―― 深淵が開かれる ――
沈む影は「過去」。
照らす光は「現在」。
狭間で挑む者は「未来」を紡ぐ。
調和か、激動か。
秩序か、混沌か。
救いか、喪失か。
運命の交わる果ては、開放か隔絶。
これは――
過去、現在、そして未来を賭けた物語。
―――時は少し遡る
/3人称視点/
――― 極光が輝いた ―――
刹那の閃光―――
極光の輝きは、夜空を裂く流星の如き美しさ。
それは、まるで全ての命の燃焼を象徴するかのようだった。
闇の底から見上げる者が囁く。
「儚い命の灯だ」
囁くのは深淵の魔術師。
彼は、この瞬間を予見していた。
破滅の舞台として仕組まれた『血の契約者:夜の領域』による都市壊滅のシナリオ。
パンデミック、汚染、大虐殺。
それら全てが『計画通り』覆されたことを―――。
「ネイガーが勝利を掴むなど、予定調和。それ以上でも、それ以下でもない」
夜の女王の敗北。
それは捨て石の一手に過ぎない。
光が闇を切り裂く姿を見届けながら、深淵の魔術師は虚空に語り掛ける。
「私の勝ちだ」
それは、静かなる勝利宣言。
せめぎ合う未来の結末が鮮明になる。
彼の持つ『未来を見通す眼』。
靄に覆われた未来のビジョンを鮮明にするその異能は、あらゆる可能性の線を織り上げ、極光と聖剣使いが辿る運命を輪郭づけていく。
未来を見通す眼が映すのは。
―――極光が燃え尽きる光景。
―――この時代の英傑の皆殺し。
―――深淵の顕現。
魔術師は己が悲願、儀式の成就。
立ちはだかる障害をどのように消耗させればいいのかと思慮した。
極光や聖剣使いと直接対峙した場合―――
勝敗の行方がわからなくなる。
故に、直接倒すのではなく。
わずかな亀裂を鋭利に突き崩すべきだと―――
「貴様らの照らし出す光は、未来永劫届く事はない」
1000年に及ぶ知識と魔術の才。
溜め続けた魔力。
そして計略の果てに導き出した答え。
天にそびえる光の輝きを見上げ問いかける。
「貴様はその光で……あと何度、この世界の混沌を照らす事が出来る?」
それは『深淵の魔術師』から『極光の騎士』への挑戦。
背後――
虚無から浮かび上がる影。
深淵の魔術師の背後には底なしの影が揺らめく。
―― 深淵が開かれる ――
生気の宿らぬ顔をした伝説の英傑の影が列を成していた。
在りし日の仲間の影。
深淵の獣:時空の幻獣を宿した伝説的英傑の死体。
剣兵―――
剣を握るその姿は、武の極地そのもの。
金の魔術が鋼の如き肉体を覆い、剣筋は光すら裂く刃となる。
槍兵―――
雷光の如き速さで走る槍兵。
影を縫う神槍は天と地を繋ぎ、無限に屈折する刺突は星々をも貫く。
弓兵―――
遠く離れた大地に立ち、天を射抜く狩人。
自然そのものを従属させる矢は、空を引き裂きながら飛翔する。
盾兵―――
あらゆる衝撃を受け止める不動の守護者。
衝撃を反射する反動の槌は、絶壁の護り。
騎兵―――
炎の戦場を駆ける天翔ける英雄。
騎手の操る戦車が地を走るたび、焦土が広がり、炎の輪が進行を阻む。馬の鬣が赤く輝き、英雄の威風が戦場全体を覆い尽くす。
各個人の実力は一騎当千。
深淵の魔術師が持つ異能。
召喚術、死霊術、時空間魔法の複合。
混沌の魔法により復元された英傑の骸。
600を超える死の軍勢。
深淵の魔術師は告げる。
「光がどれほど眩しかろうとも、計略の糸で縛り付ける」
光の灯らぬ『過去を見据える瞳』は、ただ一つの結末を紡ぐ。
天空都市――天空の砦。
地上と異界を隔てる最後の防壁。
聖域である『天空の砦』を地上へ墜とす計略。
異界の穴を塞ぐ『蓋』の破壊。
『黒き太陽:天に開いた穴』を覆う『蓋』は無情にも崩れ落ち、地上に混沌を解き放つ。
終末の騎士『魔導原典書:フィーニス』が、この世界に顕現する最終計画。




