天才詐欺師『趣味スノボーってぜぇって嘘じゃん。それ女受け狙ってるゴミしか居ないからな』
久々に学園に来ると。
なんやかんや小町がごちゃごちゃ言ってきた。
訓練場を出て、昼飯を取る場所を探していると―――
見覚えのあるゴミ屑共の背中が見えた。
ニクブとガリノである。
「わりぃ。じゃあな。俺アイツらと用があったんだわ」
「ちょ、ちょっと先輩。どこに」
小町の声を背中に。
「これはありがたく貰っとくわ」
俺は小町が作って来た弁当を手に持ち。
ゴミ屑共と飯を食う事にした。
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俺はニクブ、ガリノの2人に声を掛け。
久々に会話しながら飯を食う事になった。
学園のテラスの一席にて―――
「モテ男の天内にはわからんかもしれんが」
ニクブがそんな事を言ってきたのだ。
「随分棘があるな」
「フンっ。マリア女史とお付き合いしているのだろう。ふざけやがって」
あ~。その設定まだ生きてたんだ。
この学園で否定する前に、過去に行き、貧者戦に入り、ガリアに行くという弾丸スケジュールだったのだ。もはや過去の事過ぎて忘れてたわ。
「あれは勘違いだ。そんな訳ないだろう?」
「なんだと?」
「よく考えてみろニクブよ。庶民の俺が、貴族と釣り合う訳ないだろう?」
ニクブは俺の顔をまじまじと見ると。
「た、確かにそうだな。天内のような貧乏人顔には似合わなんな」
「だから言っただろ。ニクブよ。単なる噂だと。こんな鼻の下が伸びきったアホ面に限ってそんな訳がないと」
「そうそう」
俺は我慢しながら、笑顔を浮かべて肯定した。
こいつら好き勝手言いやがる。
俺は目にも止まらぬ速さでこいつらの飲み物に下剤を仕込んだ。一日はトイレの中で神に祈る事になる強烈なやつだ。多分明後日10キロぐらい痩せていると思う。
「そうだな。こんな金の事しか考えていない、卑しい男にマリア女史が騙される訳はないか。あれはやはり噂に過ぎなかったか」
「そうそう」
俺は笑顔で肯定し続ける。
「天内よ。ニクブは最近恋愛事に敏感なのさ」
ガリノは合いの手を入れてくる。
「どういう事だ?」
「こんな根も葉もない噂を信じてるのには訳があってな。コイツは最近マッチングアプリを始めたんだ」
「なんだと?」
「ニックネームは『肉まん』。ニクブのプロフィール写真を見るか?」
ガリノは俺にスマホの画面を見せてきた。
そこに映るのは――――
目は大きく光輝いている。
身体は細マッチョ。
艶のあるストレートヘアー。
どこぞの事務所のイケメンである。
「だれ?」
俺は顔を上げ、ホンモノのニクブの顔を見る。
「俺だが?」
ニクブはそんな事をさも平然と言い放つ。
ホンモノのニクブ……
死んだ魚のような眼。
身体は100キロを超えるデブ。
チリチリのライターで焦がしたような髪の毛。
もはや詐欺師である。
真逆だ。クッソ加工されたニクブの写真の数々がそこにはあった。
「嘘じゃん」
「嘘ではない。真実がここにある」
「あっそ」
俺は軽く流し、ニクブのプロフィールに目を通す。
「なになに。身長185」
「そうだ。あっているだろう?」
「身長だけだろ」
「フンッ」
鼻を鳴らすニクブ。
「え~っと。趣味はスノボー。休日は外に出て遊ぶタイプでスポーツ万能。おまけに、お金持ちの御曹司。現在の仕事はモデル兼ベンチャー企業のCEO……嘘じゃん。お前は違法アダルトサイト運営してるだけじゃん」
「嘘ではない。願望を書いてあるだけだ。そうなりたい、というプロフィールなのだ。(願望)と書いてあるだろ?」
プロフィールの下の方に。
コピーライト表記の『©』が書いてあった。
いや、詐欺じゃん。
「それに、趣味スノボーって……冬季シーズンで手間も時間もかかるモノを趣味って言い張るのはムリがあるだろう。そんな奴は女受けを考慮したゴミしか居ないと思うが?」
「なんだと? そうなのか?」
「そうそう。こういうのはな。趣味は芸術鑑賞にしとくんだよ」
「なぜだ。俺は芸術はとんとわからんぞ」
「いいか。芸術に疎くてもいい。ようは相手の心理を読み解け」
「どういう意味だ?」
「まず、音楽や絵画、詩でも小説、漫画でもなんでもいいが、芸術と言う抽象的なものにして一個に名言はするな」
「なぜだ?」
「相手から質問をさせるよう誘導する為だ」
「ほう。詳しく聞かせろ」
ニクブは身を乗り出す。
「例えば、抽象的なモノにしておくと、相手から『芸術鑑賞って具体的にどのようなモノを鑑賞するんですか?』という質問が来る可能性が大いにある」
「質問をコントロールするだと!?」
「そうだ。その為に敢えて、未知の領域を残しておけ。ミステリアスな要素は必須なのだ」
「意図的に質問を引き出させるのか。なるほどなぁ~」
「そう。そして、ここからが重要だ」
「な、なんだ!? 天才詐欺師:天内!」
『俺は詐欺師ではないが……』と、前置きし。
「名言しない事によってインドアな趣味の相手に芸術の属性を合わせる事ができるのだ」
「ほう」
隣のガリノも俺の言葉をメモし出していた。
「例えば、相手が音楽好きなら、音楽好きとオウム返しする事が出来る。人間は同族に親近感を湧くという研究報告があるらしいのだ」
「会話の糸口を想定し、策に嵌める訳か。やはり天内。お前は天才詐欺師だ」
「あ、天内。お前。やはり頭がいいのか? 馬鹿だと思っていたが」
ガリノが驚いている。
「初歩的な営業テクだ。考えなしにモノを喋るな。全ては勝負を始める前にゲームセットしているのだ」
―――と、俺は訳のわからんアドバイスをしてしまった。
「ちなみに俺は『もやし』としてやっている」
「ガリノ。お前もやっているのか!?」
「当たり前だ。ちなみに天才詐欺師の天内。俺のプロフィールの修正も頼む」
と、俺の講釈を述べる飯時となった。
「ちなみにあくまでお前らに忠告だが」
と、俺はニクブとガリノに声を掛けた。
「どうした?」
「マッチングアプリの女など、生け簀の中で死にかけの魚しかおらんぞ」
「天内。お前は、中々に辛辣だな」
ニクブは眉をひそめる。
「事実を言ったまでだ。外部で需給を自己完結できなかった死にかけの魚。大海の負け犬。それがマチアプ女」
「天内よ。お前。やっぱり口が悪い。悪すぎる! 一体どんな教育を受けてきたらここまで口が悪くなるんだ!!」
「なんとでもいえ。事実は全て残酷なモノだ。直視しろ闇を!」
「な、どういう意味だ!?」
「生け簀で死にかけのマチアプ女。果たしてこの写真はどこまで真実なのかな? 目元なんて全部一緒じゃねーか」
ガリノは思い出すように。
「そりゃあ。あれだろ? アイ何とかだろ?」
「ああ。そうだ。目元を大きくする擬態アイテム。馬鹿の一つ覚えみたいな小賢しい戦法だ」
「辛辣だなぁ。天内よ」
「何とでも言え。出会いがないという言い訳。実に下らん」
「お前は、中々の人数を敵に回す事になるぞ」
「よく考えてみろ。そこそこのルックス。そこそこ性格の良い奴。それらを周りが放って置く訳ないだろう?」
「「確かになぁ」」
ニクブもガリノも腕組して唸った。
「これなんて見てみろ。あからさまに上から目線のプロフィールだ」
適当なマチアプ女のプロフィールを見せた。
「た、確かに……」
「な~にが『男は奢る方』だ。金を男が支払うのが当然の文化をなんとかしろ!!!」
「一段と熱を帯び始めたぞ」
「ゴミの癖に一丁前に意見しやがって。金に卑しく群がるハエ共め!!!」
と、俺は散々こき下ろした。
「「いや。それはお前だろ」」
ニクブとガリノはハモる。
「俺の金は俺の物! お前の金も俺の物!」
俺は手を天に掲げ、万札を掴むようなポーズを取る。
ニクブとガリノは。
「後半は強盗だな」「窃盗団の言い訳みたいだ」




