ファミリーヒストリーで取り上げられたら、ややこしい事になる一家
セブン・シンズを抹消した俺は極光との融合を解除した。
「やべ……」
脚がよろけると、息を切らせた。
目の前がチカチカと光る。
鼻血が、ツ―――――っと伝う。
何分やっていた?
わからん。
「アイツ、もっと簡単にやれると思ったのに。めんどくせぇ事しやがって」
精神支配を受けて、体感時間が無茶苦茶だ。
意識の中に残る混乱は、頭をぐるぐると回らせる。
本来俺の終末の騎士への脳内プランはこうだった。
―――――――――――
俺「最強の切り札。超火力の核撃! くらえ!」
シューン! ドカーン!
ババババ! ドーン!
―――大ダメージ!―――
狂乱者「う、うわ~。つ、強すぎるぅぅぅ~」
ジャキン! ジャキン!
―――真っ二つ―――
狂乱者「どぎゃ――――!?」
俺「ふ。俺の勝ちだぜ」
狂乱者「ま、負けたぁ~」
~ Fin ~
―――――――――――
だったのだ。
これは上手く行った訳だが。
いらぬ精神攻撃を受けせいで頭の混乱が取れないのだ。
崩壊した宮殿の中で―――
よろけた脚を奮い立たせ、再び歩き出す。
まだ、ボルカー戦が終わっていないからだ。
火事を防ぐように雨が降り始めていた。
湿った空気が肌にまとわりつき、耳元でささやくように小雨の音が響く。
「なぜ、あんな魔物が……グリーンウッドの時もそうだった。なぜあんな超級の魔物がこんなタイミングで……」
極光を呼ぶと現れる気がする。
作為的なモノを感じる。
まるで、操作されているような。
妨害されているような……
そんな事を考えていると、ふいに声がかけられた。
「こちらにいらっしゃいましたか」
「フラン」
彼女は俺に駆け寄ると肩を貸した。
「お身体に触りますよ」
「少し回復を頼む」
再びボルカー戦に向かう前に彼女に応急処置を手配する。
「かしこまりました」
彼女は、ボルカー戦にて負った損傷箇所や疲労を癒すように俺の身体に手を当てた。心地よい温もりが広がり、少しだけ頭の中の混乱が薄れる。
しばし、小休憩を取る事にする。
ふと、フランが口を開くと。
「私の前世の又従姉妹が、お手を煩わせてしまいましたね」
コイツの身体の素体の魔物の一部である同種。
セブン・シンズはどうやら親族らしいわ。
魔獣とか魔物にも親族関係ってあるんだね。
「親戚っていうのはマジ?」
「ええ。人で例えると、似たような表現になりますね」
へ、へぇ~。魔物の生態系とか考えた事なかったわ。
「父親とか母親とか居るの?」
「居ませんわ」
「親戚じゃないじゃん」
彼女は考え込みながら続ける。
「同じところ、ご近所から生まれたのです」
「ご近所さんじゃん」
「いいえ。同じところから生まれたのです。なので親族です。人で例えると」
「ええぇ」
彼女はそう言うばかりであった。
すると、先程とは異なる事を言い出す。
「いえ、お父様でありお母様は居ますわ」
「なんだ居るのかよ。どんな魔物なの?」
「魔物ではありません」
「え? じゃあなんだよ」
「ご主人様ですわ」
彼女は俺の顔を見つめた。
「は? 俺?」
「はい。私をお造りになった、ご主人様が私の敬愛するお父様でありお母様という事になります」
「ええぇ。それは違うだろ」
「いえ。ご主人様が私の親族ですわ」
「いや、マッドサイエンティスト俺がお前を造ったのは事実だけど。だってそうなると……」
戦略級の超級の魔物『セブン・シンズ』は、俺の遠い親戚という事になってしまう。
えーっと。情報をまとめてみよう。
俺の遠い親戚という設定の香乃。
香乃は、この世界の元勇者様。
天内傑が俺で……
俺の娘みたいな事を言い出したコイツはフラン。
フランを造ったのは俺なので、娘という事になっても間違いではない。
そうすると天内フランという事になってしまう。
フランの親戚には魔物も該当する。
遠い親戚にセブン・シンズのような超級の魔物も居る訳だ。
いやいや。待て待て。そうなると親族関係が無茶苦茶だ。
天内家が複雑な家庭になってしまう。
異世界転生した俺。
伝説的な英雄である元勇者の香乃。
戦略級の魔物の素体を持つフラン。
情報の設定だけ羅列すると。
天内家だけで、世界征服に乗り出せる可能性を秘めている。
なによりNHKのファミリーヒストリーで取り上げられた場合、説明が出来なくなってしまう。
あくまで設定の話だけど。
話を戻そう。
俺は顔を引きつらせながら。
「悪いな。お前の親戚、消し炭にしちゃったわ」
「お気になさらず。塵は塵に、本来深淵から出るべきではない残滓でしかありません。ご主人様の障害になろうなど、目障り以外の何物でもありませんわ」
彼女は何でもないようにそう言う。
「ヒュー」と、俺は口笛を吹いた。
中々に非情だな。
近しい存在であっても。
魔物の世界ではどうでもいい事らしい。
彼女は言葉を続ける。
「しかし、やはり予兆はありましたね。不穏な気配があったので、待機して良かったです」
「ん? どういう意味?」
「来るかもな、という予感があったので、あるべき場所で待っていたのです。勿論仕事を終えてですが」
彼女は含みのある言い方であった。
「親戚の話?」
「そうです。それに、あの蜘蛛を呼び寄せた者が居ますわ。確実に」
「なに?」
「強大な力を持つ召喚士がこの地に居ます。確信しました。私の又従姉妹を呼んだ者が間違いなく潜んでいますわ」
「詳しく聞かせろ」
フランの目が真剣になり、まるで闇を照らす光のように輝く。
「では、」




