その邂逅は、運命か必然か―――
/3人称視点/
その邂逅は、運命か必然か―――
イルミネーションの光が大都会の広場を彩り、クリスマスの賑わいに包まれる中。
小町の目の前には真剣な顔の青年。
紳士的な雨地の告白の答えに詰まっていると―――
彼女の視線は喧騒を越え、ただ一人の青年を捉えた。
それは偶然。
思いを巡らせ、片思いを決着させようと思い悩んでいた時。
彼女の異常に発達した眼は―――
スポットライトが当たるかのように、1人の青年を映し出す。
地に手を付き、肩を上下させ、苦しげな息を繰り返す天内の姿が、飛び込んできたのだ。
「行かなきゃ……」
彼女は立ち上がる。
「穂村、待てよ! どうしたんだよ!」
小町の両手を掴んでいた雨地が困惑した表情で声をかける。
「ごめんね……」
彼女は一瞬だけ微笑み、静かに彼の手を振りほどいた。
「お、おい!」
雨地のそんな言葉を背に―――
彼女は真摯な彼に心の中で謝罪する。
「ごめんね、ごめん。雨地……でも」
(先輩を1人になんて出来ない。私はやっぱり……)
苦しそうにする彼を見て、彼女の身体は理性を超えて動き出していた。その足は、すでに無意識に彼を求め、雑踏をかき分けていた。
雑踏の中―――
息を切らせながら人込みを掻き分ける。
「はぁ……はぁ……」
誰も彼に手を差し伸べる事無く、ただ無関心に通り過ぎる。
彼女は広場の階段を急いで駆け降りる。
急ぐあまりに足元がもつれ、尻もちをついた。
「くっ……!」
すぐに立ち上がり、視線をさまよわせる。
「いない……」
――彼の姿がない。
先ほどまで地に伏していた場所に、彼の影はなかった。
焦りで胸が高鳴る。
「一体どこに……」
目を凝らして辺りを見回すと―――
壁に手を付き、苦しそうに胸を押さえながら歩く天内の姿。
彼の足取りは危うく、今にも倒れそうだった。
「先輩!」
小町は、叫びながら彼に向かって駆け出す。
道路を挟んだ先に彼の姿。
「先輩! 先輩! 先輩……天内! 天内! 天内傑!」
彼女は必至に叫ぶが都会の喧騒に声はかき消されていく。
人込みが彼の姿を見失わせる。
都会特有の長すぎる赤信号に行く手を阻まれる。
車が行き交い、人々が横断歩道の手前で立ち止まる中、彼女はその場で震えるように立ち尽くした。
「っ!」
少しでも目を離すと、都会の闇にすぐに飲み込まれてしまう。
「見失っちゃうよ」
それが彼女の焦りを加速させる。
小町は一目見て、彼の状態が異常であると悟っていた。
「なんで……早く青に変わってよ!」
赤信号が青に変わるまでの時間が、永遠にも感じられる。
冷たい冬の風が吹き抜ける。
彼女の頬は寒さで朱に染まる―――
ネオンの光と都会の雑踏が彼の姿を闇に隠そうとする。
信号は赤から黄に色を変えた。
信号が青に変わる瞬間―――
人込みが動き出すよりも先に、彼女は我先に横断歩道を駆け出した。
周囲の歩行者を押しのける。
しかし――
気付けば、天内の姿はどこにもなかった。
「いない……いなくなっちゃう」
彼女の声が震える。
目の前が、真っ白に霞む。
涙がこぼれそうになるのを必死で堪えながら、周囲を見渡す。
「まだ言えてないのに……っ!」
もう二度と会えなくなるような―――
そんな嫌な予感が胸を打つ。
「まだ告白もしてないのに、まだいっぱい傍に居たいのに……まだまだ喋っていたいのに……まだ感謝だってしてないのに……」
心の中で、ひとつひとつの記憶が呼び覚まされ、走馬灯のように駆け巡る。
なんでもない毎日が思い出された。
彼の笑顔。
彼との会話。
彼とのひととき。
何気ない日常が、今は遠く感じられ、胸を締め付ける。
「先輩どこに……」
それでも、彼の姿は見つからない。
人々の波に呑み込まれ、消えてしまったその後ろ姿に、彼女はただ立ち尽くすことしかできなかった。




