図太くないとヒロインには選ばれない
昨夜。香乃の奴が、なんやかんや言ってた。
まぁそれはいい。
どうやら、おセンチになりたい時期なのだろう。
生理なのか、更年期障害なのか。
はたまたホルモンバランスが崩れているのか。
女の情緒はわからない。
考えても無駄なのだ。
なのでデータに頼る。
女性のカラダとココロの健康を管理するアプリ『ロナロナ』を起動し、昨日の日付で『香乃おセンチ』と書き込んでおいた。ちなみに俺はキモくない。そんな悲しい事を言わないで欲しい。
ニクブとガリノにこの事を話した事もある。
本気でドン引きされた。
俺は、ただ情緒をメモしてるだけなのだ!
誰に言い訳してるのかわからないが……
データサイエンティスト分析官俺は入念なる男。データは嘘を吐かないのだ。
「まぁ……『肩叩き券』をあげたら喜んでたし。見た目によらず、おばあちゃんなのかもなぁ」
おセンチになった香乃を励ます為に俺は肩叩き券をプレゼントした。金がなかった俺は、チラシの裏に適当に「肩叩き券」と殴り書きし、香乃に渡してみたのだ。予想以上の反応で、飛び跳ねるくらい喜んでいた。
「あいつ一体いくつなんだ?」
疑念が増したが、今、俺は考えねばならぬ事は多い。
フィーニス探索、というのもあるが……
俺は教務課に用があるのだ。
ヘッジメイズ生として出場した親善試合のレポートを提出せねばならないのだ。
「なんだこれ?」
久々に学校に来てみたら、学校の雰囲気がまた凄い事になっていた。TDRの馬鹿共がさらに幅を利かせているようなのだ。毎回、久々に学校に来ると様相が変わっているのだ。校舎の衣替えが早すぎるのだ。
前回は、世紀末のニューヨーカーが闊歩する荒れた学校になっていた。今は……依然と同じ整然とした学校になっているが。
所々に『和』を感じるのだ。
いつの間にか枯山水庭園が出来てるし。
白鞘の日本刀が壁に飾ってある。
灯篭が並ぶ場所もある。
定礎のプレートには『TDR寄贈』の文字が光っていた。
「なんか……極道の事務所みたいな雰囲気だな」
俺は知らんぷりした。怖いのだ。
「あ! ようやく来ましたね! 先輩!」
振り向くと、ちょうど2年生校舎の校門前で小町が手を振りながら駆け寄ってきた。
「まぁ~だ。なんか用あんの?」
「ありますよ! ガリアの件、詳しく聞きたいんですよ」
「あぁ~。なーほーね」
そういや、小町も千秋も、『ガリアに潜む悪党をぶっ飛ばしに行く。助けてくれ』と頭を下げたら、意外な事に二つ返事で了承してくれたのだ。特に理由も聞かずにだ。千秋の奴なんて『いいよ』だけだったし、小町の奴も『お尋ね者になったら責任取って下さい』の一言だけだった。
ほんと、肝が据わってる奴らだ。
「その前にですよ! ちょっと寄り道をしたいんです!」
「寄り道?」
「そうです! 今、学園に超有名占い師が来てるらしいんですよ!」
「占い師ぃ?」
「そうです。一緒に行きませんか?」
「お前……」
「なんですか?」
ガリアで命がけの戦闘をしたばかりだってのに、どこか呑気なこの神経。ヒロインになるにはこうした図太さも必要なんだろうか。やはり、メガシュバヒロインは特殊な人材が集まっているのかもしれない。
俺は小町の肩を叩き。
「まぁ。なんだ。霊感商法には気を付けろよ。今、巷で詐欺問題になってるからな」
「え? なんの話ですか?」
「新聞を読め。新聞を」
・
・
・
占い。
霊感商法という名の詐欺まがいのビジネス。
実に悪質で恐ろしい悪徳商法の権化。
昨今、世間を賑わせているあの手この手の詐欺行為の温床。人の弱みに付け入り人心を惑わす世迷言の数々。占い師にはペテン師しか居ないのだ。
絶対に許さんぞ俺は!
――――――と、考えてはいたが。
結局なんだかんだ言いくるめられ。
小町に学園に来ているという占い師の元へ連れて行かれた。
学園の一室に連れられると、薄暗く怪しい香が漂っていた。どうやらここが占い師のいる部屋らしい。テーブル越しに座る占い師のババアが鋭い眼光で俺を睨む。
すると、言葉を発する前に話し始めた。
「言わなくても構いません。全てわかりました」
何がだよ。質問すらしてねぇぞ。
「まだ、何も言ってませんが……」
俺の顔を見るなり。
「貴方。お金が好きですね?」
隣の小町が俺の袖を引っ張るなり、興奮して。
「す、凄い! 当たってますよ! はぁ~。これは噂通りですね!」
「金が好きなんて誰だってそうだろ。一般的すぎるわ」
「そんな事無いですよ! それは先輩だけです!」
「そうかなぁ?」
かなり広範囲に好きな奴は多いと思うが。
「他に占って欲しい事はありますかな?」
「ないっすね」
「いいから、いいから。先輩! せっかくなんで占って貰いましょうよ。私と先輩の相性とか!」
俺はそれを遮り。
「じゃ、じゃあ、俺の天職ってなんすか? どうすれば金を稼げますかね?」
少し考えるような素振りを見せたあと、ババアは静かに言った。
「天職は詐欺師」
小町は目を丸くし、椅子から崩れ落ちそうになりながら。
「す、凄い。当たってる!? これは一層信憑性が増しました!」
「『凄い! 当たってる!』感嘆文。じゃねーんだよ。詐欺師って職業じゃねーじゃん」
「貴方は生粋の詐欺師に向いてます。天性の詐欺の才能があります。詐欺詐欺の実を食った詐欺人間です」
このババア、俺と初対面にも関わらず、とんでもねぇ悪口言い出したぞ。
「先輩は悪口と詭弁を煮詰めて出てきた、ゴミ太郎ですからね!」
「桃から生まれた桃太郎みたいに言うなよ。お前……」
「口先だけは回る天性の詐欺師じゃないですか。当たってますよ! これは!」
「お前。馬鹿にしてるよな? それも凄い勢いで」
「そんな訳ないじゃないですか。尊敬『も』してます」
「『も』、ってなんだよ。助詞がおかしいんだよ。お前は」
小町は身を乗り出すと。
「じゃ、じゃあ、次は私です! お婆さん。私とこの人の相性はどうでしょう!?」
するとババアはまた考える素振りを見せて一言。
「グッド」
「ひょえぇぇぇ!? 相性すごく良いってことですよね、おばあさん!」
小町はまたも椅子から崩れ落ちそうになる。
「グッドってなんだよ。曖昧なんだよなぁ」
「おばあさん。じゃ、じゃあ私の将来……」
小町は一瞬俺の方を向き口ごもる。
すると、ババアはまた静かに答えた。
「ベリーグッド!」
「ひゃぁァァァァ!? やはりそうでしたか!」
「お前。乗せられてるからな」
「あ~~~~。やっぱそうなんですね! はぁ~。もうマジ最悪なんですけど!」
嬉々とした小町の言動と態度は、まるで真逆であった。
「単語で答えてるだけじゃねーか。なにも解答になってねぇぞ」
「もう最悪だけど。ホントに仕方ないですねぇ」
「なにが?」
「ち、ちなみにお婆さん! 私……その今後……上手く行きますか?」
「目的語ないけど」
「グッド。ベリーグッド! 時期は考えるのじゃ」
「そ、そうなんですか!? やはりそう来ましたか。今ではないと?」
「イエス」
「ほうほう。タイミングは重要という事ですね? ありがとうございます!」
こいつ、すっかりババアのペースに乗せられてる。
目の前のクソババアは詐欺師だ。
後で消費者センターに通報しておこう。
俺は面倒になり、席を立った。
「付き合いきれねぇよ。俺は先帰るからな」
「ちょ、ちょっと。来たばっかじゃないですか先輩」
「俺は帰るの」
ババアは席を立った俺を見るなり低く言った。
「青年よ」
「なんすか?」
「おぬしの運命……長くはない」
「はぁ? どういう意味っすか?」
「バッド……という事じゃ」
「はぁ……そっすか」




