決着
「もう。行くわ」
『もう、終電だから帰るわ』のノリで言った。
俺は狂乱者との戦いの後。
フランから聞いていたのは、セブン・シンズを呼んだとされる召喚士の話だった。しかしその全てを聞き終える前に、俺の回復は完了した。
極光のエネルギーは核撃の影響でほぼ尽きており、現在ただの白銀の甲冑となっていた。自立行動は難しいみたい。
「コイツを頼む」
俺はフランに半身である極光の運搬を頼んだ。
「召喚士の件はよろしいので?」
「今は、先にボルカーを殺る。もしかしたら終わってるかもだが……」
「そうですか」
俺は優先度を重視した。
依然、ボルカーの脅威度の方が高い。
件の召喚士は、あれほどの魔物を召喚したのだ。
グリーンウッドの時も二度目の出現はなかった。
連続召喚は出来ない。
一定のインターバルがあると考えていい。
つまり、今の優先度は低い。
ふと、アホ面の仲間の3人の顔が頭に浮かぶ。
「ああ、そうそう」
ブラックナイトを風呂敷に入れるフランに語り掛ける。
「なんでしょう?」
「ついでに、俺の仲間の回復を頼んでいいか? 近くに居ると思うんだよね。死んでは……」
いないと思う。
あんまり自信ない。
安否を確認しに来たが、短時間で探せそうにない。
「ええ。恐らく問題ないかと。少なくとも、マリア様と穂村様は生存しています。先程、この眼で見ましたもの」
「あっそ。じゃあ、頼むわ」
「かしこまりました」
彼女は深々と頭を下げる。
俺はそれを見届け、再びボルカー戦に舞い戻る。
「マジで、人使い荒いぜ」
疲労と傷は回復したが、狂乱者に気力を削られ過ぎて悪態を吐くしかなかった。
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/3人称視点/
風音と魔人の戦いは佳境に入っていた。
戦場に鳴り響く歓声が、風音の耳に届いた。
彼を称える声が次々と上がる。
「勇者様! 勝利を! 我々に希望を与えてください!」
アメリクスの魔術師が叫ぶ。
「風音! あなたならできる! アンタの力を見せてやれ!」
南朋が叫んだ。
「私たちはあなたと共にあります! 打ち倒してください。絶望を」
システリッサが期待を込めた。
彼の周囲には、戦士達の声援と希望が入り混じる。
極光の騎士が現れた事により、風音に加勢する者が増えたのだ。ガリアとアメリクスの騎士や魔術師たちは、極光の到来に感応し、再び戦意を取り戻した。彼らの胸には、かすかだった希望の光が強烈な輝きとして灯り、周囲に伝播していく。
極光の騎士がもたらした希望の光は、ボルカーが常時放つ威圧を一時的に抑え込んだのだ。ガリアとアメリクスの騎士たちが風音へと一斉に声援を送り、彼らは魔法の詠唱を始める。
彼らの心に、風音という存在が与える希望が一層強まっていく。
「聖剣使い! 頼んだぞ! お前しかいない!」
「我々に新たな未来を見せてくれ!」
その声援に応えるように、風音は静かに頷く。
彼の手に握られた聖剣が一層強烈な光を放ち、彼自身の決意がさらに深まった。
街を包んでいた暴虐の嵐が徐々に静まる。
瓦礫の山や炎の中で、勇士たちの士気が蘇る。
ボルカーは明らかに焦りを見せ、険しい顔に怒りと憎悪が滲む。彼の不死身の体は限界を迎えつつあった。再生の速度が追いつかず、修復すら難しくなる。
その時、風音の聖剣が天を裂くように輝く。
その光の一閃がボルカーに襲い掛かる。
システリッサから流れ込む魔力を駆使し、風音は限界を超えた力で放つ一撃であった。
直撃したボルカーは膝を突きそうになるが―――
最後の悪足搔きとばかりに、魔人の拳に全魔力を込めた。
「おのれ! おのれ! おのれ! お前を倒せずとも、お前の仲間、お前に味方する全てを! 全て道連れにしてくれるわ!」
ボルカーの叫び声が戦場に響く。
その拳に集中する魔力は、まさに地獄の業火を凝縮したかのような恐ろしさを放っていた。
―― 拳が振り下ろされようとする瞬間。
「そんな事はさせない」
風音は冷静に、時空間魔法を発動させる。
その声は落ち着いているが、その中には不屈の決意が宿っていた。
眼を開いた彼は静かに呟く。
「因果返し」
時空を操る究極の防御魔法が発動し、ボルカーの猛攻はまるで最初から存在しなかったかのように虚空へと消える。
時空を隔てる絶対防御の魔法。
『仲間を必ず守る為に』と。
そう願い、覚醒した風音が獲得した時空間魔法であった。
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風音が時空間魔法を発動した。
その瞬間―――
遥か彼方から、その光景を見つめる一つの瞳が鋭く輝く。
彼の口角がゆっくりと持ち上がった。
理由は明白だ。
今まさに、彼の最大の目的が完了したからだ。
彼の右眼は、スキル・アーツの完全な模倣を可能にする。
彼の左眼は、魔術・武器術の完全な模倣を可能にする。
「狂乱者、私の未来視を邪魔し続けた、お前はもう居ない……」
稀代の魔術師である彼は、心の中に湧き上がる歓喜を抑えきれず。
その場を後にした。
彼の胸は高揚感で満たされていた。
長きに渡り追い求めた悲願が、ついに叶うと感じられる瞬間が迫っていたからだ。その感情は強烈で、魂の奥底から沸き上がるように震える。
「もう少し……もう少しだ。みんな待っていてくれ。みんな生き返る」
その声音は切実なものであった。
失ったものを取り戻すように。
その執着が、彼を突き動かし続けた。
「私は……みんなの旅は、終わらせない……終わらないんだ」
その声には、決意と狂気が混ざり合う。
物語の終わりを拒み。
永遠のループを作り出すという究極の目的。
それが、ついに成就しようとしている。
彼が唯一知る方法。
死の騎士:魔導原典書という名の膨大なエネルギー。
それを炉心に、完全なる死者の蘇生と、この時空を支配する。
すべてはそのために動いていた。
「永遠の冒険……終わらない世界……そのために私は何度でも……」
胸中に狂気と期待が込み上がる。
最後の地へと向かう。
物語を終わらせず、未来をも支配する為に。
それは彼の旅の最終章だったのだ。
もはや誰にも止められない。
それが彼の信念であり、悲願。
余りにも長い。
1000年にも及ぶ。
人の身では長すぎた旅路。
彼はただ願う。
過去の栄光を……
永遠に続く未来へ変える、と。
『ep121 考査戦② 閣下降臨 』 いつの間にか間違って消してたようです。挿入し直しました。申し訳ありません。




