強キャラは大体イケメン
間に合ったんだわ。
13時開始かと思っていたが本試合開始は13時半からだった。
受付のおっさんに事情を説明する時間の方が骨が折れた。
風俗ライターみたいな見た目をしていたから、今度からあの頭の固いおっさんを風ライさんと呼ぼう。
失格の二文字を出され、項垂れていた所に助け船を出してくれた存在。
俺のメガシュヴァ時代。
心の友であった男キャラ【ジュード・イライザ―】。
金髪碧眼の美丈夫である。
俺を不審者扱いした受付のおっさんは、ジュードの説明で渋々納得したようで、無理矢理模擬戦にねじ込んでもらった。
「本来、12時までに受付は必要なんだぜぇ」
生徒会の腕章を腕に付け模擬戦運営を行っているジュードはヘラヘラとした顔で苦言を呈し、肩を小突いてきた。
「面目ないです」
いや、こればっかりは俺が悪い。
タキオンによるそれはもう奇跡と言わざるおえないスピードで何とか学園に辿り着いたのは13時1分前。
途中でうんこをしたのに3分使ってしまった。
「君、見ない顔だねぇ。新入生かい?」
「ええ。今日からですけどね。てか、よくわかりましたね」
ジュードは自身のこめかみを小突き、
「ここに全ての学生の名前と顔は入ってるのさ。腐っても生徒会だからね」
さ、流石だ。
流石心の友。
「申し遅れました。俺は天内傑といいます」
まるで知っていたかのように、
「天内傑くんか。いい名だ」
とジュードは快活な笑み。
「ハハハ。どうも」
「天内くん。申し訳ないんだが、この後すぐに出てもらいたい」
「Aブロックですね」
「その通りだ。いいのかい? 準備は」
「望むところですよ」
少し生意気に俺は返答した。
ハハハと白い歯を見せ、
「ここしか空きがなくてね。後半のブロックは僕の権限がないんだ。運営もローテション制でね」
ジュードは間もなく始まるAブロックの予選を指差した。
「ええ。十分です。むしろAブロックなのはありがたいんです」
「そうなのかい?」
「それはもう」
主人公風音が出てくるのはAブロック。
昼に行われる個人戦のバトルロイヤルはAとBのみ。
夕方からCとD。
各ブロックから1人の勝者を決め、翌日4人によるトーナメント戦を行い1人の優勝者を決める。
その次の日はパーティを組んだ者達によるトーナメント戦が2日かけて行われ優勝チームを決める。
これは俺は出場できない。
だってパーティー組んでないし。
この模擬戦、ゲームではわからなかったが一種のイベントの様相になっている。
学生以外の人々が観戦場にゾロゾロと歩いているのが垣間見えた。
「そう言ってもらって助かるよ」
「しかし、凄いですね。お祭りみたいだ」
単なる模擬戦にも関わらず多くの出店が立ち並んでいる。
個人戦には参加しない学生が出店で店子をしていた。
周囲は鼻孔をくすぐる香ばしいスパイスの匂いや、テーマパークで嗅ぐような甘い匂いが充満している。
それに至る所に大型スクリーンが仮設されており、ネームド持ちキャラの親衛隊のような者達がチラホラ見えた。
「ああ。一種のお祭り気分なんだろうね。来賓の方々も来られているし、一種のパフォーマンスも含まれている」
「パフォーマンス?」
「そう。学生諸君はここで優秀な姿をお偉方に見せたいのさ。将来の為にね」
ジュードは心底どうでも良さそうな表情だった。
「新入生歓迎のイベントなのに大仰ですね」
ジュードは柔和な微笑を浮かべ。
「マホロは特殊なのさ。天内くんはあまり知らない感じかな?」
いや、知ってる。
よく知ってるぞ。
クソほど隠しイベの隠された学園だという事な。
多分この世界でもトップクラスで知っている。
だが、今はこういうべきだろう。
「人並程度でしか」
「そうか。君は飲み込まれてはいけないよ。この学園に。この魑魅魍魎巣食うこの学園にね」
ジュードはそれだけ言うと、生徒会の補佐をしている運営委員の学生の1人がジュードを呼びに来た。
「おっと悪いね。そろそろ時間のようだ。僕も仕事の時間だ」
ジュードは爽やかなスマイルを向けて背中を向ける。
何に飲み込まれてはいけないのか?
それはよくわかってるさ。
欲望に。野心に。制度に。
飲み込まれてはいけないと。
まぁ俺は既に欲望に飲み込まれてしまってるので無関係だけど。
「先輩。いずれ助けが必要になったらその時は」
俺はジュードにそう言うと。
ルート攻略に必ず彼の助けが必要になる。
ジュードは背を向けたまま片手を上げた。
かっけぇぇぇぇぇ。
ジュードあんたやっぱかっこいいよ。
「っと、俺もそろそろ行かねばならんな。てっ、武器忘れてんじゃん俺」
遅刻してテンパって武器を一本も持ってきていなかった。
肩で風を切って去っていくジュードに。
「先輩!」
俺は踵を返し、運営委員の学生と話していたジュードに声を掛けた。




