光 と 影
硝煙が立ち込める戦場と化した街は、混乱と破壊の跡が広がっていた。
「なんだ?」
遠くからでもわかる。
街中を響く歓声。
まるで勝利への期待感を表す群衆の声が聞こえた。
俺は泥にまみれた道を、高速で駆け抜ける。
雨は小降りとなり。
薄暗い空から降り注ぐ水滴が体を冷やしていたが、その冷たさすら心地よい。
走る抜ける視界の端―――
遠くの高台で杖を天に掲げ、必死に気候を操作しているフィリスの姿が目に入った。彼女の魔法が空に広がり、雲を生み出し、空気が澄んでいく。
フィリスが生み出した雨は町のあちこちでくすぶっていた火事が、次々と鎮火していく。
その様子を見て、俺は口元を緩めた。
「お前も、地味にいい仕事するじゃないか」
すると突然。
地面が激しく震えた。
空を突き刺すような巨大な氷塊。
氷瀑が一瞬で広がり、戦場全体を覆ったのだ。
すぐに、またも大きな歓声が沸き起こった。
「千秋も戦っているのか?」
ここからでは戦況がわからない。
だが、歓声や応援だというのはわかった。
町中に響き渡る断末魔の声。
「どっちなんだ。大丈夫なんだよな?」
俺はその源を求めて駆け出し。
歓声の中心へと向かった。
徐々に声が大きくなる。
そして―――
そこに到着した瞬間。
眼を見開いた。
俺は息を呑んだ。
ゲームのクライマックス。
そのシーンを超えていたからだ。
魔人ボルカー。
その体は今や憎悪と悔しさに歪み、怒りの形相を浮かべていた。
アイツはまだ生きている。
だが、彼を取り囲むのは、国や人種、地位を超えた魔術師と騎士たち。
彼らが一つになり、圧倒的な存在に立ち向かっていた。暴力を象徴する魔人に対して皆で全力で立ち向かっていたのだ。
「行け! 押し込め! 今がチャンスだ!」
「今だ、撃て!」
「アタシだってやれるんだからっ!」
街中に響く声援と歓声が、戦場全体を包み込む。
誰もが叫び、誰もが全力で戦っていたのだ。
魔法が空を裂き、光が交錯する。
剣が振るわれる度に、地面が震える。
騎士たちは仲間を守り、魔術師たちは援護の魔法を次々と放つ。
皆が皆を信じ、支え合いながら、絶望を打ち破ろうとしていた。
その戦場の中心。
そこには、風音が立っていた。
「風音、頑張れ! 全員がついてるぞ!」
「最後の一撃を決めてくれ!」
多くの騎士や魔術師は既に、国境を越え皆が皆味方であったのだ。
彼らはわかっているようであった。
魔人に決定打を与えるのが風音しか居ないと。
その中心で戦う風音の姿は頷いていた。
「やっぱ主人公だなぁ~」
俺は頬を掻いた。
周りから飛び交う応援の声。
仲間たちの期待。
そしてその全ての想いを一身に受けて。
風音は一歩、また一歩と前進する。
俺は、その姿を見てふと笑みを浮かべた。
「なんだよ。俺の出番は、もう……必要なさそうだな」
俺の心は何か誇らしい気持ちで満たされていた。
「主人公してるじゃねーか。さっさと引導を渡してやれ」
俺がそんな感想を述べ。
まるでそれに答えるかのように風音は静かに聖剣を天に掲げた。
その剣先が天を指し……
一瞬、時が止まったように感じた。
「星の……息吹!」
次の瞬間、聖剣から眩い閃光が放たれた。
光の波が戦場を包み込み。
その光はまるで希望の象徴のように、全てを照らし出した。
歓声がさらに高まり、街中に響き渡る。
光の渦の中で、魔人ボルカーが断末魔を上げながら崩れ落ちていく。彼の巨大な体が力を失い、光に飲み込まれていく様子は、まさに圧巻だった。
俺は決定的な瞬間を目の当たりにし。
虚空に向かって。
「お前の負けだ最後の魔人。舐めるなよ、人類を」
そう言ってやった。
俺は確信した。
風音が勝利を掴み、人々は希望を取り戻した。
彼は、この瞬間に全てを賭け、そして勝ち取ったのだ。
外套を翻し、俺は勝利の余韻に浸りながら戦場を後にする。
歓声が今も街中に響き渡っていた。
「さてと……俺は帰るか。あぁ~疲れた」
伸びをしながら、そんな事を呟く。
背中からは風音を讃える声援が、いつまでも続いていた。
カリアティード聖教会編 終わり
1部 マホロ
2部 ヘッジメイズ
3部 聖教会
次が最後の『編』項目です。




