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疫病 支配 ×戦争 飢饉 死  



 俺と風音の猛攻の中でボルカーはまだ立ち向かって来ていた。


 ……気分が悪い。目の前が歪んで見える。 

 マズイな……予想よりも長引いてしまっている。

 ぶっちゃけ地味に俺の身体がやばくて笑う。

 

 限界を超えた技量を使用し過ぎて脳みそが沸騰しそうだった。

 

 眼の端で風音が慎重に聖剣を振るう。

 魔人の皮膚を裂き、徐々にダメージを蓄積させている。

 けれど、HPゲージが視えないのがもどかしい。


 一体どこまで削っている?


 最終形態だ。この形態を打倒出来れば、理論上倒せるはず……

 

 この主人公……いつになったらボルカーを倒してくれるんだ? 俺の攻撃は殆ど通らないんだぞ!!


「グガァァァァァ!」


 ボルカーの咆哮は、もはや理性を失った獣のそれだ。

 高速で動くたびに衝撃波が生まれ、その度に甚大な被害が街を襲う。俺は攻撃を防ぐために周囲を切り刻んでいるし、風音の光線だって街並みを削っている。


 ――プライマの街並みは、もうボロボロだった。



 斬撃を放ちながら―――朦朧とする意識の中で、ふと、頭に(よぎ)る。



 ボルカーは無限に成長する。

 耐久力と破壊力を兼ね備えた怪物だ。

 QLSの性質上、時間を掛ければマズイ。

 対処不能になる。

 単純な戦闘以外の搦め手は即座に看破される。

 時間を止めるのも、呪いで心臓を握り潰すのも意味を成さない。


 ――ボスには、即死技の無効化が標準で備わっているからだ。

  

 対して―――

 風音は一度見た技を確実に学習し、聖剣による圧倒的なバックアップを誇る。聖剣から放たれる最大火力の光線は山を削るマップ兵器だ。

 

 さらに主人公が持つ時空間魔法。

 ゲーム内で時空間魔法は曖昧な取り扱いだ。しかし大まかに三つの能力に分類される。攻撃・防御・回避のどれかの特性を持っているのだ。

 

 前回の俺との戦闘を分析するに。

 この風音は『防御』か『回避』のどっちかを所有している。


 実のところ時空間魔法は、ゲームシステムに干渉した能力であり『巻き戻し(C)』が起こっている説がある。ノベルゲームでよくある『ルート分岐』そのものが時空間魔法なのでは? という掲示板の考察勢にによる推測だ。正直わからない。これは俺の理解を超えた所なので確証はない。

 

 さらに加えて。チート級の『主人公補正』と言う名の絶大な運命力の加護がある。これは運命が味方をする特性。どれほどの困難な状況や、倒せないと思わせる敵や能力を因果レベルで斬り伏せてしまう。

 

 つまりラッキーマンである。

 

 だが、全てに穴が存在している。


 この世に無敵は存在しない。


 風音だって負ける。ヒロインも死ぬ。

 なぜなら無数にバッドエンドが存在している。


 この世には、いくらでも『主人公が負けて終わる』シナリオが存在しているのだ。それが1つのシナリオとして『間違いではない』事実がある。

  


 逆説的に―――勝つシナリオが用意されているのならば、負けるシナリオすらも『物語の一つ』として保管されている。勝ち負けが同時に表裏一体として、どちらも正しい結果として介在している。 

 

 神の視点から語るのならば、物語の勝敗が正義や悪といった単純な二元論で決まる訳ではない。

 


『美しい勝利』と『絶望的な敗北』。

 この二つはどちらも正しいのだ。

 


 一番重要なのは物語のエンディングであり。

 『勝ち』『負け』の結果に正しさはなく、賛否は外野の反応でしかない。

 


 何より、無敵に近い主人公補正はある一定の許容量を超えた瞬間に瓦解する。それこそ主人公補正があっても『地球が滅んだ』や『人類が絶滅した』という環境要因が背景情報として引き起こされれば、その時点で負けとも言える。

 


 そして俺は知っている。

 

 

 主人公補正の突破口を。

 以前、ハリセンを使った『脅威にならない攻撃』もそうだが。

 

 もっと簡単な方法がある。 

 




 例えば―――『ヒロイン全員を皆殺しにする』


 



 主人公補正を持たぬ主要キャラクターを皆殺しにすれば、物語が破綻し、主人公補正は途端に効力を失う。ドラマの推進エンジンである役者そのものを皆殺しにし、戦う理由、守るべきモノを破綻させればいいのだ。

 

 

 それを実行した時点で―― 物語上のハッピーエンドという一つのシナリオ上では『負け』だと見なされるだろう。



 だから風音達や俺が最後まで勝ち残れる確証はまだない。

 

 俺はボルカーから大きく距離を取ると天を見上げた。――最も大きな障害が、ついに姿を現した。


「やはり……来たか。終末の2」


 遥か天空に浮かぶ、この世界最強の一角。

 


 終末の騎士:狂乱者(マニックストライフ)を感じ取った。

 

 

 コイツは『主人公補正』を容易く打ち破る。

 『物語そのものを破綻』させる力を持つ。

 精神魔法・幻術・幻覚・催眠能力に特化した神の如き存在。


 コイツの能力は―――『信頼できない語り手』を生んでも矛盾が発生しない。


 これはある種、『物語の枠組み』の外側と内側を行ったり来たり出来る力とも言える。

 

 つまり―――洗脳されていました。今までの出来事は夢でした。

 

 という『たった一行』で物語を『支配』してしまう。

 根本から全てをひっくり返す可能性を内包している。

 そんな事象を引き起こす事が出来るボスキャラ。

 それをしても矛盾が発生しないよう設計された存在。

 

 メガシュバ制作陣の悪ふざけで設計された(タチ)の悪い神だ。


 物語内で『強い』とか『弱い』の次元ではない。そういう尺度で語るモノではない。もう一個上なのだ。





 半分『第四の壁』を突破してしまっているから。




 

 それにだ。レベルの低い者はその洗脳下で『自害しろ』の一言で殲滅させられる災害の化身だ。


「クリフハンガーか……」


 この地に来ているという事実。

 残る魔人がボルカーのみという事実。

 破滅的な戦いが終盤に近付いているという事実。

 この物語が終局(エンディング)に近づいている証左。

 シナリオのタイミングはばっちりだった。


「このタイミングで現れるよな……やっぱり」


 覚悟を決めて天空に仕込んだ魔法陣を起動させる。

 約半年の間に仕込んだ核撃。

 3枚持っている切り札の1枚。

 そしてもう一枚の切り札を切る。

 ボルカー戦で温存していた『極光(ブラックナイト)』を呼び寄せる。


「おい! 聖剣使い!」

 俺は風音に向かって声を掛けた。


「え?」


「あとは頼んだ。用事が出来た」


「え!? ちょっと!?」 

 ボルカーの猛攻に耐える彼の困惑の顔が浮かんでいた。


「すまん」

 俺は頭を下げる。


「軽っ!?」

 風音は思わず俺にツッコんできた。

 

 いや、ほんとにすまん。


 だが、このタイミングで終末が高みの見物を洒落込んでいるという事は、ボルカーの命が間もなく尽きるという事だろう。


 というか、もう風音だけで倒せそうなほど削っていると思う。


 今は、アイツの方がヤバそうなのだ。

 本命も本命。終末の騎士。

 俺は、風音とボルカーに背を向けて天空に駆け出した。 


 計画に穴はない。

 俺はアイツを待っていた。

 出来ればこのタイミングを外して欲しかったが……


 何度もシュミュレーションしてきた。


「10秒以内に終わらせやる。あーでも……死んだら、わりぃ」


 虚空に向かって、一応みんなに謝っておいた。


 

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