世界最高戦力の長、その名は『森林モリドール』
超絶久しぶりにモリドール回。重要回です。
/3人称視点/
森林モリドール。
彼女は知らない。
彼女の家の居候3人の事を―――
天内傑は伝説的大英雄『極光の騎士』。
天内香乃は神話に謳われる『神剣の勇者』。
天内フランは深淵に潜む災厄の魔物『大罪』。
その事実を、彼女はこれっぽちも、一切知らない。
なぜなら世知辛い一般人であるから……
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森の中に佇むモリドールの家。
その朝は、昨夜の宴の名残と共に穏やかな光が木漏れ日から差し込んでいた。
フランの帰還後――
昨夜は、モリドールと香乃を含め、4人が集まり酒盛りをしたのであった。
モリドールは二日酔いであった。
「あったまいったぁ~」
モリドールは、ボサボサの頭を掻いて、大きく欠伸をする。
正社員に昇格した彼女は、天内パーティーの顧問を務める。結果として逸材が集まった天内パーティー。それを人選した……と思われている彼女の学内での評価はうなぎ登りであった。そんな彼女は有給を全消化できるほど自由を得ていた。給料ベースも大幅に改善された彼女であったが、今だに学園の端っこ、天内と共に森の中で暮らしていた。
「おはよー」
少し遅めの起床。
太陽は既に高く昇っていた。
「おはようございます。モリドール様」
すでに目覚めていたフランが、洗濯物を干していた。
フランは深々と礼をするが、モリドールは彼女の姿をじっと見つめた。
「いかがされましたか?」
フランは視線に気づき、問いかける。
モリドールは鋭い目つきのまま洗濯物を小姑のように観察しながら。
「あのさぁ~。フランさんだっけ~?」
「はい。天内フランと申し上げます」
「本当に天内くんの親戚なんだよね?」
「そうですが?」
「全然似てないけど……」
「そ、そうですかぁ?」
フランは空を見る。
「ほんとかなぁ?」
モリドールは腕を組みながらエルフらしからぬ、あくどい顔を作りフランの全身をジロジロ見る。
「本当ですよ」
「香乃ちゃんもだよね」
「はい。香乃様もです」
「怪しいんだよなぁ」
「な、なぜそう思われるんですか?」
「全然似てないからよ」
「そ、それは親戚ですからね。当然では?」
「じゃあ、親戚って、どういう関係なの? 従妹とかあるよね?」
フランは誤魔化すように。
「タラちゃんとカツオの関係みたいな……感じです」
「ふ~~~ん。日曜夕方の、あの一家みたいな感じなんだ」
「そ、そうです。あの一家みたいな感じです」
「はぁ~~~ん」
疑いの眼のモリドール。
「私は、母親似なので似てないのです。天内さんとは少し離れているのです」
フランはぎこちない笑みを浮かべながらそう宣言した。
「ほぉ~~~~ん」
すると、モリドールは洗濯物のシワを発見する。
続けて、彼女はフランに向けて叫んだ。
「ここ伸ばさないとダメよ!」
「は、はひぃ!?」
フランは驚いた声を上げた。
モリドールは唾を飛ばしながら。
「いい! 洗濯物を乾かす前にシワを伸ばす! こんなの言われなくてもしてくれないかなぁぁ?」
彼女は疑っているのだ。
なぜこんな美少女が突然現れたのかと。
モリドールは小姑のようにフランに嫌味を飛ばす。
「す、すみません」
フランは、サッと頭を下げる。
流れを支配したと感じ取ったモリドールは畳みかけるように。
「で? 本当は?」
「ほ、本当とは?」
フランは頭を上げると目を丸くする。
「本当は! 天内くんの彼女なんでしょうが!」
「え、ええぇ!? そ、そんなことはありません! 本当に親戚です!」
必死に否定するフランを見て、モリドールはますます疑惑を深めた。それを好機と見たかモリドールの口撃が開始される。
「貴方のような人が居たら風紀が乱れるのよ!」
「ど、どういう意味ですか!?」
「まず。その煽情的な服装はなに!?」
「め、メイド服ですが……」
「そんなエッチなメイド服があるもんですか!?」
「そ、そうなのですか!?」
「そう! 貴方の服は、まるでエッチな漫画に出てくるメイド服! 繁華街のエッチなお店のコンセプト風俗! だって! 宣材写真で見た事があるもの!」
「ぐっ!? なんと慧眼!? やはり、ただ者ではないか!?」
フランは驚愕した。
最寄りのドンキで適当に購入した安物のメイド服。さらにフランの偏った知識で魔改造されたメイド服。膝下は短く、肌の露出が激しかった。
モリドールはフランの足元に駆け寄ると指差した。
「貴方のタイツのデニール数もおかしいわ! 低すぎるわ! なにそれ20ぐらいかしら! エッチよ!」
「く!? こ、これは!?」
フランは心当たりがあり過ぎた。
フランは学んでいた。
殿方はタイツをビリビリに破りたいのだと。いかがわしい事をする際に乱暴に破りたいのだと。彼女は、同人誌や動画を鑑賞し学んだのだ。そして、敢えて破りやすい薄いタイツを履いているのだ。
「なんでそんな服装なの!? うちの天内くんに色目を使う以外考えらないわ!」
「……ッ!?」
フランは唇を噛んだ。
図星だった。
これはエッチな調教をされる為の誘い水。
「それに貴方! 下着を付けてないでしょう!」
モリドールは醜悪な顔をしながら、唾を飛ばす。
「こ、これは……」
「エッチなタイツに、ノーパン、ノーブラ。有り得ないわ! そんなのおかしいわ!」
正論パンチを繰り出し続ける。
「こ、これは健康法です!」
苦しい言い訳しか思い浮かばないフラン。
「健康法な訳ないじゃない! 馬鹿にするのも大概にしなさい! 私は論点をずらしていいとは言ってないわ!」
「え、えぇ!?」
「お尻の穴を日光に当てると健康になる。みたいな言い訳は聞きたくないの! ここはヒノモトよ!」
「だ、だから健康法なのですよ!」
「じゃあ。エビデンス! 証拠を出しなさい! 今すぐ! 早く!」
「下着を付けないと締め付けがなくなり……血行が良くなり」
「なぜ日中する必要があるのかしら!」
「日中も健康になろうと……」
「ここはヒノモト。法治国家ヒノモト!」
「くっ!? そ、そうなのですか」
「そうよ! 白々しい。そんな公然わいせつ一歩手前の服装が許されるとでも!? お巡りさんに連れていかれるわ!」
「グ……なんと手強い!?」
フランは正論パンチに徐々に劣勢になる。
「まさか。お巡りさんも誘惑する魂胆なのね。裁判所でも美女の方が減刑されると聞いた事があるわ! なんて狡猾なのかしら!」
女版、天内傑。
男版モリドールが天内傑なのか……
達者な口が回り続ける。
それが森林モリドール。
口論に勝てないフランは徐々に萎縮していく。
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そんな小姑の洗礼を受けたフランは少しだけやつれていた。
「フランさんご飯あるぅ~?」
モリドールは席に腰掛けると、フランに催促した。
「少々お待ちを! すぐに用意いたします!」
「ん? なにかしら?」
フランが慌てて朝食の準備をしに行くと、モリドールは机の上に置かれた紙袋に気づく。その中にはポリ袋に入った白い粉が入っていた。彼女は袋をじっと見つめ、何か怪しげなものが入っているのではと疑い始める。
「まさか。この中に薬物に手を出している人が!?」
彼女は紙袋を抱え、キョロキョロと辺りを見回す。
「いやいや。薄力粉の可能性もある……」
彼女はマホロにて薬学を専攻していた。
中身を確認すれば、それが一体なんの粉末なのかわかるのだ。
恐る恐るポリ袋を開け。
粉末の匂いを嗅ぎ、危険性がない事を確認すると。
「『マジックきのこ』じゃない。なんでこんな珍しいものが」
モリドールの魔術の才能はハズレ枠の薬草術。
彼女は紙袋をそっと戻した。
「まっ! いっか」
序盤も序盤のコメディシーンの『ep.35』にてモリドールの専攻は薬学と提示済み。
最終章でモリドールが大活躍します。




