私の夢はまだない
/小町視点/
私にとっての転機はいつだったのか。それはもしかしたらあの恩人とも言える変質者の存在かもしれない。
夢はなんだ? と訊かれた時私には答えられなかった。
「私の夢は……まだ……ない」
ない。
「ないなら見つければいい」私はそう思うようになった。
トムは上で待っていると言った。
もしかしたら、あの学園の関係者なのだろうかという淡い期待を込めてこの世界屈指の学園に入学した。
この学園で私は私の夢を見つけようと思う。
ごく一般的なОLになるのか、
研究機関の職員になるのか、
政府の役人になるのか、
ダンジョン攻略を生業にした冒険者になるのか。
それとも主婦になるのか。
私にはわからない。
夢なんて考えた事がなかったから。
だからめっちゃ頑張った。
三か月で奇跡を起こした。
学力偏差値70以上、魔術偏差値70以上はさすがにやりすぎだろと何度突っ込んだか。
元々勉強は得意だったが、それでも入れるかわからなかった。
ギリギリだった。運の要素もあったと思う。
てか、ほとんど高校の内容じゃない! と何度も発狂した。
見たこともない数式や超長文の外国語。よくわからないIQテストのようなものあったし、見たこともない魔術陣の解釈証明や初級魔術の実演。
特に魔術の実演はヤバいと思った。
魔力の才能がない私にとっては1種類の基本魔術も満足に行使できない。
だからチョー頑張った。
入学試験ギリギリに間に合うように一つだけ拙いながら初級魔術を使えるようにした。
寝ずに毎日頑張ったかいがあった。眠気覚ましに噛み続けたガムは、遂に私をガムジャンキーにした。
これを噛んでないといつ寝落ちしてしまってもおかしくない上に落ち着かないのだ。
ドクター。禁ガム療法ってないんですか? ない。なるほど。わかりました。また来ます。
脳内で架空のドクターと会話する癖すら付いてしまった。
合格発表まで神頼みの日々だった。脳内ドクターも応援してくれた。
何度も参拝した。脳内ドクターも参拝してくれた
合格通知を受け取った瞬間、嬉しくて小躍りしてしまった。
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そして遂に入学式前日の今日。私は入寮した。
13ある寮では各々入寮式なるものが執り行われているらしく入学式前の学生同士の歓迎会である。
私の入った寮では先輩方が自己紹介し用意してくれただろう余興を行っていた。
私はこの学園の広大さと生徒の質の高さに口をあんぐりとさせてしまった。
「あら~」
間抜けな声が出る。
天才は居る。そして天才の中の天才もまた居るのだ。
世界の名だたる名門、名家、貴族、王族のみならず、富者、貧者問わずあらゆる才ある者が集まっていた。
王侯貴族はオノゴロに邸宅があるらしく不参加で寮住まいではないらしいが幾人か顔を出していた。
いけ好かない奴も居るし、出身関係なくフランクに接してくれる人も居た。
そのどれもが只者ではないと思えた。
私が居た下界では滅多にお目にかかれないほど力の強い色や獅子のイメージを持つ者が多く居たからだ。
校訓の一つである『才ある者に道は開かれる』を地で行っている。
何より歴代最高と謳われる生徒会長はごく一般的な家庭出身とも聞く。
そのカリスマ、魔術の才能は他に類を見ないとも言われるほどだ。
その生徒会長は「一足早いが、入学おめでとう諸君!」と音頭を取った。
彼女は13寮全てを回っているらしい。実に多忙であるなぁと思った。
マホロ学園の生徒会会長は、今後世界の中心になる人物だ。
その生徒会長様が演説を終えたところで、私はこの学園に本当に入ってよかったと思った。
きっと私にも夢ができるのだと心が躍った。
そしてあの変質者に会えるという変な確信があった。
1部 マホロ編 開始です。
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