王道ファンタジー
/3人称視点/
――― これは、未来人:天内傑が過去に飛ばされる前の物語である。
1000年前―――
その冒険の旅路を語るには遠すぎる物語。
神の視座を持たぬ勇者カノンの旅路は、幾多の困難と仲間の喪失がつきまとう過酷なものだった。その旅の目的は、迫り来る世界の終末を阻止すること。
だが、その道のりは予想を超えた苦難に満ちていた。
文明が未発達なこの時代。
広大な大地には未開の荒野や、自然の猛威が数多く存在する。
高山や深い森林、渓谷、そして足を踏み入れれば命を脅かすような危険地帯が広がり、文明の拠点間を繋ぐ道は未整備。
行く手には、数多の悪路が立ちはだかり、未知の敵や災害が潜んでいた。時折、山を覆う霧や暴風雨が視界を奪い、進むべき道を見失うこともあれば、砂漠の熱波や凍てつく氷原が彼らの進行を阻んだ。
長く厳しい旅路は、彼らに多くの犠牲と試練を強いた。
果てしない戦い。
命を賭けた戦場で、仲間たちは倒れ。幾度となく別れが訪れる。裏切りにより同士が刃を交え、疑心暗鬼に陥ることもあった。
信頼が脆く崩れる瞬間を、香乃は何度も目の当たりにした。
戦いは多くの時間を要する事になる。
その期間は10年に及んだ。
倒すべき敵対者は世界各地に潜む。
強大な力を持つ魔人:マニアクス。
彼らの中には自らを魔王と僭称する者まで居た。
どれもが強敵。
人心を巧みに操り、彼らの支配下に置いた民衆を駆使して国を築き上げるほどの知略を備えている者も居た。
だが、その中でも、最も残酷で苛烈な戦いの前線に最後まで残り続けた者たちがいた。
それが―――
香乃……勇者カノンと不屈の仲間達である。
聖女ユラ:癒しの光を司り、戦場で仲間の命を繋ぎ止める者。彼女の手から放たれる聖なる力は、数々の窮地を救い、その慈愛に満ちた微笑みは希望を絶やさなかった。
賢者マルファ:常に冷静であり、策略をもって勝利を手繰り寄せる彼の存在は、戦いの全体を支配する知恵そのものであった。
大魔道師ルミナ:戦略級の魔術師。彼女の魔力は天変地異を引き起こすかのごとく、敵軍を壊滅させ、戦場そのものを覆す事すらあった。
召喚士クロウリー:異界の獣や幻獣を呼び出し、敵を蹴散らす戦士。心優しき彼が放つ召喚獣は、戦況を変える事すらあった。
しかし、彼らが初めから強かった訳じゃない。
10年という長い歳月を経て、数えきれないほどの戦いや喪失を乗り越え、その過酷な経験が彼らを強大な戦士へと鍛え上げた。互いの絆はその間に鋼のように強固なものとなり、彼らはそれぞれが一騎当千の力を持つ存在へと変貌していった。
後に仲間になる者にも英傑揃い。
彼らの旅路の途中で新たに加わった英傑達は、その後方を守り、さらに強力な戦力を補強することになる。
後方には―――
アレックス・ホムラ:ネイガーにより鍛えられた彼の一振りは風のごとく速く、敵を一閃で切り伏せる。その強さは戦場で『剣聖』として恐れられた。
ギーゼラ・アラゴン卿:騎兵術においては右に出る者のいない天才。彼が率いる騎兵隊は戦場を一瞬で駆け抜け、敵を蹂躙する。その戦術眼と統率力はまさに『無双』と恐れられるであった。
ムジナ・テンマ:神速の槍を振るう女騎士。彼女の槍は稲妻の如き速さで敵を貫き、その美しさと猛々しさが同時に備わった姿は、戦場では『神槍の姫』とさえ称えられた。
フィリオ・グレイ:エルフであり、天候を操る弓使い。彼の矢は風と雷を従え、遠距離から確実に敵を射抜く。彼が放つ矢の嵐は戦場を飲み込み、その後晴れ渡る空を作り出す事から『蒼穹』と呼ばれた。
イガリ・マサカ:獣人の盾使いで、鉄壁の守護者。彼の巨大な盾は、いかなる攻撃も弾き返し、味方を守り抜く。『不動』とさえ称えられた彼の立つ場所は、戦場における絶対的な守りとして尊敬される。
そんな彼ら英傑がカノン達英雄の影に控える。
こうして、勇者カノンとその仲間達は数々の戦場を駆け抜け、各地の魔人や敵国の王達と対峙した。
旅路の果てに待つのは、世界の終末を止める戦い。
彼らが費やした10年もの歳月。
血と汗と涙を流し続けた。
それでもなお、彼らは倒れることなく、歩み続けた。
そして―――
遂に終末の騎士:根絶者が顕現する。
旅の苦楽を覆すかのように、絶望の象徴が全てを混沌に導いた。
その猛威は魔人を遥かに凌駕するほどであった。
カノンの仲間は次々と命を落とす事になる。
次第に、心は荒み。
逃げ出す者も出てくる。
仲間内での亀裂が引き起こる。
絶望に打ちひしがれ。
カノンさえ心が折れそうになったその時。
現れたのだ。最後の希望。
――― 極光が ―――




