始まったぜ。チュートリアルが!
「ついに始まったぜ。チュートリアルが」
と、意気込んだもののかれこれ60分以上歩いているが、誰にも遭遇しない。
仮想戦闘場は直径10キロに及ぶ森林のエリアだった。
マホロ学園自体バカでかい土地を占有しており、1個の市町村レベルの土地の規模を誇る。
至る所にドローンや監視カメラのようなものが見てとれた。
「これで舞台席から見れるってわけね。こりゃ凄いな。いくらかけてんだ?」
単なるチュートリアルの模擬戦だと思っていたが。
金の掛け方が異常だ。
「そりゃあ、一種のお祭りになるわな」
ジュード先輩に借りた訓練用の細剣を抜く機会がない。
「はぁ……のどかだ」
俺はトボトボと森の中を歩きながら、第一村人を発見するまでゆっくりと観察していた。
気候は晴れ。
川のせせらぎが遠くで聞こえる。
「そういやこの仮想空間でも昼飯食えるよな? とんでも時空だし」
俺はさっき入場する前ギリギリで買ったチュロを懐から取り出し頬張った。
「旨いじゃん」
適当な切り株に座り、少し遅い昼食を摂る。
最初に風音に遭えば、さっさと負けよう。
それ以外なら、まぁ処していく必要がある。
強者ならまぁちょっと苦戦するかもな……
そうこうしていると。
「どうしよ」
俺は切り株から立ち上がった。
第一村人発見だ。
「よう。見ない顔だな」
大男が威圧を込めた言葉で自信を滲ませながら。
俺を威嚇した。
「あ、ども」
俺は軽く会釈。
身長2メートルを超える大男だ。
右手には大剣を持っている。
えーっと誰だっけ。
こんなキャラ居たなぁとしか思わなかった。
多分使った事はないし持ってたかすら怪しい。
マジで誰だっけ?
強キャラとメインキャラは大方覚えてるんだが。
端役の中の端役となると流石に1000も居るキャラ1人1人の名前も特徴も覚えていない。
「呑気に昼食とは、お前舐めてるのか?」
あきれた顔であった。
「いやいや、本気ですよ。ちょっとお腹が空いたというか」
「記念すべき15人目の敗者がこんな奴になるとは、いいだろう。マホロの天才、スマッシュが相手になってやろう」
スマッシュと名乗る大男は大剣に魔力を纏わせていく。
天才????
誰が?
君が?
いやいやいや。
初めて見たよ。
自分の事を天才って自称する奴。
吹き出しそうになった。
流石にツッコミ待ちか?
ツッコんだ方がいいか俺?
「なんだ下級生、俺を見て怖じ気づいたか?」
どゆこと?
「俺もこの数か月で少し強くなりすぎた。なに、しっかり切り刻んでやるさ」
ああ。うん。
そっすか。
どうやらマジで自称天才さんは自分の事を天才だと思ってるっぽい。
はぁ~。
少し遊んでやるか。
「スマッシュさんだっけ? ああ。なるほど。はい。やる感じですね。りょーかいです」
俺は細剣の鞘に手を掛けた。
・
・
・
よっわぁ~。
「弱すぎ。#。スマッシュ弱っで呟かなきゃ」
肩慣らしに武器術しばりで細剣の技術を駆使して戦ってみた。
魔法もアーツも使う必要すらないと判断したからだ。
俺の所有スキルはオートで発動してしまうものなので。
『モリドールさんは起きたのか?』という事と今日の晩飯について考えていた。
とは言っても風属性魔法の斬撃は強力だなぁと思った。
俺は放出系の魔術は使えないので、やっぱ射程が広いと便利だな。
本来風圧による攻撃は視認するのは困難だし、刃の形に同調させる鎌鼬は有用だ。
ただ突風を利用した魔術への工夫が足りてない。
まず、剣の軌道でどこに鎌鼬が飛んでいくのか丸わかり。
第二にシンプルに剣術の修練不足。
踏み込む足の位置と剣を振りかぶる動作により剣の軌道が大まかに読める。
加えて、風圧があるという事はある程度空気に振動が生まれる。
木々のざわめきや砂埃の有無でもそれはわかる。
空気の流れを読めば仮に見えなくても対処は可能。
まぁ俺にはある程度、魔力の初期動作で見えているが。
魔術もまぁ大した事はない。
魔力をチャージする時間が長い。
時間はあってないようなスピードにしなければならない。
1秒のタイムラグはゲームでは致命的だ。
仮にそれが0.5秒だろうが、0.1秒だろうが致命的。
そんなものはない方がいい。
極限までに時間を味方に付ける訓練が足らない。
最後に大技らしきものを繰り出そうとしていたがあまりに隙が多すぎる。
大技のリロードを行うCTの計算が出来ていない。
特にこれは一番ダメだ。
高火力の技を出す場合はどうしても時間がかかる場合がある。
大技を出すならスキルかアーツにより時間短縮。
かく乱や回避によるスプリント。
フェイクや他の魔術による目くらまし。
遮蔽物に隠れるリーンをしないのは落第点だ。
まるでカカシ同然に突っ立っているようなもの。
まぁ一言で言うなら。
「雑魚」
案山子の頭に剣の切っ先を刺した後。
俺はどうしようか悩んでしまった。
え? これどうなんの?
スマッシュはぶっ倒れたまんまじゃん。
どうやら死んでないっぽい。
すると、時間差で戦闘不能というアナウンスが流れると。
魔法陣が起動しスマッシュは転送されその場から消えた。
「あ、こういうシステムなのね」
知ってはいたが、殺しちゃったかもと一瞬頭をよぎってしまった。
心臓に悪いぜ。
「さてと、じゃあ適当に目減りするまで散策しますか」
俺は主人公風音との初対面にワクワクしていた。
一体どんな状態になっているのか。
「俺に勝つまで負けるんじゃないぞ」
せっかく負ける練習をしてきたのだ。
俺の華麗なる負けを披露せねばならん。
「フフフフ。楽しくなってきたぜ」
すると、投げナイフが飛んでくると目の前で爆発した。
「よう。ってかもう終わったか?」
背後からナイフを放った者が呟いた。
爆風の砂埃を利用し背後に回り込む。
「あの~先輩。エイム鍛えた方がいいっすよ」
爆発するナイフを放ってきた者にそう忠告。
お返しとばかりに雷電を纏った剣で首を叩き切った。
「お疲れ様っす」
ボトリと首が落ちる音がした。
弱すぎワロタ。
「模擬戦はチュートリアルだし仕方ないか」
ここには雑魚しか居ない。
てか、ホントに弱すぎないか????
ここまで弱かったけ?
「なんで?」
………
ま! いっか。
主人公と遭遇するまで適当に倒していけばいい。
「ようやくエンカウント率上がってきたなぁ~。サクサク処して行きますか」




