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※この男は何度も世界を救ってます。


/3人称視点/


 ――深夜の空港ロビー――

 

 天内やフィリスよりも少しだけ遅くヒノモトに到着した千秋は大きく伸びをする。


「う~ん。色々とあった」

 背筋が伸び、心地よい音が鳴る。

 彼女はしばらく動かなかった身体をほぐしていた。


「長かったです。はぁ……」

 隣にいる小町も深いため息を吐く。


 千秋は少し気になり、小町に尋ねる。

「どうしたの疲れちゃった?」

 千秋は小町の身体を気遣った。


「いえ、逃亡者に、ならなかったので。逃亡者生活……始まりませんでした」


「え? 逃亡者生活? 何の話?」

 千秋は驚いた顔で小町を見つめるが、小町はさらに深くため息をつく。


「はぁ……私の赤ちゃん。肉欲と輝かしい未来」


 小町の顔は期待した逃亡者生活が始まらず残念そうな顔をした。


「赤ちゃん? 肉欲? どういう意味?」

 千秋は急に話の方向が分からなくなり、ぎょっとして質問を重ねる。

 

 ため息混じりに。

「いえ。私の人生プランの話です」

 と淡々と答えた。


「そ、そう。またなんかあるようなら相談乗るからね」


 小町は不満そうな顔をして。

「彩羽先輩では……」

 小町はジト目になり千秋の顔を見つめる。


 彼女は今もなお、天内が千秋の事を好きだと勘違いしているのだ。


「なにさ」

 千秋は困惑した表情。


「いえ。お手を煩わせていけません。大した事ではないので」


「そ、そう? 気にしなくてもいいのに」


 千秋は少し気まずそうに言葉を返すが、小町は遠い目をしてつぶやいた。


「気にしないで下さい。はぁ……逃亡者生活したかったなぁ」

 

「そ、そっか。まぁ。うん。わかったよ。話したくなったら言ってね」

 千秋は物思いに耽る小町に何も言えなくった。 


 ちなみに、この場に居ないマリアは、一足先に帰国した天内を追いかけるようにプライベートジェットを使い、直接帰宅したのであった。またしても、すれ違いが発生していた。




 すると―――

 突然、空港のロビーに響く声が静寂を破った。




「ん? なんでしょう?」

 小町は空想から戻って来る。


「さぁ?」


「あ、あれは」


「ああ。頭が痛くなってきた」


 オノゴロ行きの空港のロビーにて―――

 (やから)と美女が言い合いをしていた。

 幾人かの通行人が遠目から眺めていた。

 千秋と小町の視線の先には、天内とフィリスの2人。


「バクバク、バクバク食いやがって!」

 天内が怒鳴り声を上げ、フィリスに詰め寄っていた。


 フィリスは悲しそうな顔をする。

「す、すまない。そんなに怒らないでくれ」


「い~や許さないね」


「す、すまない。本当に」


「謝って済むならポリ公は要らねぇんだよ」


「うぅ」

 フィリスの萎むような声音であった。


「なんであんなに食ったんだ。言ってみろ! その小さい口で分かりやすく説明してみろ」


 フィリスは困った顔をしてうつむいた。

 続けて、弁明する。

「あ、あんなに高価だとは思わなかったんだ。値段が書いてないから食べ放題だと思ったのだ」


「ああいう店は値段を書かねぇんだよ!」


「そ、そうなのか……世間知らずで済まない」


「だから言ったよなぁ! 後悔するなよって!」


 彼女は申し訳なさそうに。

「わ、私は、もう少し現実的な安価な値段だと思っていたのだ……」


「お前はお貴族様だろう!」


「い、いや。祖国はそこまで裕福ではない。物価だってヒノモトの10分の1だ。私だって肩書だけなのだ。それに私もそこまで自由に金銭を使えない」


「言い訳は聞きたくないね」


「ま。待て。お前だって、あんなに高価な店を予約したのは問題じゃないのか!?」

 

 フィリスがそう反撃すると、天内はぐっと言葉に詰まる。


(ぐ、た、確かに)

「…………それは俺が、お前に喜んで貰えるならって……思ったからだよ!」


「え?」

 フィリスは目を見開いて天内を見つめ。

 時が止まったように表情を固めた。

「そ、そうなのか?」


「当たり前だろう!」


「そ、そうか。そうだな。お前の気持ちも考えていなかった。私は自分の事ばかりだ」


「そうだな。そう。お前は自分の事しか考えてないんだよ」


「うぅ」

 フィリスはしおれていくように、さらに小さくなる。


「あとな。ご馳走してくれるって言ったのはそっちだ。違うか?」


「そ、それはそうだが……」


「俺が全部立て替えたんだぞ」


「う、うぅ……それは本当にすまないと……思っている……」

 

 フィリスは人差し指を突き合わせて大人しくなる。


「俺の剣1本を質屋に入れたんだぞ。どうしてくれる? 返せよ!」


 フィリスは涙目で顔を赤らめ、声を震わせながら。

「あんな大金、すぐに用意出来ない」

 どんどん(しぼ)んでいくフィリス。


「じゃあ。どうすんだよ!」


「それはその……だな。学食の食券をだな……」


「当たり前だ」


「す、すまない。期間を延ばそう。半年分は用意する」


「足りないだろう」


「そ、そうだな。1年分。それと365日朝昼晩用意する。どうだ?」


「『どうだ?』じゃない。問題は俺の剣なんだよ。理解してるか?」


「うぅ……どうすれば」


「簡単だ。今すぐ50万払えよ」


「そ、それはムリだ」


「お前が40万分バクバク食いやがったんだぞ!」


「うぅ。本当にすまない。しかし、あんな高価な店をだな。予約するとは思わないじゃないか……」


「それとな。俺はお前を許してないんだぞ」


「え?」


「雪山に俺の武器を放置した」


「あ」


「『あ』、じゃない。責任は取らせるからな」


「責任……」


「そうだ。あの後、回収するの大変だったんだぞ」


「そ、そうなのか」


「そうだ。だから、これはもう身体で払ってもらうしかないな」


 天内はそう言い放つ。


 フィリスは自分の身体を抱きしめ、顔をさらに赤らめた。


「か、身体だと!?」

 

 フィリスの顔がますます赤くなり、天内を見つめる。


 天内は軽く頷き、にやりと笑うと。

「そうだ。良い考えがある」


「うぅ……」

 涙目になるフィリスは顔を赤らめた。 


「世の中にはパパ活と言う脱税システムがある」


 天内は邪悪な目をすると。

 途端、天内の頭に強烈な一撃が炸裂した。


「あた!?」


「馬鹿な事ばかり言って!」

 小町が鋭くツッコミを入れる。

 

 天内は頭を押さえつつ振り返り、不満げに口を開いた。


「お、お前ら。なぜここに」


 彼の目の前に千秋と小町の2人が立っていたのだ。


 小町が前に出て、毅然とした態度で言い放つ。

「フィリス先輩。こんな男に謝る必要はありません」


「い、いや。しかし私にも非が」

 フィリスは弱々しく反論する。


「パパ活を推奨する高校生なんて初めて見たよ」

 千秋は肩をすくめた。


 小町は矢継ぎ早に。

「どうせ。こいつの悪巧みに付き合わされているだけですよ。術中に嵌ってはいけません。この男はとことん強欲なだけです」


 天内は鼻を鳴らすと。

「ふん。強欲とは人聞きの悪い。俺は楽に稼げるビジネスを提案したにすぎん。これは提案営業だ」


 小町は天内を鋭く睨みつけた。

「減らず口を。先輩はもっとこう普通のですね! 普通の高校生らしくできないんですか!?」


「どういう意味だよ」


「こう。世の中に溢れている高校生を見回してみて下さい! 勉強とか部活とかしてますよね」


「ふむ。実に、つまらなそうだと思う。金がなさそうで大変そうだ」


「やれやれ」

 千秋は肩をすくめる。


「先輩は毎日お金の事ばかり。果ては学友にパパ活を推奨するなんて高校生の考える事ではありません」


「金を返さんコイツが悪い」


「うぅ」

 フィリスは何も言い返せず萎んでいく。


「こう。勉強とか、部活とか、バイトの事とか……あとは恋愛とか。そういう会話は出来ないんですか!?」


「勉強はした」


 千秋は困ったように笑いながら。

「確かに、傑くんは筆記ほぼ満点だもんね……」


「え!? そ、そうなんですか」

 小町は心底驚いた顔をする。


「た、確かに、コイツは既に勉学という面で学ぶ部分はないかもな」

 そこに関してフィリスも同調した。


「そ、そんなに優秀なんですか!?」


「そうだね」「そうだな」

 千秋とフィリスは同じ反応を示す。 


「じゃ、じゃあ。部活はどうなんですか!? 怪しい部活を作ってますよね」


「園芸部だが」


「普通だ……ね」

 千秋もそれに同調した。


「コイツはとても優秀な農作業主になるだろう。それは私が保証しよう」

 フィリスも合いの手を入れる。


 小町はフィリスを振り返って叫ぶ。

「フィリス先輩はどっちの味方なんですか!?」


「あくまで客観的な意見だよ」


「だ、そうだが?」

 天内は顎をしゃくり、小町を見下ろす。


「ぐぬぬ。じゃ、じゃあ。学校生活はどうなんですか!? おかしいでしょ! 先輩の生活は!」


「行ってないが」

 そう天内は最近学校に登校していないのだ。


「来いよ!」

 小町は激しくツッコんだ。


「正論だね」「正論だな」

 千秋とフィリスはまたも同じ声を揃える。


「こうなんて言うんですか! 先輩は、部活に恋愛、一緒に登下校。ファーストチェーン店で馬鹿話みたいなのしないじゃないですか! お金の話しかしないじゃないですか!」

 

 天内は顔をそむけ、目を泳がせながら。

「ほっとけ」


「先輩は毎回。お金お金お金。そんなの高校生が考えることじゃありませんよ! 普通のビジネスマンでもそんなに詳しくないですよ!」


「この資本主義社会。多角的なビジネス視点が必要なのだ。これだからお子様は」


 小町は『きぃー』と髪の毛を掻きむしる。

「ギャンブルにしたって! 高校生の知識では考えられない程の知識を持っています!」


「ギャンブルは数学」


「屁理屈ばかりこねやがって」

 小町は頭を掻きむしった。


 続けて彼女は呟くように。

「逃亡者生活の先輩はあんなにまともだったのに!! 現実の方がクズじゃねーか。本物の先輩がクズ過ぎる件について!」


「ラノベのタイトル風に俺の悪口を言うんじゃないよ」


 千秋が穏やかに話に割り込んだ。

「まぁ、でも、話は少しだけ聞かせて貰ったけど……冗談でもパパ活はなしだよ、傑くん! そんなの論外!」


「へいへい。ちょっとした冗談じゃん」

 天内はそっぽを向く。


 千秋は(さと)すように。

「無茶な店を要求した傑くんにも非はあるよね?」


「ないね。コイツはご馳走してくれるって言ってた」


「う、そ、そうだな」

 フィリスは困ったように。

 

 小町は目を回しながら。

「なんて。心が狭いんでしょうか。この現実の先輩は。逃亡者の先輩の方が優しかったです」


 千秋は少し真剣な表情で。

「ここはまぁどうだい? 実際、フィリスも沢山食べたのもあるよね?」


「うぅ……そうだな」

 フィリスは困惑した顔で視線をそらした。


「傑くんが高級店を、わざと選ぶのはボクらならわかるんだけど」


「ん?」

 一瞬マウントを取られたフィリスの片方の眉が上がる。


 千秋は続けて。

「フィリスじゃ付き合いが短すぎてわからない。それは仕方のない事なんだ」


 小町も同調する。

「そうですね。先輩の守銭奴ぶりは長い付き合いじゃないとわからないですね」


「ん? 馬鹿にしてるのか?」


 フィリスの声音がワントーン下がる。


 千秋は手を叩いて、こう提案したのだ。

「で、だ。細剣が50万だっけ? せめて半分。25万円はフィリスは責任をもって支払う。傑くんも半分で割り勘って事になるだろ?」


「いや、待てよ。仮に割り勘だとしても、俺は10万円分しか食ってないぞ。コイツは40万円分、1人で食ったんだ」


「うぅ……あまり大きな声で言わないでくれ」

 フィリスは恥ずかしそうに俯き、口を小さくする。


「仮に、ご馳走の件がなくなっても、それはおかしくないか?」


「いいや。傑くん」

 千秋は天内の前に一歩踏み出すと。


「な、なんだよ」


 千秋は天内を制止するように手を挙げた。

「男の子なんだ。それぐらいでグチグチ言うなって事。これでこの話は終わりだ。いいよねフィリス?」


「あ、ああ。時間は掛かるが、なんとかしよう」

 フィリスも折衷案に納得したのか頷く。


「おい。勝手に話をまとめようとするな」


「はぁ~。良かった良かった。学友の1人がパパ活しなくて」

 千秋はそんな言葉は届かないのか、大きく伸びをした。

 

「俺が損しただけなのか」

 ため息をつきながらぼやいた。


 小町は天内の肩を叩きながら。

「そう言う事です。これが因果応報って奴ですよ。そろそろ学びましょうよ。何回目ですか?」


「忘れた」


 






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