序章 ファイナル・ラウンド
短いです。
/3人称視点/
―――ガリアの首都は、かつての美しさが嘘のように荒れ果てていた。
夜風が廃墟の街を虚ろに吹き抜け、静寂と荒廃が影のように立ちこめる。美しかった石畳の道も、街の中心に威容を誇っていた聖堂も、無残に破壊されて瓦礫の山と化している。そこかしこに崩れ落ちた建物が転がり、まるで町全体が死の眠りについているかのようだった。
先に天内が帰国した後。
風音の一行はガリアに残り、内乱を鎮めた英雄として一時の栄誉に浴していた。失踪した皇帝に代わり、平民代表の護民官からの表敬とともに、彼らへの感謝の意がささやかな晩餐で示されたのだ。
魔人亡き今、残るは災害としての終末の騎士しか居ない。風音らを執拗に奇襲する刺客を差し向けていた貧者は居ない……。
にも関わらず―――
闇夜に剣閃が舞う。
火花が散る。
風音は鋭い反射神経で、その奇襲の一撃をかろうじてかわし、大きく後方に跳ぶ。
「なんだ!?」
崩壊した街の一角にて、剣を抜いて身構える風音。
暗闇に響くその声には、まだ緊張が色濃く漂っていた。
「まだ、魔物が残っていたようだ」
聖剣は邪悪な気配を感じ取り風音に語り掛ける。『魔物』特有の気配を感じ取ったのだ。
「……」
風音は剣を構え、息を整えた。
視線を闇に潜む気配へと鋭く向ける。
すると、その気配は瞬く間に増大し、取り囲むように10、20、30……と、無数の影が夜の帳から浮かび上がってきた。
それは、かつて相対したあの恐るべき存在と同じ気配――。
「これは、時空の幻獣の……能力」
プルガシオンの声がかすかに震える。
深淵の獣:時空の幻獣。
1000年前―――
勇者カノンの前に立ちはだかった超級の魔物。
物量特化型の魔物。個としての戦力は戦術級程度であるが、その真髄は分身能力にある。多重次元化身能力を持つそれは、戦場に複数の分身を作り出す。
さながらそれは無限に増殖する悪夢。
薄暗闇の中―――
雲間に月光が差し込むと、影の輪郭が浮かび上がる。
「お、お前は……」
風音のサポートに回る聖剣は声を失った。
「どうした?」
突如、サポートが入らなくなった風音は彼女に語り掛ける。
「アレックス……なぜ、お前がこの時代に居る? お前は……死んだはずだろう?」
彼女の声音に驚愕が滲んでいた。
聖剣……
大魔道師ルミナ・レディアント・プルガシオンの在りし日の仲間の1人。
時空の幻獣の能力を扱う剣聖アレックスが風音の前に立ちはだかっていた。




