我思う、ゆえに我あり
12月も半ば。
フィーニス探索を開始して数日が経過してしまった。
「う~む」
当初のフィーニスの倒し方。
それは、アイツをダンジョンの奥まで引きずり込んで、ダンジョンをぶっ壊して、ダンジョンの中に閉じ込めるという自滅戦法。さらに、異能と言う概念を無くして、フィーニスの能力を無効化するというアプローチを予定していた。
奈落に引きずり込んで、出てこないようにする道連れ戦法。
「しかし、それは多分出来ない」
狂乱者曰く、ダンジョンは壊せない。
アイツが虚偽を言ってる可能性……
「いや、それはない。あれは真実だ」
確証はない。証拠もない。
フィーリングでしかないが恐らく嘘ではない。
そんな予感がある。
ゲームでのフィーニスの倒し方……
意味不明かもしれんが。
物語内で倒せないから3次元で倒す事が推奨されていた。
例えば―――
通常2次元のキャラクターは3次元に干渉出来ない。当たり前すぎる話だが、漫画やゲームの中でどれほど狂気的な殺人鬼が出てきても、3次元に居る読者やゲームプレイヤーを実際に殺しに来る事は出来ない。
それは次元の壁が存在しているからだ。
あくまで『物語内のルール』に囚われた存在。ほぼ全ての物語内のキャラクターには見えない『物語内のルール』に縛られている。それが絶対的な防御となっている。
さて、狂乱者やフィーニスはその壁を半分乗り越えた存在。
狂乱者は『物語の構造の支配者』。
フィーニスは『物語の終止符』、概念としては物語の『.』そのものだ。
終末の騎士は、その特異性から文字通り別次元の脅威度を誇る。
作中最強とされた狂乱者。
『物語の終わり』そのもののフィーニス。
通常、『物語内』での強敵は、力の絶望度や脅威度が示唆され、解決策を模索し、修行などの戦闘準備を整え、戦闘を開始、攻略の手順を踏む。
例えば、相手が強いなら自身のステータスやレベルを上げるとか。『事象を改変』や『時間を操る』無敵に近い敵なら『毒』や『飢餓』の搦め手で倒すとか。無限に成長するならば、成長前に倒すとか。俺のように『物語の登場前に無力化する』というメタ的なアプローチが挙げられる。
物語の終わり。
死の象徴であるフィーニス。
コイツは別格だ。
――――そして、ある仮設が浮上する。
フィーニスに関しては『そもそも倒す事を考慮してないのではないか?』とね。
そんな中、遂に発見されたフィーニスの倒し方。
そんなものは、そもそも『ゲーム内』で存在しなかったのだ。
『それが攻略法だった』のだ。
意味不明だろ?
俺も意味がわからなかった。
メガシュバで推奨されたフィーニスの倒し方。
それは―――
ゲームのハードを物理的にぶっ壊す。
メガシュバ制作会社に抗議の鬼電をする。
ゲームデータを消去する。
という、まさに『全てを否定する』戦法だった。
これが唯一の解答として挙げられた。
意味不明だろ?
制作会社の意図。
それは『プレイヤーの手、自らで終止符を打て』というメッセージだった。読んでる本を物理的に破くとか、本を燃やすとか、ゲームのセーブデータを消すとか、ハードをぶっ壊すとか。
そういった3次元的行為そのものを現実の読者やプレイヤーに強要するという悪質な攻略法。
それがフィーニスの攻略法だったのだ。
そもそもの話だ。
メガシュバというゲームは全てのボスキャラが同時に出現しない。つーか、魔人を全員倒すエンディングは存在しない。『一部ボスを倒して終わり』のマルチエンドありのギャルゲー。
終末の騎士が出現するルートもあるし。
そもそも出現しないエンディングも山のようにある。
どのルートも『物語が抱える本当の意味での問題を根本的に解決せず終わる』というエンディングしかなかった。そして……フィーニスはその特異性から出現が確定した瞬間『そのルートは詰みが確定する』。
これがよりややこしくしている。
フィーニスは確かに存在しており、現実となったこの世界では確実に顕現する。狂乱者も『死の騎士を超えられる』と発言している事から、突破方法はある。
「何より、この世界に確実に居る」
つまり俺が転生した時点からこの世界は『終止符』を倒せ、と暗に出題され続けた訳だ。
その上でのダンジョン爆破と異能の無効化だった訳だが……
それ以外の選択肢。
『物語の枠組みそのものを超える』試み。
前世の俺が死ぬ前。
ネットの考察勢が考えていた試み。
俺はそれを知っている。
恐らく前世のプレイヤーで試した者は居ない。
条件をクリア出来ているプレイヤーが少なすぎた。
これには、夏イベ産の『オルバースのパラドクス』が必要だったから。そして何より、メガシュバというゲームの構造的に不可能であったから。
これは俺一人では不可能。
だが、現実となったこの世界ではアプローチが可能。
「我思う、ゆえに我あり……か」
つまりこれが答えであり攻略法。
当初のダンジョン爆破や異能封印とは異なるアプローチ。メタ構造を知る『この世界で唯一のプレイヤー』であり、『自然科学の申し子』である俺には、フィーニスの攻略法が1つだけ思い浮かんでいた。




