を踏んでしまったのかもしれない。
まぁ、まぁ。
とりあえず、俺とコイツの間に何かあった訳じゃなさそうだ。
あっぶねぇ~。
死ぬのを覚悟する所だったわぁ~。




