希望と絶望
/3人称視点/
時のよすがに導かれる存在。
それは、まるで泡沫の夢のようであった。
多くの人々が、天に現れた光に目を見開き、言葉を失った。
――― 極光の騎士 ―――
それは、伝説に語り継がれる黄昏の大英雄。
時の彼方に埋もれ、忘れ去られた遥か昔。
かつて世界が闇に沈もうとしていた時代。
幾千もの困難と悲劇の先に、ただ一筋の光明として現れたと語られる存在。
寓話やおとぎ話に語られる。
今では、笑い話にすぎないと。
その存在はもはや語り継がれるだけの、誰もが信じるには遠すぎる神話の一部でしかなかった。
ただ、人々の心に残るのは。
白金に輝く甲冑を纏い。
光り輝く剣を振るう姿のみ。
単なる作り話なのか?
その英雄は実在したのか?
どんな顔なのかすら誰もその答えを知らない。
しかし、何もかもが消えゆくその時。
再びその者が現れると。
闇の中に一筋の光が射すと。
そう信じる者も少なくない。
彼の伝説は今もなお、時を超え語られる。
人々の心に一筋の希望の光を灯し続けていた。
希望の象徴であったのだ。
その姿は闇の中で迷う魂たちに光明を指し示す羅針盤。
一筋の光の道標。
そして今、再び世界に闇が迫り。
その手が全てを覆い尽くそうとするその瞬間――
極光が輝いたのだ。
プライマの地――。
戦火に焼かれ、絶望が大地に満ちる。
死と荒廃が支配するその地を、塗り替えるかのように――
――― 遍く世に極光が照らし出される ―――
星々が渦を巻き。
まるで天が裂けたかのように天空が眩い光を放つ。
その中心には、一つの白き影。
白い外套を翻し、風に舞う柔らかな白髪をなびかせる青年の姿。
まるで天上から舞い降りた使者のように。
周囲に鮮やかな虹色の環を背負って現れた。
その顔は輝きに包まれ、窺い知ることはできない。
だが、その姿は人々に希望をもたらし。
絶望が支配する地に、再び光が差し込む。
・
・
・
ガリアの宮殿――
すべてが終わりを迎えようとしていた。
崩れ落ちる壁、割れたガラス、炎に包まれた大地。
まるでこの世界そのものが悪夢のように崩壊し。
希望の欠片すら消え失せてしまったかのような絶望的な光景。
そしてその中に、人の悪徳を映し出す悪の象徴が顕現した。
それは――黒く歪んだ。
禍々しい規格外の蜘蛛のような姿をした魔物。
『七つの罪の代弁者』
規格外の魔物は宮殿を覆うほどの大きさであった。
七つの脚、それぞれに異なる人の目を持ち。
その瞳から放たれる光は死を、絶望を、無力を映し出す。
禍々しい影は、周囲の空気と生命力を奪う呪いの塊。
巨躯が動く度に、空気が震え、大地が裂ける。
魔物が動く度、絶望の「色」が染み渡っていく――。
脚の一つの瞳は「憤怒」 の炎を灯し。
心の奥底に潜む怒りを炙り出し燃え上がらせる。
また異なる脚の瞳は 「強欲」 の冷酷さを示し。
目の前の命を奪い去る。
脚が動くたび、周囲の空気が変わり。
それぞれ異なる地獄に変える。
崩壊した宮殿の中 ―――
瀕死のマリアは、力なく倒れ伏していた。
彼女の体は血に塗れ、片目は腫れ上がり、光を失っていた。
治癒師のミミズクが彼女に駆け寄り、必死に応急処置を施す。
瓦礫が落ちる。
崩壊は止まらない。
ミミズクはマリアを後ろに抱え、崩れる瓦礫の中を逃げ惑う。
逃げ場を奪うように―――
2人の天命を悟らせるように。
黒き絶望の化身と鉢合わせする。
―――眼が合った。
「死ぬの? 嫌だ……」
ミミズクは恐怖した。
足元が震える。
圧倒的なまでのプレッシャーで動けなくなったのだ。
彼女の目の前には、巨大な脚が迫り、一つの瞳が不気味に彼女を見据えている。
その瞳から放たれる冷徹な意志に、彼女は無力感を覚える。
逃げ場など無い。
どこに逃げても、絶望の影は確実に追い詰めてくる。
心の底から感じた死。
意志を持つ呪いが放たれる―――
恐怖と絶望が身体を支配した瞬間。
身体の中で何かが蠢くような。
だが、その時―――色鮮やかな眩い光に包まれる。
闇の中に差し込むひと筋の光。
闇が打ち砕かれていく。
跡形も無く消えていく。
その光景は、まるで教会のステンドグラスに映し出された奇跡の一瞬のようであった。
マリアの腫れた眼に一筋の光が射し込んでいた。
「遅いのです……本当に……良かった……生きていて」
彼女はかすれた声でそう呟いた。
それは、確かに彼女が信じ、待ち続けた希望そのものだったのだ。
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