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香乃の使い魔


/3人称視点/



 ―― 天内・香乃 ――



 街はクリスマスの色彩に染まり、降りしきる雪が光を受けて儚く舞っていた。華やかな装飾が街路樹を彩り、ショーウィンドウには無数の輝きが溢れる。


 両手一杯に紙袋を抱えた香乃と天内。

 紙袋の中には、色とりどりの衣服が詰め込まれていた。

 彼女の顔は困惑半分・嬉しさ半分。

 

 複雑な顔をしながら。

「こんなに沢山ハイカラな物……本当に大丈夫なのか?」

 

 香乃は天内に気遣うように声を掛けた。


「大丈夫大丈夫」


 彼女は大きなため息を吐くと、天内に問いかける。


「で? 本題はなんだ? 見え透いた嘘を吐きおって」


「えぇ?」


「言いたい事があるのだろう?」


 イルミネーションの灯りが彼女の横顔に淡く反射し、彼女の輪郭を際立たせる。


「ばれてた?」


 彼は香乃にそう問い返すと、彼女は小さくため息を吐いた。


「初めから怪しいんだよ。で? なんだ? 話だけなら聞いてやる」


 ・

 ・

 ・

 

 橙色の明かりが灯る、喫茶店の一角であった。窓越しに見える雪が、街を静かに包み込み、外の喧騒から一歩離れた空間で、時間がゆっくりと流れる。

 

「最初に言っておくと。断られる可能性もあると考えている」

 と、天内は切り出した。


「いいから言ってみろ」



 彼は真剣な顔になり―――

  


「俺は、ギャンブルが弱い」

 彼は自嘲しながらポツリと呟いた。


 香乃も耳を傾けながら。

「賭け事の事だな。それは知っている」


 彼はフッと笑うと過去を思い出すように苦笑いした。

「何度も何度も負け続けた人生だ」


「確かに、一度も満足に勝てているのを見た事はないな」

 香乃も同様に苦笑しながら肩をすくめる。


「ギャンブルだけじゃない。あらゆる事に負け続けた」


「……そうか? 意外だな」


「そうだよ。人生という決断の連続で何度も失敗し続けたのさ」


 香乃はその言葉を受けて、わずかな沈黙の後。

 真剣な眼差しで彼を見つめた。


「謙遜しすぎではないか? 傑は、傑なりに最善策を選んで来たと思うが」


「いいや。事実さ。俺という存在は多くの挫折と失敗によって彩られている。負ける事なら誰よりも知っている。負ける事に関して俺の右に出るモノはいない」


 香乃は静かに目を閉じた。

「……」

 彼女は何も言わなかった。


「だが、同時に負け続けたからこそ、勝ち筋を見失わない。俺は『最後の賭け』だけは何としてでも成功させる。最後の賭けで、俺の人生の帳尻を合わせてみせる」


「最後の賭け?」


 彼は頷くと、さらに続ける。


「負けてきた賭け金を帳消しに出来るぐらい、とんでもなく凄い大博打」


 含みを込めた言い方を察した香乃はゆっくりと目を開ける。


「通常の賭け事ではないのだな?」


 天内は一呼吸おいてから。


「香乃。お前に、俺と一緒に『最後の賭け』に乗るか乗らないか聞きたいんだ」


「要領を得ないな。いいから、話してみろ」


 彼は腕を組み、言葉を噛みしめるように―――。


「まず、第一に。『半分外側に居るメタ的な俺』と『この時代の人間ではない半分外側に居る香乃』。この2人しかディーラーの用意したテーブルでプレイする事は出来ない」


「回りくどいな。意味の半分も理解できないぞ」


 天内は香乃の不満げな言葉を聞きながらも話を続ける。


「賭け金は……俺1人分じゃ足りそうにない。お前の賭け金を含めても、それでも足りるかどうか……ようやくテーブルの席に着く事が出来る程度」


「私だと?」


「この大博打。文字通り、全てを賭けた勝負になる」


「それで? 一体、何の賭け事なんだ?」


「未来を賭けた一世一代の大博打」


「……未来……と来たか」


 香乃はその言葉を聞き、全てを察した。

 彼が自身に何を頼ろうとしているのか。

 わかってしまったのだ。


 彼は続ける。

「勝者は未来を得られる。敗者は全てを奪われる。究極の大博打に付き合って欲しい」


 香乃は口角を少しだけ上げる。

 その返答には答えず、ポツリと語り出す。


「少し前に、私は既に死んでいる。死に間際だ。と言ったよな?」


 拍子抜けした天内はポカンとする。


「え? ああ。言ってたな」


 香乃の目が遠くを見つめるように揺れた。


「あれは本当の事だ」


「お、おう。そうなのか」


 香乃は昔を思い出すように遠い目をしながら。


「あの戦いの後……そう。根絶者を討ち取った後。私は病に掛かった。いや、掛かっていた」


 彼は目を細め、その言葉の意味を瞬時に分析する。


「……終末の残した状態異常。まさか患っていたのか? お前……」


 香乃は静かに頷く。


「私は、瘴気。根絶者の残した呪いを浴びていたんだ」


「完治できなかったのか? あの時代にも聖女が居ただろう?」


「出来なかった……」


「特性が違ったか? システリッサほど万能ではなかったとも言えるか……」


「どうだかな。だが、ユラでは治せなかったのだ」


 香乃は少しだけ肩をすくめ、微かに笑った。


「そう……か」

 天内は顎に手を当てて少しだけ考え続けた。

「根絶者の残す『病』は、ウイルス、細菌、放射能、老化、とバリエーションが豊富だしな」


「どういう意味かわからぬ単語もあるが……お前は本当に何でも知ってるな」


「まぁな」


 香乃は感心しながら、話を続けた。


「呪いを受けた私は、その後、呪いを振りまく者となっていた」


「感染症か……」


「私は誰にも呪いを与えぬように、ひっそりと故郷に戻ったよ」


 香乃の声は、まるで遠い記憶を辿るようにゆっくりと響く。


「そうか」


「ああ。最後の時を迎えるならば、あそこほど良い場所もない」


 彼女は少し目を閉じ、想いを馳せる。


 天内は香乃の言葉を思い出すように―――

「空と海と大地。それと花が綺麗な場所とか言ってたよな」


 彼女は頷く。


「お前にも、私の故郷を見せてやりたかった。故郷には、『ルナブルーム』という花があってな。月の光を浴びると青白く輝く美しい花があるんだ」


 彼女の瞳は遠くを見つめ、花が咲き誇る景色を想像する。


「そうか」


 彼女は、ついぞ見せる事が出来なかった事を少しだけ残念そうな顔をして続けた。


「その後、私は故郷の地にて最後の余生を送る事になる」


「おばあちゃんになった訳だ」

 

 香乃は不意に表情を崩し、少しだけ笑みを浮かべた。


「馬鹿者。何を勘違いしてるのか知らんが、私は若い。何より老いるまで生きられなかった……と思う」


「ふむ。その後は?」


「次第に眼も見えなくなり、耳も遠くなった。身体も満足に動かせなくなり、徐々に身体に力が入らなくなったんだ」


「やはり、何らかの感染症だな……」


 彼女はそれに答えず、話を続ける。


「それからは、代わり映えのない生活。1人、ただ床で眠るだけの日々を送った。平和な日々だった。少し調子の良い時はな。陽の光を浴びに少しだけ散歩をするんだ。風を浴びて、土の匂いや花の匂いを嗅ぐ。戦いなどとは無縁の日々だった。私の望んだ平和な日だった」


「そうなのか」


「そう。そしてある日。体力の限界を悟った。なんでもない日だった。私は遂に深い眠りに落ちた」


「お、おう」


「その後。目を覚ますと、私はこの時代に来ていた。そして全てを悟った」


「ほう。そこで逆召喚された訳か」

 天内は興味深げに、感想を漏らす。


「そうだ。私は……お前を助けるために、この時代に来た……のだと思うと、悟ったのだ」


「俺を助ける為に時間跳躍したと? その前に……今のお前は死にかけに見えんが?」


「健康な身体の理由は推測でしかないが。これは恐らく……私が『幻』だからだろうと思うんだが。お前はどう思う?」


 彼は眉間にしわを寄せ、思考を巡らせる。

「それは俺もわからんな。だが、一つだけ言えるのは死んだ人間は蘇らない」


「そうか」


 香乃はわかりきっていた事なのか静かに頷いた。


 天内は脳内で幾つかの説を思い浮かべる。

(現実となった時空間魔法。これにはメガシュバにない謎の機能がある。あくまで推測だが、お前の本体は多分……)


「憶測、あくまで推理だが。『俺を依り代にした逆召喚』によって、お前の意識……魂が形作られたのかもしれん」


「そうか。やはり仮初(かりそめ)の身体か。それでもいい」

 彼女は意を決したように息を整えると。

「なぜなら、私はお前に逢えて望みを叶えたのだから」


 その言葉には、彼女の心からの願いが込められていた。


「俺に?」


「最後の時。1人静かに(とこ)についた時の事だ。私はお前にもう一度逢いたいと願った」


 香乃は目を閉じ、静かな声で告げる。


「前否定してたじゃん。(たわ)け者って!」


「そうだな……そんな事を言っていたな」


 彼女は微笑んだ。


「ちなみに、なんでそんな風に思ったんだよ?」




 

「好きだからだよ」





 彼女は『思い残す事がないよう』に素直に自身の考えを述べる。


「お、おう」

 彼は少し戸惑う。



 香乃は次に、少し沈黙を挟んでから続けた。



「だが予感もある」


「予感?」


「ああ。お前が根絶者を打倒し、この時代。元の時代に戻ったように。私も役目を終えれば元の時代、過去に戻らねばならないとな」


「ふむ」


「長々と話の腰を折ったな。賭けに乗るか乗らないかの話……それについて答えねばならん」


「お、おう」


「私は、お前を助けるために、この時代に来たと信じている。それでいいとも思っている。お前が1000年もの過去。そこで繋いだ未来。人々の願いと言える奇跡が、私を遣わしたんだろう」


 香乃の言葉は、強い確信に満ちていた。


「そんな大層な事なのか?」


「そうに違いない。そう思いたい。そう信じたいのだ。だからこそ、お前の賭けとやらに、乗ってやろうではないか」


 香乃はその言葉に、全てを賭ける覚悟を込めていたのだ。




設定が膨大になりすぎたので、少しずつあとがきで書いていきます

設定 4騎士+天内

天内に関してはここでは『戦争の騎士』として当てはめた場合。



1. 疫病の騎士 - 根絶者

能力: あらゆる病を広める力を持ち、その影響力は生命そのものに関わります。根絶者は物語内で非常に破壊的で、自然界を揺るがすような影響力を持つ存在。

特異性: その力が及ぼす影響の範囲が「病」という抽象的かつ根源的なものに関連しており、物語内の他のキャラクターや現象と比較して、非常に強力かつ手がつけられない存在です。


2. 支配の騎士 - 狂乱者

能力: 物語をメタ的に支配・介入する力(嘘のあとがきや嘘のエピローグを書く)を持ち、物語の構造そのものに干渉することができる。物語の進行を変更できるという能力は、物語内でも非常に特異な存在。

特異性: 物語の流れを直接操ることができるため、他のキャラクターや騎士たちに対して影響力を持つと同時に、物語そのものを変えてしまう力を有するため、その存在は非常に異常で破壊的なものとなります。


3. 戦争の騎士 - 天内

能力: 天内は物語を知る能力や、未来を見通す力を持ち、メタ的な視点から戦略を立てることができる存在。彼は「物語内の流れを知っている」という点で他のキャラクターとは異なります。

特異性: 天内は物語内で過去や未来を知っている唯一の存在であり、戦争の騎士としての能力もまた、戦術や戦略に長けているだけでなく、物語そのものにおいて「メタ的」な存在である点で非常に特異です。彼が物語の流れを知っていることで、他の騎士と違い、戦争の流れを予見し、対応することができるという点が特異です。


4. 飢饉の騎士 - カイゼルマグス

能力: 飢饉を象徴する力を持ち、物語内で未詳細の部分が多いですが、天内曰く「手のつけられない怪物」であるとされています。物語内で登場すれば、大規模な飢饉や資源の枯渇を引き起こし、破滅的な影響を与える存在。

特異性: 飢饉というテーマが持つ強力な影響力を考えると、物語内でそれを象徴する存在が登場すること自体が異常であり、飢えと絶望をもたらすその力は非常に特異です。


5. 死の騎士 - フィーニス

能力: フィーニスは「物語の終わり」「死」を象徴する存在であり、その能力は「勝っても負けても意味がない」「物語が終わる」といったメタ的な性質を持ちます。倒すこと自体が不可能に近く、物語の「終止符」となる存在。

特異性: フィーニスの力は物語そのものを超えており、「物語の終わり」を意味するその存在は、物語内で最も特異な存在。物語を進行させるために「死」を受け入れなければならない状況を作り出し、逆にそれを超える方法を模索させる点で、非常に異常で破壊的な存在です。


神の視座

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
2年前から読んでます。 もうそろそろ終わりそうな感じがあって悲しくもありとても感慨深く、楽しみです。 今まであなたの物語でとても楽しませてもらいました。 どうか完結まで頑張ってください!!
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